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第一章 月曜日は普通
1-7話 我こそは神に選ばれし、聖なる治療師
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「それでは、次に魂を再び封じるためのスピリチュアル・グッズをお渡しします」
「霊具ですか」
おれは、観光地のおみやげみたいなグッズを渡された。具体的には木刀、ドラゴンが剣に巻きついたキーホルダー、透明な直方体の中に空洞で作られた砂時計、桜貝のような貝殻が複雑に組み合わされている小さなウミガメの置物、鳳凰の絵が描いてあるミニ掛け軸、緑色というか碧色の翡翠を模した櫛、暗いところで光りそうなドクロと十字架を組み合わせた首飾り、その他もろもろだ。
「ファンシー絵のみやげものはないんですね」
「それからこの扇子もお貸しします。ではテスタメントを」
そう言って真那木さんはおれの左手を取って、手の甲にその唇をあてた。手の甲には狐・龍・猫のファンシーな、昭和の時代の北海道みやげみたいな絵が浮かびあがった。龍が真ん中で、狐と猫を抱え込んでる感じ。色は赫奕たる赤と言いたいところだがファンシーピンクで、一応血の誓約だ。
しばらく見ているとその呪印はだんだん薄くなり、消えた。
「このサインは、あなたが感情を抑えきれなくなったときに現れるのです。怒りや悲しみに流されそうになったときは見るようにするといいでしょう」
「額にキスされなくて助かりました」
「顔にサインが出てもあなた自身じゃ見れないでしょう。では、ポーズをお願いします」
「ええっ!? …「我こそは神に選ばれし、聖なる治療師。この封じられし力を解き放ち、破邪の道を閉ざそう!」とか、こんな感じ?」
おれは左手を左目に当て、左手の手首を右手で持ってこう言ってみたが、ものすごく恥ずかしい。
真那木さんは目をきらきらさせて拍手してくれたあと、あれこれ注文をつけた。
「そこんとこ、聖なる治療師じゃなくてホーリー・ヒーラーで。破邪の道を閉ざしたら邪が封じられないじゃないですか。あっ、左手は右目に当てたほうがポーズとしてかっこいいですね。それじゃ左手のひじが上がりすぎ。こう、そのポーズを取る前に一度、両手を腰に当てて。正義のヒーローマンのポーズじゃなくて、格闘家が対戦前にするみたいな、握りこぶしを作って」
うるさいなもう。
あと、どうして日本語ではなく英語にこだわるのか。中二病だからか。
*
おれが真那木さんとこういうダラダラした会話をしている間、残りの3神は神社の隅っこで宴会をやっていた。どうやら電子マネーを使ってコンビニで買って来たらしい。3神は未成年設定なので酒は買えないんだろうけど、龍神様はエナジードリンクを神レベルの量で飲んでいて、ヒトのへべれけと同じような状態になっていた。つまり、「誰が酔ってるんだよ、ああ? 俺は酔ってなんかいないぞ」状態。ほかの2神はそこまでひどくない。猫神様は脂っこいものが好きで、狐神様は甘いものが好きらしい。食べ散らかしたあとのコンビニのビニール袋やパッケージの袋や空き缶を、おれは仕方なく集めた。ハイになっている一同の周りには狐火がともり、そろそろ日暮れ時にもなろうという日の当たらない境内の一角はじっとしていても汗が出るぐらいの暑さだった。
「やあ、ちょうどいいところに戻ってきたな。わたしたちプロジェクト・チームの名前と決めポーズを考えたので、見てくれ」と、リーダーの龍神様が言ったので、おれは、はいはい、と適当に答えた。
「俺たち、ザ・ゴッズ!」
3神は決めポーズを取った。向かって左から、狐・龍・猫で、狐は右腕に力こぶを作って技術屋っぽく、龍は右足を曲げて両手を下に伸ばして「命」の字を作り、猫は右手を右耳の後ろに挙げて招き猫のポーズだ。
「あー、悪くないと思うんだけど、唯一神しか認めていない宗教もあるんで、神様の複数形はまずいかもねえ。検索したら昔のイギリスのプログレ・バンドに会ったらしいんだけど。あと、決めポーズの前にまずこう、両手を目の位置でクロスさせるのね。そこで、「俺たち!」ってまずやっておいて…チーム名は…そうだな、「ジ・アンネーマブルズ」でどうかな。「恐ろしくて言えない」って意味なんだけど」
本当はアンスピーカブルで、それは「名状しがたい」って意味だし、すでにアニメの製作委員会の名前の一部になってるから使えない。
「でもって、猫さんは龍さんのほうへ体を横向きにして、顔だけこちらに向ける。後ろ足、でいいのかなこの場合は、とにかく左足をちょっと挙げて、招き猫というよりにゃんにゃんポーズを意識して。もっと可愛くやるんだよ。猫さんは八重歯も魅力のひとつなんだから、照れないでちゃんとやって。片目はウインクさせてみて。左目じゃなくて右目。イヤミのシェーのポーズを可愛くやるの。それだと足挙がりすぎ」
「き、厳しいな。それも私ばっか」と、猫神様は言った。
本当は足がふらついている龍神様をなんとかしたかったんだけど、ちょっと恐ろしくて言えない。
「じゃあ、通しで一度やって見よう」
「俺たち!」と、3神は両手をクロスさせる。
「ジ・アンネーマブルズ!」
「…ごめん、噛みました」
そんなことだろうと思ったよ、猫さん。噛み様だけに。
