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それでも生きていく。
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彩乃との再会は偶然だったけど、あの偶然がなければ、ハルカは自分から連絡をとって友達と再会しようとは思わなかったかもしれない。そう思うと就労のためにドラッグストアに立ち寄って良かったなと思った。
あれから時々、彩乃からLINEが来るようになった。彩乃はハルカの近況は”絶対に自分からは聞かなかった”。食べて美味しかったイタリアンのお店のパスタだったり、綺麗な景色だったり、買って美味しかったコンビニツイーツの写真をハルカに送ってきてくれる。
ハルカからあまり送るものもなくて、日常生活でまだ誰かに話すような話題もなくて……それがちょっと申し訳なく感じて……でも彩乃がそっとハルカに寄り添ってくれているような気持ちが嬉しくて……
どうしようか悩んだが…『今、仕事を探していること、久しぶりの就活で何をしていいか分からないこと』だけをLINEで送ると、ハルカは『教えてくれてありがとう。何か力になれることがあれば言ってね!』と返事をくれた。
ハルカとのLINEはささくれていたハルカの心をやさしく溶かしてくれるようだった。レイプされる前の心の平穏が、今のハルカに取り戻せるか分からないけど、就活して仕事を見つけて自分の力で、日常生活を送れるようになるまでに、そんな自分になんとか戻りたいと思えるようになっていった。
ハローワークに足繁く通い、ハルカは自分に出来そうな職場を探した。本当は正社員を目指したいが主治医は慎重にと言っていた。アルバイトぐらいから始めるようにとのことだった。あとハルカの就活は職場の男性比率を気にしなくてはいけない問題があった。
今でも男性が怖い。特に複数の男性たちのグループは身が凍りついてしまうほどの恐怖心を感じてしまう。本当は男性がいない職場が良かったが、贅沢は言ってられないので、なるべく男性が少ない職場を選びたかった。
ハルカは情報通信系の専門学校を卒業してるので出来れば同じ職種と思っていたが……残念ながら情報通信系の仕事は
女性よりも男性が多いこと、また田舎ということもあって、そういった仕事の数が圧倒的に少なく就活は難航していた。
パソコンを使った事務員の仕事に目星をつけるがこちらはアルバイトの枠がなく、正社員だとするとかなりの人気職で求人倍率がとても高くて、たぶん障害持ちのハルカだと雇ってはくれないだろうと思っていた。
そもそも障害の有無についてオープンにするかクローズにするかも悩んでいた。主治医はどちらでもいいと言っていた。恐らく面接で”前の会社はどうして辞めたのか?”という退職理由は必ず聞かれるだろう。本当の理由は絶対に言わないつもりだが、もっともな理由を考えないといけないと思った。
そんなことを悶々と考えながらハローワークに通い、なかなか条件が良さそうなアルバイト先が見つからないことに、ハルカは少し焦り始めた頃、彩乃から『ランチしない?』というお誘いのLINEが届き、以前、LINEで美味しかったと写真付きで教えてもらったイタリアンのお店に行くことになった。
そろそろ11月の下旬。ハルカはいつも利用しているバスで駅前で行き、改札の入り口で彩乃と待ち合わせする。10月はハローウィンの飾り付けを、12月はクリスマスの飾り付けをしてる駅前の商店街も、11月には特にイベントらしきものがなく、目を引くような装飾は特にない駅前にハルカの心は少し落ち着いた。
人が楽しそうに集まって何かやるイベントがハルカは怖い。自分は花火大会の夜に集団レイプされたのだと思うと何の罪もないのに、季節の行事に対して嫌悪感を持つようになってしまった。
ハルカの実家は都会から見れば田舎だがまったく何もない!というほどの田舎ではなく、バスで30分の駅前は、商店街があったり、本屋があったり、激安スーパーがあったりとお店が少なからずあって人も賑わっている。
