14 / 52
キラキラの決意
しおりを挟む
バッサリと切った髪でひなたの美容院を出ると、11月のうっすらと冷気を帯びた風がハルカの頭をフワリとなびかせた。
まだそこまで寒くはない時期だったが、髪をこれだけ短く切ったことのなかったハルカにとって、首筋に髪の毛がないのがスースーして違和感があった。さっぱりしたけどちょっと落ち着かない。不思議な気分だった。
ひなたのお母さんが気をきかせてくれて、ひなたは勤務中だったが「高校時代の友人とお昼でも食べてきなさい」とお店から送り出してくれて、ひなたとみずきとハルカの3人でランチをすることになった。
彩乃も誘いたかったがおそらく仕事中だと思って声をかけなかった。ハルカに色々と気を使ってくれる彩乃がいないのがハルカには不安だったが、ひなたも彩乃ほどの気遣いはないものの、フンワリとした優しい女の子だ。
みずきもズケズケものを言い過ぎてしまうところはあっても根は優しい女性だ。ちょっと不器用すぎて優しさが伝わらないところがあるだけだ。
どこに食べに行くか悩んで3人は彩乃と一緒に行った駅前のイタリアンのランチに行くことにした。駅前ということもあって、ひなたもみずきもすでに何度か訪れているお店らしかった。彩乃と一緒に行ったこともあると言っていた。
ハルカが都会に行っていたとしても、田舎での時間も当たり前に流れている。新しいお店が出来て、ハルカの知らないところでみんなが集まっている。
駅前のパッとしない商店街、そこに出来た新しいお店、集まるのはいつもの同級生。いつもの会話、いつもの愚痴、そんな変わらない時間をハルカももっと大切にしていれば……
ハルカはあんな目にあわないで済んだかもしれない。
ダメだ!ダメだダメだダメだダメだダメだダメだ!ふとした瞬間にハルカはどうしても自分を責めてしまう。あの時こうしていれば……もっとああしていれば…と。悪いのはハルカではない。もっともっと気をたしかに持たなくてはと思った。
3人が3人とも違うパスタを頼み、それぞれしばしの気まずさを感じながら、おずおずとひなたがハルカに向かって、
「ハルカちゃん、短いのも似合うね。」とにこりと微笑んだ。「あ、ありがとう。」とお礼を言うハルカ。実はお礼を言っていいかどうかハルカ自身もよく分からない。
髪型が似合っていいのだろうか?目立たないだろうか?また男の気を引くような女になってしまわないだろうか。ハルカにはそれが少し不安だった。
「お化粧もしようよ!ハルカめっちゃ化粧してたじゃん?今の黒髪ショートでバッチリお化粧したハルカが見たいなー見たいなー」とみずきは上機嫌だ。
みずきはみずきなりにハルカを元気づけようとしてくれているのをハルカは感じて少し嬉しくなった。化粧は”アレ”以来、ほとんどしていない。眉毛を書き足すぐらいでそれ以外はすっぴん同然だった。お化粧……どうだろうか……少し前のようにしてみようかな……
「コスメ道具をほとんどもってないの。
みんなのを貸してくれるなら化粧してもいいよ」
ーーーーーーーー
パスタを食べ終わると、みんなで再びひなたの美容院へ戻ってきた。美容院へ戻る前にひなたは母親にLINEしてハルカにお化粧させたいから洗面所と美容院の椅子貸して!と相談しておりお店(母親)の許可を取っていた。
お昼過ぎの14時。お店に客はおらず、ハルカ、みずき、ひなた、ひなたの母親の4人しかいなかった。洗面所に案内されて顔を洗い、切ったばかりの髪を顔にかからないようにピンで止められハルカは鏡を背に向けてひなたとみずきに、
久しぶりの化粧をしてもらった。
「キャー!ハルカちゃん可愛い!」
「こっちのアイシャドウの方がいいんじゃない?宝塚っぽくて」「なんでみずきちゃんは宝塚にしようとしてんの!目がキラキラすぎるよ!」「チークは控えめでいいかな?」「ハイライト入れようぜ。宝塚っぽく」「みずきちゃん!やめて!あああっーー!」「ほら!カッコ可愛いだろ?ハルカはやっぱりこうでなくっちゃ!」
「ハルカちゃん鏡とご対面だね!」とくるっと回されて鏡と向き合った時、そこには黒髪のショートヘヤーに、ぱっちりお化粧を施された美しいハルカの姿があった。