この決めポーズがどういう意味があるのかというと、この話がアニメになったときのアイキャッチに使える。
しかしそれ以外にいつ、どのように使われるのか。
「霊具ですか」
おれは、観光地のおみやげみたいなグッズを渡された。具体的には木刀、ドラゴンが剣に巻きついたキーホルダー、透明な直方体の中に空洞で作られた砂時計、桜貝のような貝殻が複雑に組み合わされている小さなウミガメの置物、鳳凰の絵が描いてあるミニ掛け軸、緑色というか碧色の翡翠を模した櫛、暗いところで光りそうなドクロと十字架を組み合わせた首飾り、その他もろもろだ。
「ファンシー絵のみやげものはないんですね」
「それからこの扇子もお貸しします。ではテスタメントを」
そう言って真那木さんはおれの左手を取って、手の甲にその唇をあてた。手の甲には狐・龍・猫のファンシーな、昭和の時代の北海道みやげみたいな絵が浮かびあがった。龍が真ん中で、狐と猫を抱え込んでる感じ。色は赫奕たる赤と言いたいところだがファンシーピンクで、一応血の誓約だ。
しばらく見ているとその呪印はだんだん薄くなり、消えた。
「このサインは、あなたが感情を抑えきれなくなったときに現れるのです。怒りや悲しみに流されそうになったときは見るようにするといいでしょう」
「額にキスされなくて助かりました」
「顔にサインが出てもあなた自身じゃ見れないでしょう。では、ポーズをお願いします」
「ええっ!? …「我こそは神に選ばれし、聖なる治療師。この封じられし力を解き放ち、破邪の道を閉ざそう!」とか、こんな感じ?」
おれは左手を左目に当て、左手の手首を右手で持ってこう言ってみたが、ものすごく恥ずかしい。
真那木さんは目をきらきらさせて拍手してくれたあと、あれこれ注文をつけた。
「そこんとこ、聖なる治療師じゃなくてホーリー・ヒーラーで。破邪の道を閉ざしたら邪が封じられないじゃないですか。あっ、左手は右目に当てたほうがポーズとしてかっこいいですね。それじゃ左手のひじが上がりすぎ。こう、そのポーズを取る前に一度、両手を腰に当てて。正義のヒーローマンのポーズじゃなくて、格闘家が対戦前にするみたいな、握りこぶしを作って」
うるさいなもう。
あと、どうして日本語ではなく英語にこだわるのか。中二病だからか。
*
おれが真那木さんとこういうダラダラした会話をしている間、残りの3神は神社の隅っこで宴会をやっていた。どうやら電子マネーを使ってコンビニで買って来たらしい。3神は未成年設定なので酒は買えないんだろうけど、龍神様はエナジードリンクを神レベルの量で飲んでいて、ヒトのへべれけと同じような状態になっていた。つまり、「誰が酔ってるんだよ、ああ? 俺は酔ってなんかいないぞ」状態。ほかの2神はそこまでひどくない。猫神様は脂っこいものが好きで、狐神様は甘いものが好きらしい。食べ散らかしたあとのコンビニのビニール袋やパッケージの袋や空き缶を、おれは仕方なく集めた。ハイになっている一同の周りには狐火がともり、そろそろ日暮れ時にもなろうという日の当たらない境内の一角はじっとしていても汗が出るぐらいの暑さだった。
「やあ、ちょうどいいところに戻ってきたな。わたしたちプロジェクト・チームの名前と決めポーズを考えたので、見てくれ」と、リーダーの龍神様が言ったので、おれは、はいはい、と適当に答えた。
「俺たち、ザ・ゴッズ!」
3神は決めポーズを取った。向かって左から、狐・龍・猫で、狐は右腕に力こぶを作って技術屋っぽく、龍は右足を曲げて両手を下に伸ばして「命」の字を作り、猫は右手を右耳の後ろに挙げて招き猫のポーズだ。
「あー、悪くないと思うんだけど、唯一神しか認めていない宗教もあるんで、神様の複数形はまずいかもねえ。検索したら昔のイギリスのプログレ・バンドに会ったらしいんだけど。あと、決めポーズの前にまずこう、両手を目の位置でクロスさせるのね。そこで、「俺たち!」ってまずやっておいて…チーム名は…そうだな、「ジ・アンネーマブルズ」でどうかな。「恐ろしくて言えない」って意味なんだけど」
本当はアンスピーカブルで、それは「名状しがたい」って意味だし、すでにアニメの製作委員会の名前の一部になってるから使えない。
「でもって、猫さんは龍さんのほうへ体を横向きにして、顔だけこちらに向ける。後ろ足、でいいのかなこの場合は、とにかく左足をちょっと挙げて、招き猫というよりにゃんにゃんポーズを意識して。もっと可愛くやるんだよ。猫さんは八重歯も魅力のひとつなんだから、照れないでちゃんとやって。片目はウインクさせてみて。左目じゃなくて右目。イヤミのシェーのポーズを可愛くやるの。それだと足挙がりすぎ」
「き、厳しいな。それも私ばっか」と、猫神様は言った。
本当は足がふらついている龍神様をなんとかしたかったんだけど、ちょっと恐ろしくて言えない。
「じゃあ、通しで一度やって見よう」
「俺たち!」と、3神は両手をクロスさせる。
「ジ・アンネーマブルズ!」
「…ごめん、噛みました」
そんなことだろうと思ったよ、猫さん。噛み様だけに。
この決めポーズがどういう意味があるのかというと、この話がアニメになったときのアイキャッチに使える。
しかしそれ以外にいつ、どのように使われるのか。
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