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第九章 水曜日は乙女脳でチョロい

9-2話 サンドイッチは利き手でないほうで持つのがマナーなんですよ

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(龍神さんの本体は、現在リンボーをさまよっています)と、ご神木の真那木沙振(まなきさぶれ)さんは、昼休みになる前に神の目とつながっている心の声で教えてくれた。

(キリスト教でいう辺獄ですね)

 真那木さんは、これが物語だったとしたら、だいたいの物語のシナリオ、つまり物語展開を結末まで知っているはずなのに、物語に関与することはない。おれの左目には真那木さんが事件の現場を見ることができる監視カメラ(神の目)がついていて、おれに心の声で話して指導することも可能なはずなんだけど、そういうこともしてくれない。つまり、流奇奈紘季(るきなひろき)と妹との決闘の場を作ることはしても(霧を張ったりドーム状の閉鎖空間を作ったりして)、どちらが勝つかも知っていなかったはずだ。

(こちらにいる龍神さんも、本体ではなくてそれの幻みたいなものです。ただ、それを反映させる力がかなり失われたので、今は普通の高校生なみの知力と体力しかありません。本体がいるリンボーは、私も何度か行ったことはありますが、暗くて、寒くて、広いところです)


 行ったことがあるのか、真那木さん。

(要するに、神は死ぬってことがないんだ)

(それはそうと、曽根地さんのおかげで私も少し大きくなることができました)

 真那木さんは手で丸を描いて、その円の中を鏡にして自分の姿を写しておれに見せてくれた。確かに、最初に会ったときは小学4年生ぐらいだったのが、今では小学校高学年か中学1年生ぐらいに見える。

 授業中の3神は、だいたいオートモードの幻影術を使って、真面目に授業を聞いたり、先生の質問に答えたりしているけど、おれの左目の解析力を「やや弱い」に設定すると、3人とも違うことをしているのがわかる。流奇奈はスマホでおれにはわからない言語の国のヒトもしくは神とテキストのやりとりをしてたり、田部良紅羅架(たぶらくらか)さんは分厚い工学系の専門書を広げてたりしていて、三絡克真 (みつがねかつま)さんはだいたい寝ていて、ときどき耳を動かす。神にとって高校の授業なんてまともに聞いていても仕方がないものなんだろう。

     *

 お昼の弁当に今日の妹が作ったのは三段重、と言っても田宮二郎じゃなくて、タテヨコ10センチのミニ重箱に入ったミニ三段重だった。一番上がサラダ系、二番目が炭水化物系で、一番下には親指ほどの大きさのミニおにぎり(俵型)である。大きさを4倍にすればちゃんとした運動会の家族ランチになるサイズだ。ミニおにぎりはゴマが乗ってるのと、細い海苔で巻いてあるのと、塩コンブが乗ってるのの3種類で、これが一番時間がかかったそうだ。

「あいかわらず直(なお)ちゃん、お兄さんにベタ惚れだねえ」と、おれと妹の友だちで、妹のクラスメートである冴野美登里(さやみどり)がからかったので、妹は少し頬を赤くした。確かに今日の妹はそうなんだけど、別の日の妹はそんなことはない。

 美登里はごく普通の女の子弁当で、真部岡恵留(まぶおかえる)さんは購買で買ってきたサンドイッチで、妹もおれの弁当は作ってても自分のは作る暇がなかったらしく同じようなサンドイッチ…。

「あーっ!」とおれは声を上げた。

「真部岡さん、サンドイッチを右手で持って食べてない?」

「ええ。ワタシは左利きなので。サンドイッチは利き手でないほうで持つのがマナーなんですよ。カードゲームしながら食べるものですから」

「へえ、そうなんだ、エリーちゃん頭いいのね」と、妹は言った。

 そんな妹は両手でサンドイッチを、リスのように持って食べている。ちなみにリスは片手持ちはできない。

 普通サイズになった流奇奈は、昔の牛乳瓶みたいなのに入ったうす青い液体を飲んでいる。液体の中には、青くてきらきらした粒が混じっている。この世界に残した龍神様の破片だ。それ飲んでると少しは元の体に戻れるのが早くなるんだろうな。

「ところで、流奇奈は、というか龍は珍味なんだって?」と、おれは聞いた。

「ああ。こっちのプラスチック・ケースにたくさん入れてあるから、みんなが食べても、ぼくはかまわない」と、流奇奈は言った。

 …ぼく?

 おれたちは、金平糖より小さいけれど同じような形の、青くてプリンよりは少し固い程度の龍神様のかけらをいただいた。確かに、酒のつまみなどには合いそうな珍味だった。

「ヒトが食べ過ぎると、夜眠れなくなるから気をつけて」と、流奇奈は注意した。

「あと、精力剤としても使えるらしいんだけど、それは多分嘘だろうなあ」と、三絡さんは補足した。
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