薄ピンクのアイシャドウの上にキラキラのラメがのり、ベージュのチークは控えめなのにエレガントさを感じる。眉毛も丁寧にブラシで書かれていて、しっかりとビューラーであげたまつ毛は、マスカラによって扇型にカールされてもともと大きかったハルカの瞳をさらに引き立てるような魅力を醸し出していた。唇には少し赤目の口紅が塗られて人の目を惹いた。
ハルカは久しぶりの自分と会えた気がした。
髪を整えたり、お化粧するのが怖かった。
美しくキラキラすることが怖かった。
また男たちに捕まって、酷い目に遭わされるんじゃないかと思うと自分を美しく着飾るなんてことがーーーー
怖くて怖くて仕方なかった。
本当はお化粧だけじゃない。それまで当たり前のようにしていたことが本当に怖くて怖くて何も出来なかった。
鏡の前の昔のような美しい自分を見て、
ハルカは少しだけ体が震え出す。
”私が私であるために自分を少しずつ取り戻そう”
ハルカはそう決心した。美しい自分でいることは本当はとても怖い。それでも、その怖さのせいで今のハルカを大切にしないのは違うのではないか。
髪を切った時は昔の自分には戻れないかもしれないけど、前向きになれた気がした。化粧をした今は”昔に戻れない”とはなるべく思わないようにしたかった。
お化粧も自分磨きも少しずつやろう。昔の私に会いに行こう。男たちがハルカから奪ってしまったものなど何もない!と思えるぐらいハルカは自分の心の中のキラキラを取り戻そうと思った。
まだそこまで寒くはない時期だったが、髪をこれだけ短く切ったことのなかったハルカにとって、首筋に髪の毛がないのがスースーして違和感があった。さっぱりしたけどちょっと落ち着かない。不思議な気分だった。
ひなたのお母さんが気をきかせてくれて、ひなたは勤務中だったが「高校時代の友人とお昼でも食べてきなさい」とお店から送り出してくれて、ひなたとみずきとハルカの3人でランチをすることになった。
彩乃も誘いたかったがおそらく仕事中だと思って声をかけなかった。ハルカに色々と気を使ってくれる彩乃がいないのがハルカには不安だったが、ひなたも彩乃ほどの気遣いはないものの、フンワリとした優しい女の子だ。
みずきもズケズケものを言い過ぎてしまうところはあっても根は優しい女性だ。ちょっと不器用すぎて優しさが伝わらないところがあるだけだ。
どこに食べに行くか悩んで3人は彩乃と一緒に行った駅前のイタリアンのランチに行くことにした。駅前ということもあって、ひなたもみずきもすでに何度か訪れているお店らしかった。彩乃と一緒に行ったこともあると言っていた。
ハルカが都会に行っていたとしても、田舎での時間も当たり前に流れている。新しいお店が出来て、ハルカの知らないところでみんなが集まっている。
駅前のパッとしない商店街、そこに出来た新しいお店、集まるのはいつもの同級生。いつもの会話、いつもの愚痴、そんな変わらない時間をハルカももっと大切にしていれば……
ハルカはあんな目にあわないで済んだかもしれない。
ダメだ!ダメだダメだダメだダメだダメだダメだ!ふとした瞬間にハルカはどうしても自分を責めてしまう。あの時こうしていれば……もっとああしていれば…と。悪いのはハルカではない。もっともっと気をたしかに持たなくてはと思った。
3人が3人とも違うパスタを頼み、それぞれしばしの気まずさを感じながら、おずおずとひなたがハルカに向かって、
「ハルカちゃん、短いのも似合うね。」とにこりと微笑んだ。「あ、ありがとう。」とお礼を言うハルカ。実はお礼を言っていいかどうかハルカ自身もよく分からない。
髪型が似合っていいのだろうか?目立たないだろうか?また男の気を引くような女になってしまわないだろうか。ハルカにはそれが少し不安だった。
「お化粧もしようよ!ハルカめっちゃ化粧してたじゃん?今の黒髪ショートでバッチリお化粧したハルカが見たいなー見たいなー」とみずきは上機嫌だ。
みずきはみずきなりにハルカを元気づけようとしてくれているのをハルカは感じて少し嬉しくなった。化粧は”アレ”以来、ほとんどしていない。眉毛を書き足すぐらいでそれ以外はすっぴん同然だった。お化粧……どうだろうか……少し前のようにしてみようかな……
