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ジサツーランド
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夢の国、ジサツーランド。そこは安心、安全に自殺ができるテーマパークでした。ジサツーランドには、自殺に失敗したや、自殺がこわくてできない人たちが集まってきていました。今日も、ジサツーランドには、心が病んだ、自殺したがっている、たくさんの人たちが来ます。
まっくらな夜に、ある山奥で、ある男が歩いていました。男は五十代で、くたびれたスーツを着て、ぽっこりとお腹がでていました。男の名前は、サカシタと言いました。サカシタは、自殺するつもりで、山奥にきたのでした。サカシタは、少し息を切らして、ひとりごとを言いました。
「この世界に、愛なんて存在しない……」
サカシタは、悲しい気持ちでいっぱいでした。
「このあたりで、いいかな?」
サカシタが、まわりを見渡した時、ふと、後ろから、車が来ていることに気がつきました。サカシタは、あわてて、道のすみに、よりました。
「こんな夜ふけに、こんなところで、何してるの?」
車は、サカシタのちょうどとなりにとまりました。そして、車の窓が開き、運転していた男が、サカシタに話しかけてきたのです。
「……お、おかまいなく」
「おかまいなくじゃなくて」
「……」
サカシタは、気まずくなりました。まさか、山奥で自殺をしにきたなんて言えません。
「これから、どこに行くつもり?」
車の男は、ズケズケと聞いてきます。
「いや、どこと言われても…」
「ねぇ、今日、どこに寝泊まりするの?」
「いや、寝泊まりって言われても…」
「ねぇ、おじさん、おれの車にのりなよ。この道をまっすぐ行くと、おれの家があるんだ。今日は、おれの家に泊まりなよ」
「えっ!? は、はぁ」
「とにかく、車に乗りなよ」
サカシタは、なかば強引に車にのせられました。
車の助手席にサカシタは、のりました。車を運転する男は、二十代ぐらいのようでした。二人は、無言で、何も話をしませんでした。車は、ただただ、道なりを走っていきました。
「着いたよ」
車の男は、言いました。
「ペンションですか? 素敵ですね」
目の前には、木造のヨーロッパ風の家がありました。
「ありがとう。おれは、奥さんと二人でペンション経営してるんだわ。まだ、はじめたばかりだけどね」
「いいですね。正直、うらやましいです」
「うらやましいだなんて、そんなたいしたことじゃないけど。まぁ、とりあえず、車からおりて、家に入ろう」
二人は、車からおりて、家の中に入りました。
「あなた、おかえり。あれ? どちらさまですか?」
家の中に入ると、二十代ぐらいの若い女がでむかえました。
「そういえば、名前、聞いてなかったなぁ。オレはタイチ。そんで奥さんのサヨ。おじさんの名前は?」
「サカシタと言います」
「サカシタさんね。夕食まだでしょ。二人とも、すぐにテーブルに座って。夕食、多めに作っちゃったから、ちょうど良かった」
サヨは、タイチが、急に人をつれてきても、何一つ文句も言わずに家に向かい入れました。
夕食は、カレーでした。夕食中は、タイチとサヨが、いろいろと自分たちの身の上話しを語りました。
「オレとサヨは、小学生の時からの幼なじみなんだよ」
「タイチくんは、小学生の時、私のことを助けてくれたよね」
「まぁね。そんなこともあったね」
タイチとサヨの二人を見て、サカシタは、ほのぼのした気分になりました。
「そんな小さなころから、タイチさんと、サヨさんは、仲良しだなんて素敵ですね」
「ありがとう」
サカシタは、何か、気持ちが楽になりました。自殺を考えていたものの、少しだけ、自殺をやめようかとすら考えました。人とコミュニケーションをとることによって、少しだけ心がいやされたのでした。
食後に三人は、お茶を飲みました。そして、ふいにタイチが言いました。
「おじさん、自殺しようと思って、こんな山奥にきたんでしょ」
サカシタは、ギョッとしました。
「そ、そんなわけないじゃないですか」
「いやいや、この辺は、自殺の名所だし…。それに、夜おそくに、あんなとこを歩いているって、自殺以外にないでしょ」
「……」
