13 / 52
生まれ変われますように。
しおりを挟む「美容院?に行く?」ハルカは目の前にいるみずきに今、言われたことを反芻するしかなかった。
「いいから準備して。ここで待ってるから。それとハルカに何があったのか質問しないように彩乃に言われてるから、そこは安心して。とにかく、とにかくよ!昨日は悪かったって話なのよ。駅前のひなたの美容院に行くから。そのボサボサな髪の毛をなんとかしよう。」
ひなたというのはやはり高校の時の友達で、親が駅前の美容院を経営しており娘のひなたも美容師資格を取って、そこで美容師として働いてる美容院だ。
そこに行くのか……もう高校の友達で会ってないのはひなただけになる。ひなたにも会わせようとみずきが画策してる……という訳ではなさそうだ。みずきはわりと思いつきで行動する。単純にみずきの行きつけの美容院に連れて行くとなってそれがたまたま友達の美容院だったということだろう。
それにしても昨日の何を謝っているのか?外見の話なのか?それならすでに”ボサボサな髪の毛”というフレーズもなかなかにしてアウトなのでは?とハルカは思ってしまう。
そして彩乃から”何があったかの質問はダメ”と言われていることも本来ならハルカに告げてしまうのを、彩乃は想定してないだろうにとハルカは思った。
それでもハルカはみずきなりの謝罪の気持ちを感じずにはいられなかった。何があったのか聞かないというのを前もって言ってくれたのも、みずきなりの優しさなのかもしれない。
言葉ではストーレートな言い方しか出来ないから、”行動で示す”みたいなそんなみずきの不器用さをハルカは見た気がした。
「少し待ってて……」とハルカは玄関にみずきを残して2階の自室にて身支度を整えるとすぐに1階のみずきの元へ降りてきた。
「じゅ、準備早くない?
け、化粧はもうしないの?いいの?それで?」
「いいの。これで。今はお化粧する元気がないの。」
と母に美容院に行くことを告げて、もしかするとお昼はどこかで食べて帰るかもしれないから、うちでは食べないことも併せて告げると家を後にした。
いつものバス停に向かい駅前のひなたの美容院へ向かう。
バスの中でみずきはどんな髪型にする?伸ばしたい?それとも思いっきり切ってボーイッシュにしちゃう?もうカラーはしなくていいよね?と髪型についての質問をいくつかして……思いきり切ってボーイッシュにしようかな?とハルカは思った。外見から女性を感じるような格好をしたくなかった。
どこかで男を惹き寄せてしまったら、どうしよう。またあの時みたいに誘拐されて……酷い目にあうのは嫌だった。怖い妄想をすると足が地についてないような浮遊感を感じる。グラグラ足元が不安定になり、冬だというのに冷や汗を手にかいてしまう。ハルカは意を決して……
「短くする。男の人に間違われるぐらいに切って欲しい」
「よし!分かった!ひなたの腕の見せ所だね!」
ーーーーーー
ひなたの美容院に到着するとみずきは事前に何も伝えてなかったらしく「いっらしゃいま……え?!ハルカちゃん!来てくれたの?!やだ!ちょっと嬉しいっ!ひなた!ハルカちゃんよ!あとみずきちゃんも!」とひなたの母親が出迎えてくれて、店の奥からひょっこり、ひなたが顔を出す。
「うわぁーーーっ!!ハルカちゃんだーーー!久しぶり!みずきがハルカちゃんを連れてきてくれたの?ありがとう!」
「連れてきたつーか。それはちょっと違うかもだけど。いいからハルカの髪の毛切ってやってくんない?バッサリショートのご希望だよ。私はこの前やってもらったばっかしだしハルカが終わるまで雑誌読んだ待ってるわ」
「ハルカちゃん、どうぞ。こちらへ」と美容院の椅子に座るとひなたはハルカの髪の毛をふわりと触り、「短くしていいの?」「うん。お願い。男の子みたいにしてくれていいよ」「かしこまりました!ハルカちゃんは顔がモデルさんのように小さいからショートとっても似合うと思う!」
とひなたの施術が始まった。シャンプーは切ったあとにするねと手際よくハルカの髪を切っていく。明るく染めたカラーが残った毛先をバサリと切るとハルカは黒髪だけの頭になった。
実はハルカはひなたの美容院にはほとんど行ったことがない。まだひなたが美容師資格を取る前に2回だけ利用したことがあり、その時はひなたの母親が担当してくれた。母親も資格所有者なのでそれなりに手際がいいと思うが……ハルカからすると”古臭い髪型”になるという2回の感想を得て、ひたなの美容院を利用することをやめた。
店は商店街の中にあるものの地元の人しか入らない雰囲気の個人経営だということがはっきりと分かるひなたの美容院は、ネット予約は出来ないし、カラーバリエーションは少ないし、髪型はなんだか古臭いしで今日も予約などしてなくても、すぐに施術対応できるような美容院だった。
ハルカは電車に乗って少し遠くの美容院を利用していた。ネット予約は当たり前のようにできて、カラーバリエーションもトリートメントの種類も多く、美容師は腕だけではなく流行りの髪型に敏感でハルカに色々と提案してくれるのも気に入っていた。そういう美容院と比べてしまうと……
ハルカは心の中でひなたの美容院を見下していた。その美容院にボロボロになったハルカは訪れている。田舎の美容院。地元のおばさんとおじさんとせいぜい幼い孫を連れてくるぐらいの美容院にハルカは来て、高校の友達に髪の毛を切られている。
都会から逃げるように田舎に戻り、美しくある努力を怠らなかったハルカが見るも無惨に変わり果てて目の前に現れても、ひなたもひなたの母親も気にしなかった。
そればかりか2人ともハルカと会えて喜んでくれた。接客のサービスだと言われてしまえばそれまでだが、ハルカにはそうは思えなかった。本当に喜んでくれているように思えてそれが嬉しかった。そしてハルカはひなたの美容院を見下していた自分を恥じた。
「こんな感じでどう?キャーーーッ可愛っ!
みずきちゃんも見て見て!!」
「おおっ!凄くいいじゃん!あ?男の子つーより、なんかモデルみてぇ。化粧したら宝塚にいそう。」
「こ……これでいいよ。ありがとひなた。あとみずきも美容院に連れてきてくれてありがとう。」
鏡の前にはバッサリとショートにした黒髪のハルカが、少し照れながら微笑んでおり、ボサボサだった頭がスッキリして生まれ変わったような気持ちだった。
生まれ変われるだろうか。昔の自分には戻れないかもしれない。それでも……今の私でも自分自身のことを好きになれるように頑張れるだろうか……ハルカはそう思うとなぜだか目に涙が溜まり、涙は頬をつたって流れてきたのだった。
0
作者の早坂悠です。よろしくお願いします。すでにこの作品は完結まで書き終わってます。
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
敏腕ドクターは孤独な事務員を溺愛で包み込む
華藤りえ
恋愛
塚森病院の事務員をする朱理は、心ない噂で心に傷を負って以来、メガネとマスクで顔を隠し、人目を避けるようにして一人、カルテ庫で書類整理をして過ごしていた。
ところがそんなある日、カルテ庫での昼寝を日課としていることから“眠り姫”と名付けた外科医・神野に眼鏡とマスクを奪われ、強引にキスをされてしまう。
それからも神野は頻繁にカルテ庫に来ては朱理とお茶をしたり、仕事のアドバイスをしてくれたりと関わりを深めだす……。
神野に惹かれることで、過去に受けた心の傷を徐々に忘れはじめていた朱理。
だが二人に思いもかけない事件が起きて――。
※大人ドクターと真面目事務員の恋愛です🌟
※R18シーン有
※全話投稿予約済
※2018.07.01 にLUNA文庫様より出版していた「眠りの森のドクターは堅物魔女を恋に堕とす」の改稿版です。
※現在の版権は華藤りえにあります。
💕💕💕神野視点と結婚式を追加してます💕💕💕
※イラスト:名残みちる(https://x.com/___NAGORI)様
デザイン:まお(https://x.com/MAO034626) 様 にお願いいたしました🌟
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる