おれのふたごの妹はひとりだが6人いる

るみえーる

文字の大きさ
上 下
53 / 95
第九章 水曜日は乙女脳でチョロい

9-1話 バッグは昨日の衛生兵バッグなんだな

しおりを挟む
「お兄様、お目覚め下さい。朝の食事の支度が整っております」

 学校にギリギリ間に合う電車より1本前の電車の時間に合わせて、真部岡恵留(まぶおかえる)さんにおれは起こされた。金色と白の混じったオシャレっぽい服ではなくて、青と赤と白の混じったアメリカのスーパーヒーローというか、アメリカのハイスクールガールみたいで、髪もアップでまとめていて、すぐ登校できそうな格好だった。

「あ、そうか、真部岡さん、昨日はうちに泊まったんだっけ」

 今日の妹と、その友だちを含む世界は昨日の妹を知らない。この世界の真部岡さんは、昨日は勉強会をやったあと、風呂に入ったおれの(この世界の)妹と少し話をして、すぐに寝てしまったらしい。夜中の濃霧も、流奇奈紘季(るきなひろき)と妹との決闘も知らない。というより、この世界ではそんなことはなかったことになっている。

「ナオちゃんは朝早くから起きてお弁当を作ってますが、遺憾ながらギリギリの電車になりそうなので、ワタシたちが先に行くよう促しております。手が離せないとのことで、起こし役を委任されました」

 台所で働く今日の妹は、食卓で見えた限りでは緑色の髪と同系色の瞳で、同系色のミニのワンピースにエプロンをつけている。薄い白のニーハイソックスで、弁当の飾り付けに苦労をしているようだが、それが終われば多分出られるんだろう。

 しめた、とおれは思った。今日の妹は比較的簡単に攻略できるタイプだ。人当たりが良くて誰にも親切で、中学時代は男子に人気があった。おまけにおれを一番好きな妹なのだ。問題は少し脳が乙女すぎて、恋愛脳ぎみになってるところかな。

 電車の中では、同じ中学出身で同じ高校に通うことになった冴野美登里(さやみどり)と一緒になった。美登里の今日の服は、安い服の店でオシャレでない女子高校生が適当に買ったブラウスとカーディガンで、スカートが迷彩柄のところだけ個性を出している。デートに行くわけでもない、制服のない高校に通う女子の服としては比較的普通である。ひと月もしないうちに、ジャージとか寝間着で登校しはじめる男子もいるらしいけど、男子高校生はそういうものだ。なお、ゲタとアタッシェケースは、もらった生徒手帳の校則のページに、添付メモで原則禁止、って書いてあった。過去にそういう生徒がいたんだろうな。原則、と書いてあるところがこの高校のフリーダムなところである。

「バッグは昨日の衛生兵バッグなんだな」と、おれは言った。

「昨日って、なんで敏行は知ってんだよ」

 あー、この世界ではおれと美登里は昨日の夜に会ってないんだ。

 それから女子ふたりは昨日の夜の濃霧の話とか、髪型とか女子っぽい話をして(真部岡さんはそれも全然知らなかったらしく、奉仕部の美登里の昨晩の話を興味深く聞いていた)、おれは退屈なので昨日図書室で借りてきた本の読んでないところを読み始めた。電車で本を読んでいるような高校生は、いるにしても県内で一番の進学校の変人ぐらいなのだが、ローマ帝国史とか前後漢史とか、けっこう面白いんだよね。

     *

 教室に入ってみると、昨日の夜、昨日の妹に切られて成仏したはずの流奇奈はちゃんといた。

 ただし、大きさは男子高校生の平均より少し小さいくらいで、眼鏡はかけておらず、どちらかというととても話しかけやすそうな男子高校生で、流奇奈の前の席のモブ子、じゃなくて何だったかな、志摩根雪歩(しまねゆきほ)さんか、と楽しそうに会話をしている。流奇奈の隣の席の田部良紅羅架(たぶらくらか)さんはふたりの会話を聞いている。田部良さんの後ろの席の三絡克真 (みつがねかつま)さんは三人をアニメ風のスケッチで描いている。

「流奇奈、昨日決闘で負けて死んでたんじゃないの?」とおれが驚いて聞くと、流奇奈はおれにハグしてきた。

「くわしいことは昼休みに話そう」と、流奇奈は言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本入れ替えグルメ旅・られた肥後褐牛死体一頭食べ尽し

蓮實長治
ミステリー
「あれ? この死体の様子、遺族が言ってた事と食い違いが有りますよ?」 変死体の検死を行なっていた監察医は不審な点に気付くが……? 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...