さらにそこから電車に乗ってさらに30分ぐらい快速に乗れば、デパートがあって流行の服や少し高い化粧品はそこまで足を伸ばさないと買えない。ハルカの地元はそのぐらいの田舎のレベルだった。
日常生活を過ごすのには何1つ不自由はしないが、100円ショップはあっても無印良品はない、コンビニはあっても成城石井はない、ドラッグストアでプチララ化粧品は買えてもデパコスはないなど、少し背伸びしたキラキラした生活を送りたいと思っても、その願いはギリギリで叶えられないような田舎だった。
子どもや高齢者には過ごしやすくてもハルカにはどうしても”中途半端な地方都市”という印象が強く、観光するような場所もないので、地域活性化を狙うような気力も自治体にはない。よく言えばそれでも”安定してる田舎”、悪く言えば”伸び代がない”田舎だった。
そんな田舎が嫌で都会に憧れて勉強して就職して短い間だったけど、都会のキラキラした生活はハルカにとってかけがえのない毎日だった。
給与は決して良くないけど仕事帰りにスタバに寄ってカスタムした抹茶のフラペチーノを飲むのが大好きだった。自分で選んだ人生ーーーー親の反対を押し切って自分で切り開いた人生にハルカは満たされ、社会人生活を謳歌していた。
それもあの日まではーーーーーー
何度も何千回も思い返してみても過去に起きたことは変えられない。それが分かっていても憎たらしかった。
どうして自分はスタバもない田舎の駅前にいるのだろうか?そう思うと急な虚しさを感じてしまう。こんなはずじゃなかったと、これもたぶん数千回以上、ハルカが思ったことだ。
それでも……それでも……ハルカは生きていようと……思えるぐらいには少しずつ日常を歩んできている。自分のことを心配してくれる母と父。そして友達。失ったものはとても大きいが、まだハルカの身近にある”大切な人”のことを考える余力がハルカには芽生えてきていた。
「ハルカ、お待たせ。」と彩乃に声をかけられて、ハルカは頑張らなくちゃと思った。今の私でも出来ることを少しづつやっていくしかないんだ……と自分に言い聞かせて。
あれから時々、彩乃からLINEが来るようになった。彩乃はハルカの近況は”絶対に自分からは聞かなかった”。食べて美味しかったイタリアンのお店のパスタだったり、綺麗な景色だったり、買って美味しかったコンビニツイーツの写真をハルカに送ってきてくれる。
ハルカからあまり送るものもなくて、日常生活でまだ誰かに話すような話題もなくて……それがちょっと申し訳なく感じて……でも彩乃がそっとハルカに寄り添ってくれているような気持ちが嬉しくて……
どうしようか悩んだが…『今、仕事を探していること、久しぶりの就活で何をしていいか分からないこと』だけをLINEで送ると、ハルカは『教えてくれてありがとう。何か力になれることがあれば言ってね!』と返事をくれた。
ハルカとのLINEはささくれていたハルカの心をやさしく溶かしてくれるようだった。レイプされる前の心の平穏が、今のハルカに取り戻せるか分からないけど、就活して仕事を見つけて自分の力で、日常生活を送れるようになるまでに、そんな自分になんとか戻りたいと思えるようになっていった。
ハローワークに足繁く通い、ハルカは自分に出来そうな職場を探した。本当は正社員を目指したいが主治医は慎重にと言っていた。アルバイトぐらいから始めるようにとのことだった。あとハルカの就活は職場の男性比率を気にしなくてはいけない問題があった。
今でも男性が怖い。特に複数の男性たちのグループは身が凍りついてしまうほどの恐怖心を感じてしまう。本当は男性がいない職場が良かったが、贅沢は言ってられないので、なるべく男性が少ない職場を選びたかった。
ハルカは情報通信系の専門学校を卒業してるので出来れば同じ職種と思っていたが……残念ながら情報通信系の仕事は
女性よりも男性が多いこと、また田舎ということもあって、そういった仕事の数が圧倒的に少なく就活は難航していた。
パソコンを使った事務員の仕事に目星をつけるがこちらはアルバイトの枠がなく、正社員だとするとかなりの人気職で求人倍率がとても高くて、たぶん障害持ちのハルカだと雇ってはくれないだろうと思っていた。
そもそも障害の有無についてオープンにするかクローズにするかも悩んでいた。主治医はどちらでもいいと言っていた。恐らく面接で”前の会社はどうして辞めたのか?”という退職理由は必ず聞かれるだろう。本当の理由は絶対に言わないつもりだが、もっともな理由を考えないといけないと思った。
そんなことを悶々と考えながらハローワークに通い、なかなか条件が良さそうなアルバイト先が見つからないことに、ハルカは少し焦り始めた頃、彩乃から『ランチしない?』というお誘いのLINEが届き、以前、LINEで美味しかったと写真付きで教えてもらったイタリアンのお店に行くことになった。
そろそろ11月の下旬。ハルカはいつも利用しているバスで駅前で行き、改札の入り口で彩乃と待ち合わせする。10月はハローウィンの飾り付けを、12月はクリスマスの飾り付けをしてる駅前の商店街も、11月には特にイベントらしきものがなく、目を引くような装飾は特にない駅前にハルカの心は少し落ち着いた。
人が楽しそうに集まって何かやるイベントがハルカは怖い。自分は花火大会の夜に集団レイプされたのだと思うと何の罪もないのに、季節の行事に対して嫌悪感を持つようになってしまった。
ハルカの実家は都会から見れば田舎だがまったく何もない!というほどの田舎ではなく、バスで30分の駅前は、商店街があったり、本屋があったり、激安スーパーがあったりとお店が少なからずあって人も賑わっている。
さらにそこから電車に乗ってさらに30分ぐらい快速に乗れば、デパートがあって流行の服や少し高い化粧品はそこまで足を伸ばさないと買えない。ハルカの地元はそのぐらいの田舎のレベルだった。
日常生活を過ごすのには何1つ不自由はしないが、100円ショップはあっても無印良品はない、コンビニはあっても成城石井はない、ドラッグストアでプチララ化粧品は買えてもデパコスはないなど、少し背伸びしたキラキラした生活を送りたいと思っても、その願いはギリギリで叶えられないような田舎だった。
子どもや高齢者には過ごしやすくてもハルカにはどうしても”中途半端な地方都市”という印象が強く、観光するような場所もないので、地域活性化を狙うような気力も自治体にはない。よく言えばそれでも”安定してる田舎”、悪く言えば”伸び代がない”田舎だった。
そんな田舎が嫌で都会に憧れて勉強して就職して短い間だったけど、都会のキラキラした生活はハルカにとってかけがえのない毎日だった。
給与は決して良くないけど仕事帰りにスタバに寄ってカスタムした抹茶のフラペチーノを飲むのが大好きだった。自分で選んだ人生ーーーー親の反対を押し切って自分で切り開いた人生にハルカは満たされ、社会人生活を謳歌していた。
それもあの日まではーーーーーー
何度も何千回も思い返してみても過去に起きたことは変えられない。それが分かっていても憎たらしかった。
どうして自分はスタバもない田舎の駅前にいるのだろうか?そう思うと急な虚しさを感じてしまう。こんなはずじゃなかったと、これもたぶん数千回以上、ハルカが思ったことだ。
それでも……それでも……ハルカは生きていようと……思えるぐらいには少しずつ日常を歩んできている。自分のことを心配してくれる母と父。そして友達。失ったものはとても大きいが、まだハルカの身近にある”大切な人”のことを考える余力がハルカには芽生えてきていた。
「ハルカ、お待たせ。」と彩乃に声をかけられて、ハルカは頑張らなくちゃと思った。今の私でも出来ることを少しづつやっていくしかないんだ……と自分に言い聞かせて。
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作者の早坂悠です。よろしくお願いします。すでにこの作品は完結まで書き終わってます。
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