白煙の空

月夜

「なぜ、私だけ生きているの」
目の前に横たわる亡骸に返ってくることのない質問をする。
夏の湿った風が亡骸を崩してゆく。

枯渇した涙
虚ろな目で空を拝む

「白い煙が…」

少女が見上げた空には白煙が立ち込めていた。


少女には好いてくれる人が何人もいた。
しかし、少女はどんなに「愛してる」と言われようとも愛することができない。
否、愛してはいけないのだ。
愛してしまうと相手が朽ち果て、地を創り出す砂となってしまうからだ。

その事を自覚したのは少女が16になる誕生日の5日前の事だった。
少女を慕い、いつも会いに来てくれていた少年に愛を感じてしまった時だった。
目の前で少年が崩れ落ち吹いてくる風に攫われてゆく。
少年の叫び声は遠くまでこだまして耳から離れなくなった。

それから少女は愛という感情を殺し続けた。
しかし感情は操作できるものでは無かった。
少女は何人も砂にしてしまったのだ。


少女は色々なメディアに取り上げられ好奇の目に晒された。
そのせいか、少女に近付こうとする人は居なくなっていった。

白煙が立ち込める中、少女は1人、月を眺めていた。

「愛する事も、愛される事も許されないなら…」

少女は白煙の空へ飛び出して行く。

「次こそは愛する資格を…」