魂を殺された女

早坂 悠

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幸せなひととき

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「………。………。」

「ハルカ?」

「……ご、ごめんなさい。もう、や、や、やめて、、下さい
う、ううっ……」

「!!ハルカッ!」

 勇太はすぐに挿入していた男性器を抜いて、四つん這いになっているハルカの体を起こし、ハルカの顔を自分に向けさせる。ハルカの目からは涙が滲み、体は小刻みに震えていた。

「ごめんっ!ハルカ!バックの体位はもう禁止!金輪際やらない!怖かったよな?本当にごめん。俺、調子に乗った。ハルカ……大丈夫?」

 ハルカの視界に勇太の心配そうな顔を捉えハルカは段々と”今の世界”に戻ってきた。自分が涙を流していたこと、体が震えていることに今、気づいた。

 バックのような勇太の顔が見えない体位で、なおかつバックはどうしてもリアルに犯されている感がハルカには拭えなかった。

 自分からいいよと勇太に許可を出した手前、申し訳ない気持ちになるが、この体位はハルカには精神的にキツかった。勇太はずっと謝ってばかりいたが勇太のせいでもハルカのせいでもないのだ。

 レイプ犯が憎いとハルカは思う。つけられた精神的な傷跡は完治することなくハルカの中でずっと燻くすぶっていて、今回のように何かの拍子に突然、ハルカの日常生活をおびやかしてくる。

 勇太とここまで折角、2人で歩んできた愛の儀式にズカズカと侵入してきて、『俺たちの存在忘れてない?おまえはレイプされたんだよ!』とアピールするかのごとくハルカを傷つけていく。

「ハルカ、今から力いっぱい抱きしめるぞ」

「…う、うん。お、お願い……」

「抱きしめたらキスをする。たくさんする。全部、俺だからな?いいな?でも怖かったら遠慮せず言ってな?」

 勇太はハルカの体に腕を巻き付ける勢いで抱き締めてきた。ハルカのおでこにキスをして次にチュッと唇に口づけをしてくる。ハルカの潤んだ瞳を覗き、目と目が合うのを確認してから勇太はもう一度、キスをする。舌は入れない優しい口付けはハルカに安堵感と勇太の肌のぬくもりを思い出させた。

 ベッドの備え付けのオレンジのライトが寝室を優しく包む。このライトをつけずに部屋の電気も消したまま、暗闇の中で勇太に抱かれるのもハルカは怖くて無理だった。

 結局、この日は仕切り直すことも出来ず、ハルカと勇太は何もしないまま布団の中でくるまって眠りについた。

 ハルカは集団レイプから1年以上経っても、

 知らない男性が怖い。
夜間の徒歩の外出は怖くて無理。
(原付バイクに乗ればギリギリ大丈夫)

セックスはバックの体位は厳禁。
真っ暗の部屋の中で性行為禁止。

 というふうに克服できないことがいくつかある。

 だから……だから……それがなんだ!

 とハルカは思いたかった。もう出来ないことをあれこれ考えるのをやめたかった。あれこれ考えるのが疲れてしまったのかもしれない。

  ハルカは生きてる。

 あんな酷い目にあったのに……それこそハルカは2度に渡る自殺未遂を図り、生きる希望を見いだせなかった。

 そんな状態から1年。

 メンタルクリニックに定期的に通院しつつパートといえど少しずつ社会復帰を図り、友人と楽しくおしゃべり出来たり、また誰かを愛したり、愛し合ったりできてる。

 ちゃんと人としての幸せをハルカは取り戻している……と実感したかったし、勇太とのセックスはハルカに恐怖ではなく、幸せをもたらしてくれた。

 順調なこととまだ克服できないいくつかのことがあっても、ハルカと勇太の同棲生活はおおむね順調だった。

 この時までは。

 ハルカが3度目の死を選びたくなる出来事が、11月に訪れることをまだ誰も知らない。ハルカも勇太も幸せなひと時をこの時は送っていた。
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作者の早坂悠です。よろしくお願いします。すでにこの作品は完結まで書き終わってます。
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