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第十章 水曜日は乙女脳でチョロい(裏)
10-1話 きみ、映画1000本ぐらい見てる?
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「うちの部活は、映画やアニメその他の動画を鑑賞して、分析して、自分たちで動画を作るのよん」と、山田さくら先輩は言った。
「お金がないので、基本的に映画は著作権が切れてるのを動画サイトで何度もチェックして、撮り方を研究するんだ。きみ、映画1000本ぐらい見てる?」と、小林美咲先輩はおれに聞いた。
「そんな新高校一年生、いるわけないじゃないですか! そりゃ、大学の映画研究会だと、メンバー募集に「入部条件・最低5000本」とかハッタリで条件つけてそうなところありそうだけど…」
「そうだよね。でもって、わたしたちのクラブは、100本の映画を10回見て映画を作るんだ。それじゃ、去年作った映画とその元ネタをサンプルにご覧いただこう」
「まず元ネタ、世界最初の映画のひとつとされている『工場の出口』。1895年にリュミエール兄弟が公開したものね」
妹は、神様チームの3神に、違う映画になったから来てみて、と声をかけた。
「ああ、これはなつかしいなあ。この、自転車に乗ってる人は撮影技師のフランシス・ドゥブリエさんで、ぼくはその前で先払いをしたんだ」と、流奇奈紘季(るきなひろき)は言った。本当かよ。
映画『工場の出口』は、仕事が終わって工場から出てくる、主に女工を撮った映画で、3種類のバージョンがあるんだけど、全部合わせても3分ぐらいのものだ。おれも何度か見ているけど…。
「これは面白いですね!」と、おれの妹は言った。今日の妹ははじめてだったのか。
「でしょでしょでしょー!」と、山田先輩は激しく同意した。
「この映画は、少し時代は違うけど、この音楽がなんとなく合うんだよな」と、小林先輩はピアノでスコット・ジョプリンのラグタイム音楽である「パイナップル・ラグ」を弾いた。1908年の曲。ちゃちゃんちゃちゃらららちゃらららーん、ばばーん、っていうの。
「次に見せるのが、去年の夏、私たちが作って秋の文化祭で発表した映画。『学校の出口』ってタイトルね」
*
…涙が出た。この、ほほを伝う熱い液体は、涙以外の何物でもない。
その映画は、学校が夏休みになる直前、一学期の終業式が終わって校門を出ていく生徒たちを写したものだ。3人組の女子がふたりとひとりになって、手を振って別れて、多分「また2学期に会いましょう」って言ってる。カップルと思われる男女で、たくましい男子は木刀振ってて(これは明らかに、昨日戦った剣道演劇部の副部長だ)、アイドル歌手か声優みたいにかわいい女子がオーバーアクション気味に笑っている。自転車に乗った男子が、同じクラスと思われる男子の数人の組に、じゃ、ってな感じで手を振ってる。手前から奥のほうに、夏服の女子、というより女児が、少し早足で走ってる。柔道部・野球部・水泳部などは部活のときのままの格好で出てくる。騎馬戦みたいに3人が下、ひとりが上のグループが歩いてきて、上の女子は帽子を振っている。吹奏楽部がマーチングして、最後に校長先生のものと思われる車が出てきて、校門が閉まりかけたところをあわてて戻る女子がいる(これは山田先輩だ)。
バージョン違いのが3つあって、全部合わせると10分ぐらいだから、リュミエール兄弟の映画よりは長い。
*
「『工場の出口』を意識した演出がいくつかありますね」と、おれは言った。
「そうなのよん。奥のほうへ走る少女、自転車、馬車のかわりの自動車、校門を閉める人と戻る人。残念ながらうろうろする犬は出せなかったけど。門を閉めてる人は私の兄で、この部の顧問の山田先生。じゃ、それのメイキングもお見せします」
山田先輩も妹だったのか。
「高校生じゃない特別出演の女児は、わたしの妹で、このときはまだ小学3年生だったなあ」と、小林先輩は言った。
*
