30 / 52
ハルカのお願い(番外編)
しおりを挟む
年明けに兄の勇一と勇一のお嫁さんと一緒にハルカに新年の挨拶をするとしばらく勇太はハルカと会う機会がなかった。
何度もスーパーに足を運んでハルカが働いてる姿を探したが、どうやらハルカはあのナンパ野郎待ち伏せ事件の後にレジ打ちのアルバイトを辞めてしまったらしい。
あんな些細なことで、とは勇太は思わない。ハルカの恐怖はきっと勇太が思うよりもずっと深刻なのだ。勇太の母親の情報によればハルカはメンタルクリニックに通院してるという話だった。メンタルクリニック……要するに精神科だ。ハルカは専門的な治療が必要となるほど状態があまり良くないのかもしれないと勇太は思った。
それでもハルカに会いたい。ハルカに会いたいが、勇太からアクションを起こしてハルカのメンタルに何か影響を及ぼしてしまうのが、どうしても怖かった。今はそっとしておくべきだろうか?そんなことを考えていた冬の終わり頃、勇太が雑貨店の店番をしてる時にハルカがひょっこり現れた。
「いっらっしゃいませ……はっ!ハルカ?!
どどどうしたん?何か買い物か?!」
「おばさんに聞いたら店番してるっていうからここに来たの。あのさ。お願いしたいことがあって。無理ならいいんだけどさ。」
と躊躇いがちなハルカに向かって、勇太は身を乗り出す勢いで
「な、なんだよ?遠慮せずに言えって幼なじみのよしみだろうがっ!」と興奮気味にハルカに迫った。ハルカが俺にお願いごと?!なんだろう?とにかくめちゃくちゃ嬉しいっ!と勇太は喜んだ。
ハルカは少し目を伏せながら……
「原付バイク買うのに付き合って欲しいんだけど……あともし良かったらそのあと原付に乗る練習も」
とハルカは言うのだった。
ーーーーーーーー
勇太の連絡先は変わっていたので久しぶりにハルカと連絡先の交換を済ませると、バイク屋さんに原付バイクを買う日程を決めて、当日はバイク屋で現地集合、現地解散だった。
そしてまたナンバープレートや保険の手続きをしたりして新品のバイクをハルカの家まで運んでもらい、勇太はハルカと原付に乗る練習に付き合うことになった。
勇太は幸せだった。しばらくぶりのハルカに会えたこと。ハルカが原付を買うのに勇太を頼ってくれたこと。そして原付の練習も頼まれたこと。何もかもが幸せだった。
「これがアクセルでブレーキはここ。あまりアクセルを一気にふかすと原付でもタイヤが急発進してウィーリーみたいに前輪が宙を舞うことになるから気をつけてな。」
「うん。分かった。
き、緊張するっていうかちょっと怖いね。」
とあわよくばさりげなくハルカの手を触ってバイクについてレクチャーしたくなるが、そんなことをしたらハルカが怖がる。
勇太はハルカの体に触れるのは絶対に避けなければならなかった。勇太はうっかりハルカに触ってしまってまたハルカの恐怖スイッチを押さないように細心の注意を払った。
近所の道であらかた練習したあとは駅前の商店街で待ち合わせして一緒にランチを食べることになっていた。勇太は車で先に行って、ハルカは原付でゆっくり出発した。
勇太が車を駐車場に停めてから待ち合わせ場所でハルカを待っていると少ししてから、ハルカが小走りでやってきた。
「乗れたよっ!原付!道路凄く怖かったの!でも勇太!乗れたよっ!ありがとう!勇太!」
とハルカに笑顔で言われて勇太の胸はキュンキュンとなった。俺は少女かっ?!いや、しかし、なんて可愛いんだ。可愛すぎる。どうして幼なじみというアドバンテージを持っていたのに俺はハルカに今まで何もしてこなかったんだ!!
泥だらけになって友達と遊んでいる場合じゃなかった。ハルカともっと一緒に遊んでいれば良かった。中学になってみんなから揶揄からかわれるのが嫌で少し距離を取るなんてことしてなきゃ良かった!!
高校でたくさんたくさんアプローチしていれば、すました兄貴にハルカの恋心を持ってかれずに済んだかもしれないのにぃぃぃぃぃーーー!
と勇太は心の中でたくさんの後悔をするが、今は目の前のハルカとの時間を大切にしようと意識を現実に戻して、
「おぉ!良かったなハルカ。でも原付は事故った時に大怪我するからほんと気をつけてな。」と真剣な眼差しでハルカに忠告する。
「うん。気をつける。でも本当にありがとう。助かったよ。」
彩乃行きつけのパスタ屋というのが少し気に食わないでもなかったが、まぁそれはいい。2人で席を囲んでハルカと一緒に食べるパスタは、どんな店でも勇太にはきっと美味しく感じるはずだ。
勇太とハルカは”お互いの過去に触れることなく”、たわいもない話をしながらパスタランチを食べて、勇太にとっては幸せなひと時を過ごした。
ハルカにとってはどうだったんだろうか。男と何かあったのは分かるが勇太との時間はハルカにとって苦痛でないといいなと勇太は思った。
少し躊躇ったもののハルカとの別れ際に「無理しなくていいんだけど。これからお互い予定がない時は一緒に飯めし食べに行かないか?」と恐る恐るハルカに聞いた。
ハルカは「いいよ」とすぐに返事をくれて勇太は心の中でよっしゃぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!とガッツポーズを決めたのだった。
何度もスーパーに足を運んでハルカが働いてる姿を探したが、どうやらハルカはあのナンパ野郎待ち伏せ事件の後にレジ打ちのアルバイトを辞めてしまったらしい。
あんな些細なことで、とは勇太は思わない。ハルカの恐怖はきっと勇太が思うよりもずっと深刻なのだ。勇太の母親の情報によればハルカはメンタルクリニックに通院してるという話だった。メンタルクリニック……要するに精神科だ。ハルカは専門的な治療が必要となるほど状態があまり良くないのかもしれないと勇太は思った。
それでもハルカに会いたい。ハルカに会いたいが、勇太からアクションを起こしてハルカのメンタルに何か影響を及ぼしてしまうのが、どうしても怖かった。今はそっとしておくべきだろうか?そんなことを考えていた冬の終わり頃、勇太が雑貨店の店番をしてる時にハルカがひょっこり現れた。
「いっらっしゃいませ……はっ!ハルカ?!
どどどうしたん?何か買い物か?!」
「おばさんに聞いたら店番してるっていうからここに来たの。あのさ。お願いしたいことがあって。無理ならいいんだけどさ。」
と躊躇いがちなハルカに向かって、勇太は身を乗り出す勢いで
「な、なんだよ?遠慮せずに言えって幼なじみのよしみだろうがっ!」と興奮気味にハルカに迫った。ハルカが俺にお願いごと?!なんだろう?とにかくめちゃくちゃ嬉しいっ!と勇太は喜んだ。
ハルカは少し目を伏せながら……
「原付バイク買うのに付き合って欲しいんだけど……あともし良かったらそのあと原付に乗る練習も」
とハルカは言うのだった。
ーーーーーーーー
勇太の連絡先は変わっていたので久しぶりにハルカと連絡先の交換を済ませると、バイク屋さんに原付バイクを買う日程を決めて、当日はバイク屋で現地集合、現地解散だった。
そしてまたナンバープレートや保険の手続きをしたりして新品のバイクをハルカの家まで運んでもらい、勇太はハルカと原付に乗る練習に付き合うことになった。
勇太は幸せだった。しばらくぶりのハルカに会えたこと。ハルカが原付を買うのに勇太を頼ってくれたこと。そして原付の練習も頼まれたこと。何もかもが幸せだった。
「これがアクセルでブレーキはここ。あまりアクセルを一気にふかすと原付でもタイヤが急発進してウィーリーみたいに前輪が宙を舞うことになるから気をつけてな。」
「うん。分かった。
き、緊張するっていうかちょっと怖いね。」
とあわよくばさりげなくハルカの手を触ってバイクについてレクチャーしたくなるが、そんなことをしたらハルカが怖がる。
勇太はハルカの体に触れるのは絶対に避けなければならなかった。勇太はうっかりハルカに触ってしまってまたハルカの恐怖スイッチを押さないように細心の注意を払った。
近所の道であらかた練習したあとは駅前の商店街で待ち合わせして一緒にランチを食べることになっていた。勇太は車で先に行って、ハルカは原付でゆっくり出発した。
勇太が車を駐車場に停めてから待ち合わせ場所でハルカを待っていると少ししてから、ハルカが小走りでやってきた。
「乗れたよっ!原付!道路凄く怖かったの!でも勇太!乗れたよっ!ありがとう!勇太!」
とハルカに笑顔で言われて勇太の胸はキュンキュンとなった。俺は少女かっ?!いや、しかし、なんて可愛いんだ。可愛すぎる。どうして幼なじみというアドバンテージを持っていたのに俺はハルカに今まで何もしてこなかったんだ!!
泥だらけになって友達と遊んでいる場合じゃなかった。ハルカともっと一緒に遊んでいれば良かった。中学になってみんなから揶揄からかわれるのが嫌で少し距離を取るなんてことしてなきゃ良かった!!
高校でたくさんたくさんアプローチしていれば、すました兄貴にハルカの恋心を持ってかれずに済んだかもしれないのにぃぃぃぃぃーーー!
と勇太は心の中でたくさんの後悔をするが、今は目の前のハルカとの時間を大切にしようと意識を現実に戻して、
「おぉ!良かったなハルカ。でも原付は事故った時に大怪我するからほんと気をつけてな。」と真剣な眼差しでハルカに忠告する。
「うん。気をつける。でも本当にありがとう。助かったよ。」
彩乃行きつけのパスタ屋というのが少し気に食わないでもなかったが、まぁそれはいい。2人で席を囲んでハルカと一緒に食べるパスタは、どんな店でも勇太にはきっと美味しく感じるはずだ。
勇太とハルカは”お互いの過去に触れることなく”、たわいもない話をしながらパスタランチを食べて、勇太にとっては幸せなひと時を過ごした。
ハルカにとってはどうだったんだろうか。男と何かあったのは分かるが勇太との時間はハルカにとって苦痛でないといいなと勇太は思った。
少し躊躇ったもののハルカとの別れ際に「無理しなくていいんだけど。これからお互い予定がない時は一緒に飯めし食べに行かないか?」と恐る恐るハルカに聞いた。
ハルカは「いいよ」とすぐに返事をくれて勇太は心の中でよっしゃぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!とガッツポーズを決めたのだった。
0
作者の早坂悠です。よろしくお願いします。すでにこの作品は完結まで書き終わってます。
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる