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第八章 火曜日は塩サバ

8-1話 研究所の実験失敗で、魔界の門とかでも開いちゃったのかな

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 超越市はもともと南北に長い、関東平野によくある小都市だったところを、おれたちが住む極北市を含む周辺と21世紀になって大合併をおこない、歪んだ台形のような、大きさだけはある小都市になった。

 おれと妹が通う高校は、県立超越西高校という名前だ。別に現在の超越市の西にあるわけではない。市のやや西側(旧超越市のほぼ中央)を南北に流れている超越川から見ると、やや西側に建っており、まあ強いて言うなら西かな、みたいな感じだ。

 超越川は先のほうでもっと大きな川とつながっている。しかしそんなに川幅も流れる水の量も大きくはない。もともとは江戸時代に、水路による物流と農業用水路のために作られたものだ。

 極北橋は、おれと妹の家の東側にあり、おれと真部岡恵留(まぶおかえる)さんは、コンビニに立ち寄っても歩いて10分ほどの場所にあるその橋へ、ほぼ深夜にもかかわらず行くことにした。その橋で今日のおれの妹と、神様チームのリーダーでめっちゃ強い流奇奈紘季(るきなひろき)とが決闘する予定なのだ。

「今夜の月はきれいですねえ」と、おれは真部岡さんに言った。

「そ、そんなこと、粛然(しゅくぜん)と言われても困ります」と、真部岡さんは少しもじもじした。

 あっそうか、とおれは気がついた。

「しかし、今夜の真部岡さんのほうがもっときれいです。それはともかく」

 昭和の時代なら、なんちゃって、と言うところだが、それはともかく、風呂のハーブは真部岡さんが今日の午後、剣道演劇部の一件が終わったあとに化学茶道部に行って入手してきたらしい。

「頭がおかしい部長の先輩いなかった?」

「淑(しと)やかで懇篤(こんとく)そうな副部長がいました」

 化学茶道部の部員は3人いるんだけど、3人がだらだらとゆるゆり、じゃなくてゆるゆるな会話をしていると、一見さんはなかなか入りにくいから、ということで、今週は当番でひとりずつ茶室兼実験室にいることにしたらしい。

 おれたちはコンビニで、お前はこれを飲めゲーム的に飲み物を買った。これは、自分が飲みたいものではなく、相手が飲みたいだろうと思われるものを選んで買ってあげるやりかただ。恋人同士とか敵同士ではやらないほうがいいですよ。仲が悪くなったり嫌がらせ・いじめになるだけだから。まあ、友だち同士(本当は異性ではなく同性の)ならいいかな。

 真部岡さんが選んだのはホット乳酸菌飲料・抹茶入りで、おれが選んだのはホットイチゴバナナミルクコーヒーだ。自分で飲むものなら、お互い絶対こんなのは選ばない。

「ミドリとハルちゃんにも、今夜の件についてはメールしておきました」と、真部岡さんは言った。

 ミドリというのは奉仕部でおれの友だちの冴野美登里(さやみどり)で、ハルちゃんというのはおれを図書室で待っていた席夜晴香(せきやはるか)さんだ。

「ミドリは「行く行く絶対行く走っていく」って返事で、ハルちゃんは「私の家からは遠くて終電なくなるし、人の家に泊まったことないから無理」って返事でした」

 席夜さんがホームで「それじゃ、明日また会いましょう」と言って別れたのは、今晩は会えないから、という意味だったんだな。

 川のほうからは霧が流れていて、川に近づくにつれてそれは濃くなり、先が見えにくいほどになってきていて、橋の手前では道路封鎖がおこなわれていた。この橋は通れないので迂回してください、と誘導しているのは、奉仕部の腕章をつけた人たちで、その中には「安土組」と書いてある半纏を着込んだ安土知恵美(あづちちえみ)さんほか、昼間バスケ勝負をした先輩たちもいた。

「なんかさあ、極北橋のほうに行こうと思っても、この霧のせいで全然無理なんだよね。研究所の実験失敗で、魔界の門とかでも開いちゃったのかな」と、おれたちを待っていた美登里が言った。

 真那木沙振(まなきさぶれ)さん仕事してるな、とおれは思った。これが実写映画なら、霧作ってエキストラ出すだけでも大変だろう。

「大丈夫、おれなら通れるから、おれのあとをついてきてくれ」
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