おれのふたごの妹はひとりだが６人いる

第六章 火曜日はサディスト

6-1話 どうせまた、スーパーヒーローの話か、ハーレムアニメみたいな話を考えてたんでしょ

　妹にばしばし、と竹刀で叩かれたうえ蹴飛ばされたのは、おれが目覚ましをセットしていた数分前で、その日の妹は赤い髪の毛で武人のサディストだった。

「遅いから先に行く。昼食で会おう」と言い残して、授業開始には30分は余裕で間に合う電車に乗ることにしたらしい妹が作っておいた弁当に、きのうのロールキャベツは入ってなかったので安心した。弁当のおかずにはあまり向いていないんだよね、あれ。

　妹がいないときに火を使うのは始末が気になるので（認知症の老人みたいである）、多分朝に温めてあった生ぬるいロールキャベツの残りをカレー皿に入れてパンを浸しながら食べていると、ちょうどいい電車に間に合うような時間になった。

　これからおれは残りの５人の妹を始末、じゃないな、成仏させなければいけないのだ。しかし今日の妹は最強なので、どうやったらいいのか考えてしまう。あと、これから先の展開も。

　おれは駅までの道を歩きながら、それから電車の中で考えた。

　そもそも、この話は、もしこれが物語だとしたら、どういう風に進むんだろう。物語の中だったら何でもあり、ということにはなるけど、これはおれがテロリストに襲われて真犯人を見つけるまで８分間の時間の中をループするような話ではない。

　ハリウッド映画的ハッピーエンドなら、６人の妹を成仏させる前にいろいろ障害があって、典型的な悪役キャラ、ヴィランというのがいて、そいつは火で焼かれて、おれと本当の妹は結ばれてハッピーエンド。きょうだいで結ばれるわけにはいかないから、今のところ考えられるのはご神木の神様である真那木沙振（まなきさぶれ）さんかなあ。でもあの人、じゃなくて神様はシンデレラの話における名づけ親の魔女、ゴッドマザー役だから、一番かわいい三絡克真 （みつがねかつま）さんでもいいや。でもあの子、じゃなくて神様は長靴をはいた猫役だから…とすると、ヒーローに憧れている中学時代からの友だちの冴野美登里（さやみどり）か。でも彼女、じゃなくてあいつは典型的なふられ役の幼なじみポジションだし。消去法で考えていくと妹と同じクラスであまり細かいこと知らない真部岡恵留（まぶおかえる）さんか席夜晴香（せきやはるか）さんだな。いずれそのうち、話が進むにつれていろいろなことがわかるんだろう。

　日本の、これはハーレムアニメだな、もしこれが物語だったとするなら。それなら１話で新しいクラブを作ることになって、３話か４話ぐらいで主要な登場人物の誰かが死んで、５話か６話で転校生が来て、７話か８話が温泉回か水着回で、９話か10話で最後から２番めの敵の幼女が倒されて、11話か12話で物語の真の敵である姉が姿をあらわして、ラストシーンは止めのカットで「私たちの日常はまだまだ続くのです」みたいなナレーションが入る。劇場映画版ではその姉が味方になってくれて宇宙からの侵略者と戦うんだっけ。

　これはちょっとメモしておかないといけないな、と、スマホのメモ機能でちょこちょこと書いてたら、歩きスマホはやめろよ、と、美登里に声をかけられた。気がついたら駅を降りて学校までの道を歩いていた。

「え？　いつからお前いたの？」

「きのうの夜から。というのは嘘で、電車に乗ってからだよん。全然気がつかないもんだから、ずっと観察してた。どうせまた、スーパーヒーローの話か、ハーレムアニメみたいな話を考えてたんでしょ」

　その通りなので答に困る。