19 / 95
第三章 月曜日は普通じゃない
3-5話 先輩たちの「スカボロー・フェア」の解釈にはちょっと一言言いたくて
しおりを挟む
「わかりました。すべて我々におまかせください」と、流奇奈紘季(るきなひろき)は安請け合いをし、三絡克真 (みつがねかつま)さんは居眠りをし続け、田部良紅羅架(たぶらくらか)さんはうなづいていた。
「以上のことで何か不明な点はありますか?」と、生徒会副会長の樋裏聖(ひうらせい)先輩は質問したので、どう見ても人の話を真面目に聞いてなかったと思う妹の曽根地直(そねじなお)が手を挙げて質問した。
「あの…先輩たちはなんで歌の練習をしていたんですか?」
それはおれも聞きたかったことのひとつだ。
「ただの生徒会主催の新メンバー歓迎の余興です。歓迎会は今週の金曜日の午後を予定してます。部外者でも歓迎しますよ。お茶とお茶菓子代は自腹で、会場はこちら。新メンバーには全員余興をお願いする予定です」
携帯端末を見ていた新メンバーのひとりでもある冴野美登里(さやみどり)は派手に吹いた。
「あ、ごめん、まだ顧問の先生から新しい連絡名簿回って来てなかったんで。新一年生の人はまだ知らないですよね」
「うーん、歌か。わたしは最近の歌はよく知らないのだが」と、流奇奈は言った。
「別に歌じゃなくてもいいんですが…」
「昭和のでもいいのか? 「東京流れ者」とか」
「あっそれ知ってる! 「頼むから俺を怒らせないでくれ」だよね! デュエットしようよ」と、美登里は言った。
「ふっ、流れ者には女はいらないんだ、だぜ」
そんなのを知っている令和の高校生は滅多にいない。
だがもちろんおれも知っている。おれというか、親父のビデオコレクションで美登里はたっぷり調教してあるのだ。
「わかりました。でも、先輩たちの「スカボロー・フェア」の解釈にはちょっと一言言いたくて」と、妹は話を続けた。
*
「スカボロー・フェア」はもともとは古いイギリスのバラッドです。1960年代のその歌はサイモン&ガーファンクルのアレンジで詠唱がつけられて、なんとなく反戦歌っぽくなりました。
その中で歌われている4種の薬草、パセリは「勝利・死の前兆」、セージは「幸福な家庭」、ローズマリーは「貞節」、タイムは「勇気」という意味を持ち、男女に必要なものとされ、また一方では死刑台の下に生える草としての解釈もあります。
でも、さっき藤堂先輩が間違えたとおり、いや普通は間違えないんですけど、似たようなシソ科の植物を3つ並べるって変ですよね。これには数千年前のギリシア神話に由来し、21世紀によってはじめて解かれる、魔女の呪いが関係あるんです。
よくって?(と、ここらへんは中井英夫『虚無への供物』に出てくる美人素人探偵の奈々村久生(ななむらひさお)の物真似だ) はじめのふたつ、パセリとセージは、パッセージ(passage)つまり通過、ローズマリーはバラのメアリー、タイムは時間なの。中世の百年戦争時代、いくさの嫌いな、森の中に住んでいた魔女がいて、それがフランスからイギリスに渡り、バラ戦争の時代に魔女裁判で死刑になったのよね。当時のイギリスは火あぶりじゃなくて絞首刑だったけど。その人の名前はマリア、別名バラのメアリーね。
だけど変だと思わない? バラの中で唯一、長い間不可能だった色は青で、3種の植物はどれも青い花なのよ。
ローズマリーの語源は、さらに古い伝説では春の女神でオリュンポス十二神の一神であるアプロディーテーが生まれたときにその周りに咲いた花で、まあ非常に海っぽい色だよね。で、その魔女が戦争を回避するために研究していたのが時間を越える薬。
青いバラはロザシアニンという色素の発見によって20世紀末に作れるようになったんだけど、その花の名前の一つが青龍、つまりここにいる流奇奈紘季、ヒロくんだよね。青い花とは違って絶対植物にはあり得ない花の色は、緑、それはここにいる美登里なんだけど、面白いよねそれって。
*
「いきなり何を言い出すかと思ったら、ありもしない密室殺人を、魔女の呪いだの何だのと、こじつけもはなはだしいな」と、おれは言った。
「……いやもう、『虚無への供物』ごっこはもういいから」と、藤堂明音(とうどうあかね)先輩はあっさり言った。
「要するに、この歌を歌うときのコスプレは魔女っぽいのがいいってことか。しかしハロウィンでもない今の季節に手に入るかな」
「藤堂先輩、それは私が持っているから用意できます。サイズも似たようなものだし」と、今現在すでに魔女っぽい格好の美登里は言った。
ここらへんでざっくりみんなの大きさを説明すると、生徒会長と流奇奈は置いておいて、美登里と藤堂先輩は高校生女子の平均とほぼ同じ身長で、おれの妹はそれより若干低く、席夜晴香(せきやはるか)さんはさらに低く、三絡さんはかなり低く、真部岡恵留(まぶおかえる)さんは平均より少し高めでスタイルもいい。田部良紅羅架(たぶらくらか)さんは高校生男子の平均ぐらいなおれより若干高いので、女子にしてはかなり高いほうかもしれない。そういう人にありがちで、ちょっと猫背だ。狐神様だけど。