「最初にスピーチをするのが部長の俊野詠美(としのよみ)先輩。当時はまだ副部長だったけど。男前だろ」
確かに。今日のおれの妹は乙女脳エンドルフィン出まくりの目で見ている。
「お金がないので、基本的に映画は著作権が切れてるのを動画サイトで何度もチェックして、撮り方を研究するんだ。きみ、映画1000本ぐらい見てる?」と、小林美咲先輩はおれに聞いた。
「そんな新高校一年生、いるわけないじゃないですか! そりゃ、大学の映画研究会だと、メンバー募集に「入部条件・最低5000本」とかハッタリで条件つけてそうなところありそうだけど…」
「そうだよね。でもって、わたしたちのクラブは、100本の映画を10回見て映画を作るんだ。それじゃ、去年作った映画とその元ネタをサンプルにご覧いただこう」
「まず元ネタ、世界最初の映画のひとつとされている『工場の出口』。1895年にリュミエール兄弟が公開したものね」
妹は、神様チームの3神に、違う映画になったから来てみて、と声をかけた。
「ああ、これはなつかしいなあ。この、自転車に乗ってる人は撮影技師のフランシス・ドゥブリエさんで、ぼくはその前で先払いをしたんだ」と、流奇奈紘季(るきなひろき)は言った。本当かよ。
映画『工場の出口』は、仕事が終わって工場から出てくる、主に女工を撮った映画で、3種類のバージョンがあるんだけど、全部合わせても3分ぐらいのものだ。おれも何度か見ているけど…。
「これは面白いですね!」と、おれの妹は言った。今日の妹ははじめてだったのか。
「でしょでしょでしょー!」と、山田先輩は激しく同意した。
「この映画は、少し時代は違うけど、この音楽がなんとなく合うんだよな」と、小林先輩はピアノでスコット・ジョプリンのラグタイム音楽である「パイナップル・ラグ」を弾いた。1908年の曲。ちゃちゃんちゃちゃらららちゃらららーん、ばばーん、っていうの。
「次に見せるのが、去年の夏、私たちが作って秋の文化祭で発表した映画。『学校の出口』ってタイトルね」
*
…涙が出た。この、ほほを伝う熱い液体は、涙以外の何物でもない。
その映画は、学校が夏休みになる直前、一学期の終業式が終わって校門を出ていく生徒たちを写したものだ。3人組の女子がふたりとひとりになって、手を振って別れて、多分「また2学期に会いましょう」って言ってる。カップルと思われる男女で、たくましい男子は木刀振ってて(これは明らかに、昨日戦った剣道演劇部の副部長だ)、アイドル歌手か声優みたいにかわいい女子がオーバーアクション気味に笑っている。自転車に乗った男子が、同じクラスと思われる男子の数人の組に、じゃ、ってな感じで手を振ってる。手前から奥のほうに、夏服の女子、というより女児が、少し早足で走ってる。柔道部・野球部・水泳部などは部活のときのままの格好で出てくる。騎馬戦みたいに3人が下、ひとりが上のグループが歩いてきて、上の女子は帽子を振っている。吹奏楽部がマーチングして、最後に校長先生のものと思われる車が出てきて、校門が閉まりかけたところをあわてて戻る女子がいる(これは山田先輩だ)。
バージョン違いのが3つあって、全部合わせると10分ぐらいだから、リュミエール兄弟の映画よりは長い。
*
「『工場の出口』を意識した演出がいくつかありますね」と、おれは言った。
「そうなのよん。奥のほうへ走る少女、自転車、馬車のかわりの自動車、校門を閉める人と戻る人。残念ながらうろうろする犬は出せなかったけど。門を閉めてる人は私の兄で、この部の顧問の山田先生。じゃ、それのメイキングもお見せします」
山田先輩も妹だったのか。
「高校生じゃない特別出演の女児は、わたしの妹で、このときはまだ小学3年生だったなあ」と、小林先輩は言った。
*
「最初にスピーチをするのが部長の俊野詠美(としのよみ)先輩。当時はまだ副部長だったけど。男前だろ」
確かに。今日のおれの妹は乙女脳エンドルフィン出まくりの目で見ている。
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