魂を殺された女

早坂 悠

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地獄の時間

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気づいたら知らないベッドの上に寝かされていた。

ここはどこだろうか?と思うものの、ハルカの頭は霧がかかったようにぼんやりとしてて意識をうまく保てなかった。
「ハルカちゃん…起きた?…」と囁くように声をかけてきたのはベッドの横に座っていたハルカの母だった。

どうして母がここに?と思いつつも、頭が回らなくて情報の処理が追いつかなかった。ここはどこで?母親がどうしてここにいるのか?私は何をしたのか…部屋のどこかに冷房がかかっているのか部屋全体がどこか涼しく、エアコン特有の機械音が聞こえていた。そのエアコンの機械音を耳にしながらハルカはゆっくりと目を閉じた。目を閉じて自分の身に何が起きたのかを思い出そうとした。

目を閉じたハルカを見て、
ハルカの母親は目に涙を浮かべながらそっと
「ハルカちゃんおうちに帰ろう。ここからずっと遠くのあなたが生まれ育った田舎に帰ろう…そうしましょうね」と言って目にためられないほど溢れた涙が次々と頬を伝った。

ハルカは母親のそのセリフをぼんやりとした頭でききながら、昨日までの自分を思い出そうとしていた。ゆっくりと目を開けて思い出す。

ハルカは昨日、死のうとしたのだ。
家にあった頭痛薬を大量に飲んで意識が遠ざかっていく中で会社の上司とアパートの大家さんに発見されて、救急搬送されたのだ。胃洗浄だろうか…病院で大量に吐いた記憶が蘇ってきた。

母親はどのタイミングで連絡がいったんだろうか。数日間、会社を無断で休んだタイミングなのか。それとも自殺未遂が発見されたタイミングなのか…それは分からない。

でも今、ベッドの隣で悲しみに包まれている母親はそのどちらの情報も手に入れたことだろう。ではハルカが死にたくなった動機は知っているのだろうか?

ハルカは2週間前の花火大会の帰り道に
複数の男性から強姦されたのだ。

友達と別れて一人で帰ったあの日。突然、車に押し込められ、どこだか分からない駐車場で数時間に渡り、男たちの性的な道具にされた。まったく面識がない人たちの性の吐口となり、何度も犯され何度も中出しされた。フェラを強要され精液も飲むように言われた。髪の毛をつかまれながらイラマチオもさせられた。クリトリスを必要以上にこねくり回し、ハルカはオーガズムに至らなかったせいで、腹を蹴られたり、殴られもした。

すべてが地獄だった。女性としての尊厳を奪われ、命は助かってもハルカの心はあの時、確実に死んだ。

男たちにとっては数時間のことでもハルカにとっては一生の傷となった。男たちの非道な行いによってハルカの人生は奪われてしまった。あの時のハルカを辱めた男たちが憎かった。死ぬほど憎かった。

それでもハルカはどこかで自分を責めてしまっていた。

花火大会の帰り道に1人で帰ったのがいけなかったんじゃないか?自分に近づいてくる車になぜ気づかなかったのか?などど自分を責め続けていた。

親の反対を押し切って都会の会社に就職したのがいけなかったんじゃないか?とも思うようになっていた。あのまま田舎で就職していればこんなことにはならなかったとハルカは思った。

何もかもが辛くなって生きていく希望が見出せず、会社を無断欠勤する日が続き、一人暮らししてる狭いアパートの一室に閉じこもった。それでも夜になると体がガクガク震えだし、呼吸が荒くなり息苦しさで気がおなしくなりほうだった。

暗くなるのが怖い。夜になるのが怖い。日中でも外を出歩くのが怖かった。すれ違う人たちがハルカに”何が起きたのか”全部知っていそうに感じて怖かった。

私は汚された。男たちに汚された。たくさん射精され膣は精液で埋め尽くされ。たくさん精液も飲んだ。男性器を何度も咥えさせられた…汚いっ!汚いっ!…私は…っ!と思うとハルカはたまらなくなって、買い置きしてあった頭痛薬を大量に飲んだのだ。その時に死にたいと明確に思ったかどうかは分からない。だが、衝動的に死を選んだことには変わりなかった。

田舎に帰って何か変わるとも思えなかったが、もうこの地域にいるのはハルカの精神が持たなかった。車で走っているあの男たちが再びハルカを見つけ出し、また襲ってくるかもしれないという恐怖が拭えなかった。

母親がどこまで知っているか分からない。警察から集団レイプの情報は親に入るのだろうか…分からない…何もかもが、もう分からなかったし、どうでもよくなっていた。

ハルカは生きてるというよりかは”死んでないだけ”という状態の生命活動しか出来そうになかった。ゆっくりと口を開き、母親に向かって

「か…える。」

とだけ告げてまた深い眠りに落ちていった。
このまま目覚めなければいいと思いながら。
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作者の早坂悠です。よろしくお願いします。すでにこの作品は完結まで書き終わってます。
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