「以上のことで何か不明な点はありますか?」と、生徒会副会長の樋裏聖(ひうらせい)先輩は質問したので、どう見ても人の話を真面目に聞いてなかったと思う妹の曽根地直(そねじなお)が手を挙げて質問した。
「あの…先輩たちはなんで歌の練習をしていたんですか?」
それはおれも聞きたかったことのひとつだ。
「ただの生徒会主催の新メンバー歓迎の余興です。歓迎会は今週の金曜日の午後を予定してます。部外者でも歓迎しますよ。お茶とお茶菓子代は自腹で、会場はこちら。新メンバーには全員余興をお願いする予定です」
携帯端末を見ていた新メンバーのひとりでもある冴野美登里(さやみどり)は派手に吹いた。
「あ、ごめん、まだ顧問の先生から新しい連絡名簿回って来てなかったんで。新一年生の人はまだ知らないですよね」
「うーん、歌か。わたしは最近の歌はよく知らないのだが」と、流奇奈は言った。
「別に歌じゃなくてもいいんですが…」
「昭和のでもいいのか? 「東京流れ者」とか」
「あっそれ知ってる! 「頼むから俺を怒らせないでくれ」だよね! デュエットしようよ」と、美登里は言った。
「ふっ、流れ者には女はいらないんだ、だぜ」
そんなのを知っている令和の高校生は滅多にいない。
だがもちろんおれも知っている。おれというか、親父のビデオコレクションで美登里はたっぷり調教してあるのだ。
「わかりました。でも、先輩たちの「スカボロー・フェア」の解釈にはちょっと一言言いたくて」と、妹は話を続けた。
*
「スカボロー・フェア」はもともとは古いイギリスのバラッドです。1960年代のその歌はサイモン&ガーファンクルのアレンジで詠唱がつけられて、なんとなく反戦歌っぽくなりました。
その中で歌われている4種の薬草、パセリは「勝利・死の前兆」、セージは「幸福な家庭」、ローズマリーは「貞節」、タイムは「勇気」という意味を持ち、男女に必要なものとされ、また一方では死刑台の下に生える草としての解釈もあります。
でも、さっき藤堂先輩が間違えたとおり、いや普通は間違えないんですけど、似たようなシソ科の植物を3つ並べるって変ですよね。これには数千年前のギリシア神話に由来し、21世紀によってはじめて解かれる、魔女の呪いが関係あるんです。
よくって?(と、ここらへんは中井英夫『虚無への供物』に出てくる美人素人探偵の奈々村久生(ななむらひさお)の物真似だ) はじめのふたつ、パセリとセージは、パッセージ(passage)つまり通過、ローズマリーはバラのメアリー、タイムは時間なの。中世の百年戦争時代、いくさの嫌いな、森の中に住んでいた魔女がいて、それがフランスからイギリスに渡り、バラ戦争の時代に魔女裁判で死刑になったのよね。当時のイギリスは火あぶりじゃなくて絞首刑だったけど。その人の名前はマリア、別名バラのメアリーね。
だけど変だと思わない? バラの中で唯一、長い間不可能だった色は青で、3種の植物はどれも青い花なのよ。
ローズマリーの語源は、さらに古い伝説では春の女神でオリュンポス十二神の一神であるアプロディーテーが生まれたときにその周りに咲いた花で、まあ非常に海っぽい色だよね。で、その魔女が戦争を回避するために研究していたのが時間を越える薬。
青いバラはロザシアニンという色素の発見によって20世紀末に作れるようになったんだけど、その花の名前の一つが青龍、つまりここにいる流奇奈紘季、ヒロくんだよね。青い花とは違って絶対植物にはあり得ない花の色は、緑、それはここにいる美登里なんだけど、面白いよねそれって。
*
「いきなり何を言い出すかと思ったら、ありもしない密室殺人を、魔女の呪いだの何だのと、こじつけもはなはだしいな」と、おれは言った。
「……いやもう、『虚無への供物』ごっこはもういいから」と、藤堂明音(とうどうあかね)先輩はあっさり言った。
「要するに、この歌を歌うときのコスプレは魔女っぽいのがいいってことか。しかしハロウィンでもない今の季節に手に入るかな」
「藤堂先輩、それは私が持っているから用意できます。サイズも似たようなものだし」と、今現在すでに魔女っぽい格好の美登里は言った。
ここらへんでざっくりみんなの大きさを説明すると、生徒会長と流奇奈は置いておいて、美登里と藤堂先輩は高校生女子の平均とほぼ同じ身長で、おれの妹はそれより若干低く、席夜晴香(せきやはるか)さんはさらに低く、三絡さんはかなり低く、真部岡恵留(まぶおかえる)さんは平均より少し高めでスタイルもいい。田部良紅羅架(たぶらくらか)さんは高校生男子の平均ぐらいなおれより若干高いので、女子にしてはかなり高いほうかもしれない。そういう人にありがちで、ちょっと猫背だ。狐神様だけど。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる