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第十章 水曜日は乙女脳でチョロい(裏)

10-5話 昨日は兄がいろいろお世話に

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 楽しい映像音響部のふたりの先輩とお別れして、おれたちは図書室がある階へ向かった。

 神様チームの3神は、本よりもミステリー&お菓子研究会(のお菓子)に興味があるということで、階段を上がってからは左右に別れて、図書室に行ったのはおれとおれの妹ふたり(正確には今日の妹と真部岡恵留(まぶおかえる)さん)の三人だった。

 途中の、図書室の隣の部屋は、確かに「図書準備室」と書いてある、どうということのない、あまり使われたことがなさそうな部屋だった。

 夕景の中、席夜晴香(せきやはるか)さんは貸し出しカウンターでおれたちを待っていたみたいで、おれに気がつくとお辞儀をした。

「昨日は兄がいろいろお世話に、というかご迷惑をおかけしました」と、席夜さんは言った。

 昨日、強かったときの流奇奈紘季(るきなひろき)と勝負した剣道演劇部の副部長は、名前を席夜尚志(せきやひさし)と言って、席夜さんの実の兄だ。

 こちらの妹がいる世界では、副部長は流奇奈と試合をして負けただけで、流奇奈は昨日の妹とは戦っていない。それは多分別の世界線に、かつてはあった世界だが、可能性としてあったかもしれない世界は、おれが頑張って統一しているので、次第になかった世界になりつつあるのだ。

「まあ、迷惑をかけたのはおれの友だちのほうだけど、昨日はどうもありがとう。今日のおれに貸してくれる本とかないの?」

「うーん、恋愛関係とか、自己啓発的な本とか、偽科学的な本は、一応学校教育の施設にはそんなに置いてないのよね。スタンダール『恋愛論』とかどうかな」

 あまり役に立ちそうにないけど、と言って、席夜さんはカウンターを別の図書委員にまかせて、そういうののありそうなコーナーに案内してくれた。しかしコウテイペンギンやカタツムリの繁殖の仕方について調べても仕方がない。

 真部岡さんは映画の本のあるコーナーに行って、日本人の映画監督に関する本なんかを勝手に広げて読みはじめている。そういうのが好きなら、あとで市立図書館の本館のほうにでも案内してあげよう。映画に行くんじゃなくて図書館に行くというのが、恋人同士ではなくて兄と妹のおつきあいコースなのである。だいたい、おれの見たいような映画は、ショッピングモールにあるようなシネコン、デートコースの映画館ではやっていない(正確には、レイトショーの時間にはやってないこともない)。

 今度みんなでショッピングモールに行かない? とか、妹たちや席夜さんと話していると、奥の席にいて逆光で気がつかなかったふたりの人のひとりが立ち上がっておれに声をかけた。

「おまえらいつになったら物語部に来るんだよ! おれたちもう3日も待ってるんだよ!」

 その怒っているように見えた人は赤い髪の、どこかオオカミっぽい感じの、パンクファッションのお姉さんだった。

「え?」と、おれは言って、「あ」と、席夜さんは言った。
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