おれのふたごの妹はひとりだが6人いる

るみえーる

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第九章 水曜日は乙女脳でチョロい

9-1話 バッグは昨日の衛生兵バッグなんだな

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「お兄様、お目覚め下さい。朝の食事の支度が整っております」

 学校にギリギリ間に合う電車より1本前の電車の時間に合わせて、真部岡恵留(まぶおかえる)さんにおれは起こされた。金色と白の混じったオシャレっぽい服ではなくて、青と赤と白の混じったアメリカのスーパーヒーローというか、アメリカのハイスクールガールみたいで、髪もアップでまとめていて、すぐ登校できそうな格好だった。

「あ、そうか、真部岡さん、昨日はうちに泊まったんだっけ」

 今日の妹と、その友だちを含む世界は昨日の妹を知らない。この世界の真部岡さんは、昨日は勉強会をやったあと、風呂に入ったおれの(この世界の)妹と少し話をして、すぐに寝てしまったらしい。夜中の濃霧も、流奇奈紘季(るきなひろき)と妹との決闘も知らない。というより、この世界ではそんなことはなかったことになっている。

「ナオちゃんは朝早くから起きてお弁当を作ってますが、遺憾ながらギリギリの電車になりそうなので、ワタシたちが先に行くよう促しております。手が離せないとのことで、起こし役を委任されました」

 台所で働く今日の妹は、食卓で見えた限りでは緑色の髪と同系色の瞳で、同系色のミニのワンピースにエプロンをつけている。薄い白のニーハイソックスで、弁当の飾り付けに苦労をしているようだが、それが終われば多分出られるんだろう。

 しめた、とおれは思った。今日の妹は比較的簡単に攻略できるタイプだ。人当たりが良くて誰にも親切で、中学時代は男子に人気があった。おまけにおれを一番好きな妹なのだ。問題は少し脳が乙女すぎて、恋愛脳ぎみになってるところかな。

 電車の中では、同じ中学出身で同じ高校に通うことになった冴野美登里(さやみどり)と一緒になった。美登里の今日の服は、安い服の店でオシャレでない女子高校生が適当に買ったブラウスとカーディガンで、スカートが迷彩柄のところだけ個性を出している。デートに行くわけでもない、制服のない高校に通う女子の服としては比較的普通である。ひと月もしないうちに、ジャージとか寝間着で登校しはじめる男子もいるらしいけど、男子高校生はそういうものだ。なお、ゲタとアタッシェケースは、もらった生徒手帳の校則のページに、添付メモで原則禁止、って書いてあった。過去にそういう生徒がいたんだろうな。原則、と書いてあるところがこの高校のフリーダムなところである。

「バッグは昨日の衛生兵バッグなんだな」と、おれは言った。

「昨日って、なんで敏行は知ってんだよ」

 あー、この世界ではおれと美登里は昨日の夜に会ってないんだ。

 それから女子ふたりは昨日の夜の濃霧の話とか、髪型とか女子っぽい話をして(真部岡さんはそれも全然知らなかったらしく、奉仕部の美登里の昨晩の話を興味深く聞いていた)、おれは退屈なので昨日図書室で借りてきた本の読んでないところを読み始めた。電車で本を読んでいるような高校生は、いるにしても県内で一番の進学校の変人ぐらいなのだが、ローマ帝国史とか前後漢史とか、けっこう面白いんだよね。

     *

 教室に入ってみると、昨日の夜、昨日の妹に切られて成仏したはずの流奇奈はちゃんといた。

 ただし、大きさは男子高校生の平均より少し小さいくらいで、眼鏡はかけておらず、どちらかというととても話しかけやすそうな男子高校生で、流奇奈の前の席のモブ子、じゃなくて何だったかな、志摩根雪歩(しまねゆきほ)さんか、と楽しそうに会話をしている。流奇奈の隣の席の田部良紅羅架(たぶらくらか)さんはふたりの会話を聞いている。田部良さんの後ろの席の三絡克真 (みつがねかつま)さんは三人をアニメ風のスケッチで描いている。

「流奇奈、昨日決闘で負けて死んでたんじゃないの?」とおれが驚いて聞くと、流奇奈はおれにハグしてきた。

「くわしいことは昼休みに話そう」と、流奇奈は言った。
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