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第八章 火曜日は塩サバ
8-2話 一応メールで連絡したんだけど、見てなかったかな
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霧は濃く、2メートル以上先は懐中電灯で照らしても見えなかったけれども、おれの前後左右2メートルぐらいは道案内をしてくれているように先が開け、おれのあとを奉仕部の冴野美登里(さやみどり)と元ボランティア部の真部岡恵留(まぶおかえる)さんが並んで歩いた。
美登里は夜間に道路で働く人みたいな格好をしていて、肩から昔の衛生兵みたいな厚い布のバッグをかけて、もう眼帯をしなくても大丈夫な目で、幻想的な風景を感心しながら眺め、真部岡さんは北軍の行進曲「ジョニーが凱旋するとき」を歌っていた。おれの気分は旧ソ連の領土に侵入したB-52の機長である。
真部岡さんは4番まである歌をアメリカン英語で歌い、「アンド・ウイル・オール・フィール・ゲイ、ウェン・ジョニー・カムズ・マーチング・ホーム」のところは「もう一回!」と言っておれたちに3度×4回歌わせた。これは日本人には難しすぎる。
そうこうしているうちに、おれたちは極北橋の近くまでたどり着いた。橋は20メートルほどの長さで、その周囲は直径60メートルほどの半透明で半球形のドームのようなものでおおわれ、薄い紫色の膜を通るときには少し電磁波的な痺れを感じた。中に入ってみると霧はさえぎられていて、向こう岸まできれいに見ることはできた。ただ、ドームの上のほうはもやもやと霧に包まれていて、星も月もさっぱりわからない。散った桜の花びらが、川を桜色に染めて流れていたので、シールドとしてのドームは機能が限定されているんだろう。川沿いの街灯も普通に点灯していたし、スマホの画面も見られる。
おれたちは橋に西のほうから近づいて、超越川の西側、極北橋の下流のベンチに座った。鉄と木のベンチが交互に並んでる木のほうの(古い)ベンチで、おれの右側には真部岡さん、左側には美登里で、お互いホットドリンクを飲んでいる。真部岡さんはおれが選んだホットイチゴバナナミルクコーヒーで、美登里は自分で選んだと思われるホットメロンマスカットティーだ。きのうの美登里の眼帯はもういらないみたいだけど、今日の真部岡さんが眼鏡女子である。
武人である今日の妹は学校指定のジャージを着込んで、橋の西側のたもとにいて、剣を下段に構えている。剣というより木刀に見える魔剣である。普段はただの木刀で、ヒトに使う場合でもただの木刀だけど、妖魔や邪神には一撃必殺の魔封じ・破邪の剣となる。代償はその代わり、ヒトが使う場合は大きい。木刀に見える魔剣は、その時も手のひらからだらだら流れている今日の妹の血を吸って薄赤く、脈動しているような感じで光っていた。
昭和の時代のアニメなら、空には自衛隊のAH-1S夜間戦闘仕様などが飛び回り、アナウンサーが川岸から実況中継して、県警のパトカーが数十台来ているところだろう。しかし今のところ濃霧警報・注意報すら出ていない。翌日にひまネタニュースぐらいにはなるかもしれないぐらいのものだ。
今日の妹は約束の時間より30分ほど早く来ていたのに対して、決闘の相手の流奇奈紘季(るきなひろき)は5分ほど遅れて、神様チームの他のふたり(田部良紅羅架(たぶらくらか)さんと三絡克真 (みつがねかつま)さん)と一緒に現れた。
「いやー、悪い悪い、一応メールで連絡したんだけど、見てなかったかな」
「そんなものは知らん」と、今日の妹はデートで一時間ぐらい待たされた恋人のような口調で言った。
流奇奈の格好は和装にたすき掛けで、手にしている武器は、きょう剣道演劇部からもらった、ものすごく長い木刀だが、それは薄青く光っていた。その光は、今日の妹が手にしている魔剣の赤い輝きと呼応して、次第に強くなった。
美登里は夜間に道路で働く人みたいな格好をしていて、肩から昔の衛生兵みたいな厚い布のバッグをかけて、もう眼帯をしなくても大丈夫な目で、幻想的な風景を感心しながら眺め、真部岡さんは北軍の行進曲「ジョニーが凱旋するとき」を歌っていた。おれの気分は旧ソ連の領土に侵入したB-52の機長である。
真部岡さんは4番まである歌をアメリカン英語で歌い、「アンド・ウイル・オール・フィール・ゲイ、ウェン・ジョニー・カムズ・マーチング・ホーム」のところは「もう一回!」と言っておれたちに3度×4回歌わせた。これは日本人には難しすぎる。
そうこうしているうちに、おれたちは極北橋の近くまでたどり着いた。橋は20メートルほどの長さで、その周囲は直径60メートルほどの半透明で半球形のドームのようなものでおおわれ、薄い紫色の膜を通るときには少し電磁波的な痺れを感じた。中に入ってみると霧はさえぎられていて、向こう岸まできれいに見ることはできた。ただ、ドームの上のほうはもやもやと霧に包まれていて、星も月もさっぱりわからない。散った桜の花びらが、川を桜色に染めて流れていたので、シールドとしてのドームは機能が限定されているんだろう。川沿いの街灯も普通に点灯していたし、スマホの画面も見られる。
おれたちは橋に西のほうから近づいて、超越川の西側、極北橋の下流のベンチに座った。鉄と木のベンチが交互に並んでる木のほうの(古い)ベンチで、おれの右側には真部岡さん、左側には美登里で、お互いホットドリンクを飲んでいる。真部岡さんはおれが選んだホットイチゴバナナミルクコーヒーで、美登里は自分で選んだと思われるホットメロンマスカットティーだ。きのうの美登里の眼帯はもういらないみたいだけど、今日の真部岡さんが眼鏡女子である。
武人である今日の妹は学校指定のジャージを着込んで、橋の西側のたもとにいて、剣を下段に構えている。剣というより木刀に見える魔剣である。普段はただの木刀で、ヒトに使う場合でもただの木刀だけど、妖魔や邪神には一撃必殺の魔封じ・破邪の剣となる。代償はその代わり、ヒトが使う場合は大きい。木刀に見える魔剣は、その時も手のひらからだらだら流れている今日の妹の血を吸って薄赤く、脈動しているような感じで光っていた。
昭和の時代のアニメなら、空には自衛隊のAH-1S夜間戦闘仕様などが飛び回り、アナウンサーが川岸から実況中継して、県警のパトカーが数十台来ているところだろう。しかし今のところ濃霧警報・注意報すら出ていない。翌日にひまネタニュースぐらいにはなるかもしれないぐらいのものだ。
今日の妹は約束の時間より30分ほど早く来ていたのに対して、決闘の相手の流奇奈紘季(るきなひろき)は5分ほど遅れて、神様チームの他のふたり(田部良紅羅架(たぶらくらか)さんと三絡克真 (みつがねかつま)さん)と一緒に現れた。
「いやー、悪い悪い、一応メールで連絡したんだけど、見てなかったかな」
「そんなものは知らん」と、今日の妹はデートで一時間ぐらい待たされた恋人のような口調で言った。
流奇奈の格好は和装にたすき掛けで、手にしている武器は、きょう剣道演劇部からもらった、ものすごく長い木刀だが、それは薄青く光っていた。その光は、今日の妹が手にしている魔剣の赤い輝きと呼応して、次第に強くなった。
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