「コスメ道具をほとんどもってないの。
みんなのを貸してくれるなら化粧してもいいよ」
ーーーーーーーー
パスタを食べ終わると、みんなで再びひなたの美容院へ戻ってきた。美容院へ戻る前にひなたは母親にLINEしてハルカにお化粧させたいから洗面所と美容院の椅子貸して!と相談しておりお店(母親)の許可を取っていた。
お昼過ぎの14時。お店に客はおらず、ハルカ、みずき、ひなた、ひなたの母親の4人しかいなかった。洗面所に案内されて顔を洗い、切ったばかりの髪を顔にかからないようにピンで止められハルカは鏡を背に向けてひなたとみずきに、
久しぶりの化粧をしてもらった。
「キャー!ハルカちゃん可愛い!」
「こっちのアイシャドウの方がいいんじゃない?宝塚っぽくて」「なんでみずきちゃんは宝塚にしようとしてんの!目がキラキラすぎるよ!」「チークは控えめでいいかな?」「ハイライト入れようぜ。宝塚っぽく」「みずきちゃん!やめて!あああっーー!」「ほら!カッコ可愛いだろ?ハルカはやっぱりこうでなくっちゃ!」
「ハルカちゃん鏡とご対面だね!」とくるっと回されて鏡と向き合った時、そこには黒髪のショートヘヤーに、ぱっちりお化粧を施された美しいハルカの姿があった。
薄ピンクのアイシャドウの上にキラキラのラメがのり、ベージュのチークは控えめなのにエレガントさを感じる。眉毛も丁寧にブラシで書かれていて、しっかりとビューラーであげたまつ毛は、マスカラによって扇型にカールされてもともと大きかったハルカの瞳をさらに引き立てるような魅力を醸し出していた。唇には少し赤目の口紅が塗られて人の目を惹いた。
ハルカは久しぶりの自分と会えた気がした。
髪を整えたり、お化粧するのが怖かった。
美しくキラキラすることが怖かった。
また男たちに捕まって、酷い目に遭わされるんじゃないかと思うと自分を美しく着飾るなんてことがーーーー
怖くて怖くて仕方なかった。
本当はお化粧だけじゃない。それまで当たり前のようにしていたことが本当に怖くて怖くて何も出来なかった。
鏡の前の昔のような美しい自分を見て、
ハルカは少しだけ体が震え出す。
”私が私であるために自分を少しずつ取り戻そう”
ハルカはそう決心した。美しい自分でいることは本当はとても怖い。それでも、その怖さのせいで今のハルカを大切にしないのは違うのではないか。
髪を切った時は昔の自分には戻れないかもしれないけど、前向きになれた気がした。化粧をした今は”昔に戻れない”とはなるべく思わないようにしたかった。
お化粧も自分磨きも少しずつやろう。昔の私に会いに行こう。男たちがハルカから奪ってしまったものなど何もない!と思えるぐらいハルカは自分の心の中のキラキラを取り戻そうと思った。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
お見合い相手はお医者さん!ゆっくり触れる指先は私を狂わせる。
すずなり。
恋愛
母に仕組まれた『お見合い』。非の打ち所がない相手には言えない秘密が私にはあった。「俺なら・・・守れる。」終わらせてくれる気のない相手に・・私は折れるしかない!?
「こんな溢れさせて・・・期待した・・?」
(こんなの・・・初めてっ・・!)
ぐずぐずに溶かされる夜。
焦らされ・・焦らされ・・・早く欲しくてたまらない気持ちにさせられる。
「うぁ・・・気持ちイイっ・・!」
「いぁぁっ!・・あぁっ・・!」
何度登りつめても終わらない。
終わるのは・・・私が気を失う時だった。
ーーーーーーーーーー
「・・・赤ちゃん・・?」
「堕ろすよな?」
「私は産みたい。」
「医者として許可はできない・・!」
食い違う想い。
「でも・・・」
※お話はすべて想像の世界です。出てくる病名、治療法、薬など、現実世界とはなんら関係ありません。
※ただただ楽しんでいただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
それでは、お楽しみください。
【初回完結日2020.05.25】
【修正開始2023.05.08】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる