魂を殺された女

早坂 悠

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生まれ変われますように。

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 「美容院?に行く?」ハルカは目の前にいるみずきに今、言われたことを反芻するしかなかった。

 「いいから準備して。ここで待ってるから。それとハルカに何があったのか質問しないように彩乃あやのに言われてるから、そこは安心して。とにかく、とにかくよ!昨日は悪かったって話なのよ。駅前のひなたの美容院に行くから。そのボサボサな髪の毛をなんとかしよう。」

 ひなたというのはやはり高校の時の友達で、親が駅前の美容院を経営しており娘のひなたも美容師資格を取って、そこで美容師として働いてる美容院だ。

 そこに行くのか……もう高校の友達で会ってないのはひなただけになる。ひなたにも会わせようとみずきが画策してる……という訳ではなさそうだ。みずきはわりと思いつきで行動する。単純にみずきの行きつけの美容院に連れて行くとなってそれがたまたま友達の美容院だったということだろう。

 それにしても昨日の何を謝っているのか?外見の話なのか?それならすでに”ボサボサな髪の毛”というフレーズもなかなかにしてアウトなのでは?とハルカは思ってしまう。

 そして彩乃から”何があったかの質問はダメ”と言われていることも本来ならハルカに告げてしまうのを、彩乃は想定してないだろうにとハルカは思った。

 それでもハルカはみずきなりの謝罪の気持ちを感じずにはいられなかった。何があったのか聞かないというのを前もって言ってくれたのも、みずきなりの優しさなのかもしれない。

 言葉ではストーレートな言い方しか出来ないから、”行動で示す”みたいなそんなみずきの不器用さをハルカは見た気がした。

 「少し待ってて……」とハルカは玄関にみずきを残して2階の自室にて身支度を整えるとすぐに1階のみずきの元へ降りてきた。

「じゅ、準備早くない?
け、化粧はもうしないの?いいの?それで?」

「いいの。これで。今はお化粧する元気がないの。」

と母に美容院に行くことを告げて、もしかするとお昼はどこかで食べて帰るかもしれないから、うちでは食べないことも併せて告げると家を後にした。

 いつものバス停に向かい駅前のひなたの美容院へ向かう。

 バスの中でみずきはどんな髪型にする?伸ばしたい?それとも思いっきり切ってボーイッシュにしちゃう?もうカラーはしなくていいよね?と髪型についての質問をいくつかして……思いきり切ってボーイッシュにしようかな?とハルカは思った。外見から女性を感じるような格好をしたくなかった。

 どこかで男を惹き寄せてしまったら、どうしよう。またあの時みたいに誘拐されて……酷い目にあうのは嫌だった。怖い妄想をすると足が地についてないような浮遊感を感じる。グラグラ足元が不安定になり、冬だというのに冷や汗を手にかいてしまう。ハルカは意を決して……

「短くする。男の人に間違われるぐらいに切って欲しい」

「よし!分かった!ひなたの腕の見せ所だね!」

ーーーーーー

 ひなたの美容院に到着するとみずきは事前に何も伝えてなかったらしく「いっらしゃいま……え?!ハルカちゃん!来てくれたの?!やだ!ちょっと嬉しいっ!ひなた!ハルカちゃんよ!あとみずきちゃんも!」とひなたの母親が出迎えてくれて、店の奥からひょっこり、ひなたが顔を出す。

 「うわぁーーーっ!!ハルカちゃんだーーー!久しぶり!みずきがハルカちゃんを連れてきてくれたの?ありがとう!」

 「連れてきたつーか。それはちょっと違うかもだけど。いいからハルカの髪の毛切ってやってくんない?バッサリショートのご希望だよ。私はこの前やってもらったばっかしだしハルカが終わるまで雑誌読んだ待ってるわ」

 「ハルカちゃん、どうぞ。こちらへ」と美容院の椅子に座るとひなたはハルカの髪の毛をふわりと触り、「短くしていいの?」「うん。お願い。男の子みたいにしてくれていいよ」「かしこまりました!ハルカちゃんは顔がモデルさんのように小さいからショートとっても似合うと思う!」

 とひなたの施術が始まった。シャンプーは切ったあとにするねと手際よくハルカの髪を切っていく。明るく染めたカラーが残った毛先をバサリと切るとハルカは黒髪だけの頭になった。

 実はハルカはひなたの美容院にはほとんど行ったことがない。まだひなたが美容師資格を取る前に2回だけ利用したことがあり、その時はひなたの母親が担当してくれた。母親も資格所有者なのでそれなりに手際がいいと思うが……ハルカからすると”古臭い髪型”になるという2回の感想を得て、ひたなの美容院を利用することをやめた。

 店は商店街の中にあるものの地元の人しか入らない雰囲気の個人経営だということがはっきりと分かるひなたの美容院は、ネット予約は出来ないし、カラーバリエーションは少ないし、髪型はなんだか古臭いしで今日も予約などしてなくても、すぐに施術対応できるような美容院だった。

 ハルカは電車に乗って少し遠くの美容院を利用していた。ネット予約は当たり前のようにできて、カラーバリエーションもトリートメントの種類も多く、美容師は腕だけではなく流行りの髪型に敏感でハルカに色々と提案してくれるのも気に入っていた。そういう美容院と比べてしまうと……

 ハルカは心の中でひなたの美容院を見下していた。その美容院にボロボロになったハルカは訪れている。田舎の美容院。地元のおばさんとおじさんとせいぜい幼い孫を連れてくるぐらいの美容院にハルカは来て、高校の友達に髪の毛を切られている。

 都会から逃げるように田舎に戻り、美しくある努力を怠らなかったハルカが見るも無惨に変わり果てて目の前に現れても、ひなたもひなたの母親も気にしなかった。

 そればかりか2人ともハルカと会えて喜んでくれた。接客のサービスだと言われてしまえばそれまでだが、ハルカにはそうは思えなかった。本当に喜んでくれているように思えてそれが嬉しかった。そしてハルカはひなたの美容院を見下していた自分を恥じた。

「こんな感じでどう?キャーーーッ可愛っ!
 みずきちゃんも見て見て!!」

「おおっ!凄くいいじゃん!あ?男の子つーより、なんかモデルみてぇ。化粧したら宝塚にいそう。」

「こ……これでいいよ。ありがとひなた。あとみずきも美容院に連れてきてくれてありがとう。」
 
 鏡の前にはバッサリとショートにした黒髪のハルカが、少し照れながら微笑んでおり、ボサボサだった頭がスッキリして生まれ変わったような気持ちだった。

 生まれ変われるだろうか。昔の自分には戻れないかもしれない。それでも……今の私でも自分自身のことを好きになれるように頑張れるだろうか……ハルカはそう思うとなぜだか目に涙が溜まり、涙は頬をつたって流れてきたのだった。
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作者の早坂悠です。よろしくお願いします。すでにこの作品は完結まで書き終わってます。
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