魂を殺された女

早坂 悠

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今、何を持っているか?

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 ハルカはスーパーのレジ打ちのバイトを辞めた。従業員用の入り口付近とはいえ、みんなの仕事中に叫び声を上げて心配をかけてしまったこともそうだし、フラッシュバック中のパニックをみられてしまったこともなんだかバツが悪かった。

 またパートを辞めた最大の原因は、あの男性客がハルカのことを恨んで襲ってくるのではないか?という恐怖が頭にこびりついて離れないことだった。もしかしたらうつ病の病気のせいかもしれない。物事を悪い方へと考えてしまう。

 そろそろ年が明ける12月。ハルカは仕事を辞めてまた無職になった。年明けにまた就活しようと決めて、一度、ゆっくり休もうと思った。

 勇太の帰省や短期間のうちに2回もフラッシュバックを体験するなど、ハルカは少し疲れていた。何も考えたくない。

 友達の計らいで髪の毛を切ってもらい、前と同じようにお化粧してアルバイトをして自分でお金を稼ぎ、少しだけ前向きに過ごしていたハルカは、また自分の殻の中に戻りたくなっていた。

 何も考えたくない。
 男性のことも自分のことも
 自分の未来のことも
 勇太のことも。

 でも勇太は2度もハルカのことを助けてくれた。1回目のフラッシュバックは勇太が原因だったとしても、勇太が悪いわけではないのでノーカウントだ。

 2回目はハルカの叫び声をきいて駆けつけてくれた。

”俺は触らないから安心しろ”“何もきかないから”という勇太の優しいセリフがハルカの胸の中にじんわりと広がっていく。

 彩乃あやのも優しい女性だが勇太の優しさには、なんだか力強さみたいなものを感じた。女性のふんわり真綿で包むようなふわふわした優しさとは異なる。男性特有の優しさみたいなものが勇太には昔からたくさん詰まっている。

 勇太の3つ上のお兄さんである勇一ゆういちにハルカは告白して振られたことがある。好きで好きで仕方なかった。

 勇太と同じ年だし昔から近くに住んでるし、きっと妹ぐらいにしか思われてないとは分かっていても、勇一が都会の大学に進学するときいて、会えなくなる前にハルカは自分の気持ちを勇一に伝えた。


 答えはやっぱりダメで、ハルカはたくさん泣いた。そういえばその時、泣いていたのは勇太とこの間、一緒に行ったあの公園だったなと思った。

 あの公園で泣いてるとひょっこり勇太が現れて、

 「なんで兄貴にこくってんだよ。
     俺の方がいい男だろうがぁ!」

 と慰めてくれたなと、うふふとハルカは思い出し、なんだか懐かしく感じた。勇一はその後、都会の企業に就職して、職場の女性と結婚した。お正月や大型連休になると帰省したりしなかったりだ。確かまだ子どもはいなかったと思う。

 都会の大学に行っている時からたまに田舎に帰ってきてはハルカにお土産をくれる勇一は年上ということもあって大人びててカッコ良かった。ハルカが都会に憧れたのも勇一の影響はかなり大きいと思う。

 そんな勇一に振られたとのにも関わらず、ハルカは専門学生時代に初めて付き合った男性は今思えば勇一に似ていた。いや、そっくりだった。

 都会に住んでて大人びた印象を持っていた男性。その人のことが好きでハルカはその男性と交際を始めた。男性と性的な関係を持ったのはその人が初めてだった。

 初めてその人と結ばれた時、処女膜を破って少し痛い思いをしても、相手を幸せにする痛みもあるのだとハルカは漠然と思った。

 しばらくその男性との付き合いは続き、何度もハルカはその男性と体を重ねた。重ねるうちにハルカにも性的な快感を共有できるようになっていった。少しコツが必要だが、体の状態が良いとその男性とのセックスでオーガズムすることもできるようになっていった。

 就職活動まじかになり、ハルカとその男性はお互い忙しくなった。行き違いが増えてお互い就活の焦りからイライラすることも増えた。

 どちらが「別れよう」と言ったか覚えてないが、2人が仲良く過ごす未来をどう頑張っても、想像出来ないくらいには、お互いの関係は崩れていた。

 そしてお互い就職が決まり、別々の道へ進んだ。

 そこからハルカは恋愛することなく、ずっと憧れていた都会での社会人生活を手に入れて、夢を叶えて充実した生活を送っていたのだ。

 もちろん社会人2年目の夏までの話だ。
 複数人の男たちから輪姦されるまでの話である。

 人生を狂わされてしまった。ハルカは幼なじみに頭をポンポンされるだけで、奈落の恐怖に突き落とされてしまう体になってしまった。

 腕をほんの少し握られただけでたくさんの男たちにレイプされた記憶が、走馬灯のように脳内にかけめぐる。

 夜が怖くて、車は乗れない。
睡眠薬がないと寝られない体質になってしまった。

 何度も何度も何度も何度も
そんなことをぐるぐる考えていて……

 ハルカは奪われてしまったことに意識が囚われてしまう。

 これじゃダメだ!というのも
すでに何千回と自分自身に突きつけているのに
何も変わらない。

 今の自分で何か発見したことはあるだろうか?レイプされたあとのハルカが発見したこと………


 それはーーーーーーーーーー

 月並みだけど、
 ”人の優しさ”かもしれないなと思った。

 ハルカは人間の恐ろしさを知った。残酷さを知った。世の中には殴って殴って血だらけになった女性の顔に自分の体液をふりかけて興奮する男たちがいる一方で、

 勇太のようにかけつけて助けてくれる男性もいる。

 彩乃のように何も聞かないで美味しいご飯を一緒に食べてくれる寄り添う優しさを持つ人がいる。

 みずきのように少し不器用な優しさも、ひなたのように外見から人に元気を分け与えてる人もいる。

 何も考えたくはないハルカだったけど、自殺未遂した時は暗い闇へ、スーーーーッと落ちていった感覚だったが、

 今は友人たちの優しさを感じる。

 そうだ。少し休みたいだけだ。
ちょっと頑張り過ぎたのかもしれない。

 そう思えるだけハルカは少しずつ意識を未来へ……少しだけ明るいといいなと想像する未来へと向けるのだった。

ーーーーーーーーー

 年が明けてお正月になった時、ピンポーンと来客を告げるインターホンが鳴った。両親は初詣に行っていてハルカしかいなかったため仕方なくハルカが対応すると……

 「やぁ。ハルカちゃん久しぶり!
       新年の挨拶しに来たよーー!」

 と勇一と勇一のお嫁さんらしき人と
勇太の3人がハルカの家に訪れたのだった。
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