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ハルカの不調(番外編)
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ハルカは家から少し離れた場所にある工場で、アルバイトをしながら、定期的に勇太とのランチに付き合ってくれている。高校の友達とも定期的に会っているようで、傍目から見れば、ハルカの生活は安定しているように思えた。
仕事は例えアルバイト生活でも、田舎に戻ってきた時はゾンビのような風貌だったらしいので、それに比べれば身なりを整えて、原付バイクに乗って仕事が出来るなんて、凄く頑張っていると勇太は思った。働けるゾンビなんていないんだから、田舎に戻ってきた時と比べたら凄い成長なんじゃないかと勇太は思う。
それに勇太はハルカと一緒にいられて本当に幸せだった。ご飯を食べるだけの短い時間でも目の前にハルカがいる。勇太のたわいもない話にクスクス笑ってくれて癒されたし、勇太はハルカに救われていると感じることもあった。
ハルカは興味本位で勇太の過去を絶対に聞いてこなかった。勇太は今でも友達から距離を取っていた。
会うと必ず”大恋愛”の話を聞き出そうとする友人たち。中には勇太の気持ちを察して聞いてこない友人もいるにはいたが、みんな面白おかしく”他に男を作られて逃げた”話を勇太がしてくれているのを、待っているように思えて気まずかった。
ハルカはその点、何も聞いてこない。勇太に興味がないということだとすると、それはそれで悲しい気もするが、それでもハルカが元嫁のことを聞いてこないこと、勇太が話すのを固唾を飲んで待っているという姿勢がないことが、ハルカと過ごす時間をより楽しくしていた。
もしも願いが叶うなら、勇太は手を伸ばしてハルカを引き寄せて抱きしめたいと思う。抱きしめてキスをしてハルカがどこにも行ってしまわないように、抱きしめ合いながらセックスがしたい。。。
と勇太も男なのでそんな妄想をしてしまうが、それはハルカにとっては残酷な願いになるかもしれないと、勇太はそこまで分かっていた。
もしかしたら男性に好意を向けられることも恐怖心を孕んでしまうなら勇太はこのまま、このまま……
ハルカの1番近くの男性として幼なじみというアドバンテージをフルに活用しながら、ハルカと共に過ごす時間を大切にしようと心に決めた。
決して多くは望まない。
ハルカとこれからも一緒にいられるならと。
この時の勇太は思っていた。
ーーーーーーーー
雲行きが怪しくなったのは6月の下旬頃だった。梅雨特有のじめじめした陽気が肌を不快にしていく。
ハルカは工場のバイトを休みがちになり、勇太とのランチの回数も減ってきた。ハルカに『大丈夫か?』というLINEを送っても『大丈夫。少し疲れただけだから』という返事が返ってくるだけだった。どう大丈夫なのか分からなくて勇太は心底、心配だった。
梅雨のこの滅入ってしまう気候がメンタルを削ってしまっているのだろうか?と勇太は漠然と思っていた。梅雨が明ければ、夏になればハルカは元気になるだろうか?と心配しながら雑貨店の店番をしている日々が続いた。
ーーーーーーーー
梅雨が明けて、夏、本番となった7月。ハルカは以前より悪化していた。ほとんどといっていいほど工場のバイトを休んでいるようだった。勇太は心配でコンビニで買ったスイーツなどをハルカの家の玄関にぶら下げて『美味しいから食べて』とLINEしたりするが、この頃にはLINEの既読スルーもちょこちょこするようになっていた。
もうすぐ地元の花火大会が開催されるので、ハルカと一緒に行ければいいなと思ってLINEで誘った勇太だったが、それには返信が来て『行けない』ということだった。
ーーーーーーーー
花火大会の当日。勇太の母親からハルカの両親が親戚の葬儀で数日間家を開けるという話を聞いた。ハルカは家でひとり留守番らしい。花火大会の日に家でひとり?なら俺と一緒に花火を見に行こうぜと勇太は思った。
家の前を掃除しているとふらふらと歩いているハルカと遭遇した。
ゾンビだった。まるでハルカはゾンビのように歩いていた。顔は血の気を失っていて青ざめていた。ふらふらした足取りで歩いていて、今にも転んでしまいそうだった。
髪はボサボサで唇がカサカサになっていた。痩せたのか顔もやつれて見える。
勇太はハルカに何があったのかさっぱり分からなかったが、ハルカの信じられない変わりように驚いた。驚きのあまり言葉を失ったが平然を装って……
「よぉ!ハルカ!今日の花火大会行かないのかよ。ヒマなら一緒に行こうや!って凄い顔色悪いけど大丈夫か?!か、風邪か?」
「ううん。風邪じゃない。でも今日は体調が悪いみたい。花火大会は行かないよ。他を当たって」
とハルカが答える。ハルカとは目が合わなかった。そのままふらふらと帰るハルカの背中を見て、絶対に風邪ではないと勇太は思った。
仕事は例えアルバイト生活でも、田舎に戻ってきた時はゾンビのような風貌だったらしいので、それに比べれば身なりを整えて、原付バイクに乗って仕事が出来るなんて、凄く頑張っていると勇太は思った。働けるゾンビなんていないんだから、田舎に戻ってきた時と比べたら凄い成長なんじゃないかと勇太は思う。
それに勇太はハルカと一緒にいられて本当に幸せだった。ご飯を食べるだけの短い時間でも目の前にハルカがいる。勇太のたわいもない話にクスクス笑ってくれて癒されたし、勇太はハルカに救われていると感じることもあった。
ハルカは興味本位で勇太の過去を絶対に聞いてこなかった。勇太は今でも友達から距離を取っていた。
会うと必ず”大恋愛”の話を聞き出そうとする友人たち。中には勇太の気持ちを察して聞いてこない友人もいるにはいたが、みんな面白おかしく”他に男を作られて逃げた”話を勇太がしてくれているのを、待っているように思えて気まずかった。
ハルカはその点、何も聞いてこない。勇太に興味がないということだとすると、それはそれで悲しい気もするが、それでもハルカが元嫁のことを聞いてこないこと、勇太が話すのを固唾を飲んで待っているという姿勢がないことが、ハルカと過ごす時間をより楽しくしていた。
もしも願いが叶うなら、勇太は手を伸ばしてハルカを引き寄せて抱きしめたいと思う。抱きしめてキスをしてハルカがどこにも行ってしまわないように、抱きしめ合いながらセックスがしたい。。。
と勇太も男なのでそんな妄想をしてしまうが、それはハルカにとっては残酷な願いになるかもしれないと、勇太はそこまで分かっていた。
もしかしたら男性に好意を向けられることも恐怖心を孕んでしまうなら勇太はこのまま、このまま……
ハルカの1番近くの男性として幼なじみというアドバンテージをフルに活用しながら、ハルカと共に過ごす時間を大切にしようと心に決めた。
決して多くは望まない。
ハルカとこれからも一緒にいられるならと。
この時の勇太は思っていた。
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雲行きが怪しくなったのは6月の下旬頃だった。梅雨特有のじめじめした陽気が肌を不快にしていく。
ハルカは工場のバイトを休みがちになり、勇太とのランチの回数も減ってきた。ハルカに『大丈夫か?』というLINEを送っても『大丈夫。少し疲れただけだから』という返事が返ってくるだけだった。どう大丈夫なのか分からなくて勇太は心底、心配だった。
梅雨のこの滅入ってしまう気候がメンタルを削ってしまっているのだろうか?と勇太は漠然と思っていた。梅雨が明ければ、夏になればハルカは元気になるだろうか?と心配しながら雑貨店の店番をしている日々が続いた。
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梅雨が明けて、夏、本番となった7月。ハルカは以前より悪化していた。ほとんどといっていいほど工場のバイトを休んでいるようだった。勇太は心配でコンビニで買ったスイーツなどをハルカの家の玄関にぶら下げて『美味しいから食べて』とLINEしたりするが、この頃にはLINEの既読スルーもちょこちょこするようになっていた。
もうすぐ地元の花火大会が開催されるので、ハルカと一緒に行ければいいなと思ってLINEで誘った勇太だったが、それには返信が来て『行けない』ということだった。
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花火大会の当日。勇太の母親からハルカの両親が親戚の葬儀で数日間家を開けるという話を聞いた。ハルカは家でひとり留守番らしい。花火大会の日に家でひとり?なら俺と一緒に花火を見に行こうぜと勇太は思った。
家の前を掃除しているとふらふらと歩いているハルカと遭遇した。
ゾンビだった。まるでハルカはゾンビのように歩いていた。顔は血の気を失っていて青ざめていた。ふらふらした足取りで歩いていて、今にも転んでしまいそうだった。
髪はボサボサで唇がカサカサになっていた。痩せたのか顔もやつれて見える。
勇太はハルカに何があったのかさっぱり分からなかったが、ハルカの信じられない変わりように驚いた。驚きのあまり言葉を失ったが平然を装って……
「よぉ!ハルカ!今日の花火大会行かないのかよ。ヒマなら一緒に行こうや!って凄い顔色悪いけど大丈夫か?!か、風邪か?」
「ううん。風邪じゃない。でも今日は体調が悪いみたい。花火大会は行かないよ。他を当たって」
とハルカが答える。ハルカとは目が合わなかった。そのままふらふらと帰るハルカの背中を見て、絶対に風邪ではないと勇太は思った。
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作者の早坂悠です。よろしくお願いします。すでにこの作品は完結まで書き終わってます。
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