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第四章 月曜日は普通じゃない(裏)

4-2話 このクラブはもうおしめえだ

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「あたしの名前はマコトで、摩殊って書きます」と、アルパカっぽい茶道部部長の時尾先輩は丸っこい字をスマホのメモに書いて教えてくれた。

「友だちとかは、まとっち、とか、まとちゃん、とか呼んでるんだけど、君たちは友だちでも敵でも下僕でもないから、時尾先輩でいいよ」

 その名前もベタっぽいんだが、細かいことはどうでもいい。

 時尾先輩は部屋の窓とその外の簾を上げながら説明しはじめた。

「この部室の南側は弓道部の練習場、その先が体育館で、天気の日には弓の音やバスケの練習の音が聞こえます。でもって、北側はテニスコートで、テニスボールの音や、グラウンドを走る運動部の声が聞こえます。西側は床の間の向かって左のところに窓があって、そこからは竹林が見えていて、天気の日にはスズメが来ていてうるさいです。特に朝がうるさいらしいんだけど、あたしたちは滅多に朝練とかしないので知らない」

 三方向からぐるぐる回った吹雪の風が吹き込んできて、その寒いのなんの。狐神の田部良紅羅架(たぶらくらか)さんが起こす火というのはリアルの火なので、室内を温めるにはあまり向いていない。

 時尾先輩は、音を立てて窓を締めながら言った。

「要するに…このクラブはもうおしめえだ。こんなところにいるとロクなことにゃなんねえ」

 そこでおれはわかった。

「この部室は気に入った。腰を据えるぞ」

「えーっ…すごいじゃん、黒澤明『用心棒』見てんの? 「うるせぇぞ、こんちくしょう」ってのもやりたかったんだけど、今日はあんまり他の部活、うるさくないのよね」

「それはともかく、生徒会のほうから預かってきたものがあります。パセリとセージとローズマリーとタイム」

「うわあ、どうもありがとう。パセリとタイムとローズマリーとセージだ。生徒会のほうの藤堂さんの差し金だね」

 時尾先輩は薬草の名前は間違えなかったが、「差し金」の使いかたは間違っている。「差し入れ」かな。

 あと、藤堂明音(とうどうあかね)先輩はみんな藤堂さんって呼ぶんだ。

「そう言えば! なんで時尾先輩が、まことちゃん、とか、まこちゃん、って呼ばれてないかわかりました」

「????」

「まと・ときお、で、魔都・TOKIOだからでしょう」

 おれも自分の携帯端末のメモ画面に字を書いてみた。

「言われてみれば! 全然気がつかなかったよ!」

「わたしたちはおまえと勝負しに来た」と、リーダーの流奇奈紘季(るきなひろき)が話に割り込んできた。

「わたしたちに負ければここは廃部というのが生徒会の考えである」

 そんなこと誰も言ってないと思うのだが、面白いのでしばらくこの方向で話を進めてみたい。

 妹からは「今日の晩ごはんはロールキャベツがいいです。材料買っておきます」というわがままなメールが来ていた。

 今回の妹の出番はこれだけである。
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