「ペンション経営しててさ、近くで自殺されると困るんだよ」
「……そうですよね。近くで、私が自殺すると、お二人に迷惑がかかりますよね」
「やっぱり、自殺、考えてたんだ」
「えっ! まぁ、そうです。自殺しようと思っていました」
サカシタは、ひたいの汗を、うででぬぐいました。
「自殺しないで、生きていくことはできませんか?」
サヨは、やさしく言いました。
「自殺するって、きめたんです。今さら、生きようと考えなおしたりしません」
サカシタは、どんなに説得をされようとも、絶対に自殺をする覚悟をきめました。
「……」
おもい沈黙が流れました。そんな中、タイチが言いました。
「ジサツーランドにでも行こうか」
「ジサツーランド? 何ですか、そのジサツーランドって?」
「ジサツーランドは、安心、安全に自殺ができるテーマパークだよ」
「安心、安全に自殺ができるテーマパーク?」
サカシタは、おかしく思いました。そんなものが存在するだなんて意味がわかりません。
「私、ジサツーランドの方に電話しとくね。明日、すぐに行く感じでいいでしょ」
サヨは、立ち上がり、電話をしだしました。ジサツーランドに電話をかけているようでした。
「自殺をとめるのではなく、自殺するために、ジサツーランドをすすめるって、何てひどい人たちなんだろう」
サカシタは、そう思いましたが、口には出しませんでした。
「ジサツーランドで自殺すれば、おれたちには迷惑がかからないし、まぁ、明日、ジサツーランドに行くとして、今日は、風呂にでも入って、寝なよ」
タイチは、明るく言いました。その言葉にサカシタは、悲しくなりました。
「自殺しようとしている人に、なぜ自殺をやめるように、説得をしないんだ!? そして、ジサツーランドって、どんな感じなんだろうか?」
サカシタは、頭の中で思いをめぐらせました。
その後、サカシタは、うながされるままに風呂に入り、寝ました。自殺をとめてくれないことに怒りを感じたものの、眠りにつきました。明日、ジサツーランドに行くのに不安がありました。しかし、身体はつかれはてていたのか、ぐっすりと眠ることができました。
次の日、眠りからさめると、すぐに三人で朝食をとりました。たわいもない会話をし、和気あいあいと食事しました。サカシタは、これから自殺をしようとしているのに、和気あいあいと食事をすることに違和感を感じました。
「じゃあ、食事もすんだことだし、すぐにジサツーランドに行こっか」
タイチは、かるいノリで言いました。
「あなた、気をつけてね」
サヨは、タイチを気にかけました。
サカシタは、違和感を感じました。
「夫の心配はしても、私の心配はないんだ……。私は、自殺をしても良いんだ」
サカシタは、そう思うと、悲しくなりました。
タイチとサカシタは、車にのりました。ジサツーランドまで、タイチがサカシタを送ってくれるのです。
車にのってから数分たちました。
「ジサツーランドって、いったい、どんなとこなんだろう?」
サカシタは、ポツリとつぶやきました。
「サカシタさん、心配しないで、楽しいとこだから」
「楽しいとこって、あなたねぇ、自殺するとこなんでしょ」
「まぁ、そうだけど」
「自殺するところを、楽しいだなんて!」
「サカシタさん、怒んないでよ。ジサツーランドは、楽しいとこなんだから」
「あなたねぇ、不謹慎でしょ! そもそも、自殺をしようとする人がいたら、とめるのが普通でしょう! あなたは、なぜ自殺する人をとめないんですか!?」
「……サカシタさんは、自殺したくないの?」
「いや、自殺したいですよ!」
「自殺をしないように説得をしたら、サカシタさんは、考えをあらためるわけ?」
「いえ、私は絶対に自殺します!」
「じゃあ、説得をしても意味ないじゃん」
「……まぁ、そうですけど」
「ジサツーランドに行けば、何もかもうまくいくから」
「……でも、自殺をしようとしている人を、ジサツーランドにつれていって、勝手に自殺しろってのは、ちょっと、冷たくないですか? あなたは、心が痛まないんですか?」
「……」
その後、沈黙がつづきました。タイチも、サカシタも少しだけ、悲しい顔をしていました。
車は、ジサツーランドにつきました。タイチは、ジサツーランドの駐車場に車をとめました。そして、二人は、車からおりて、ジサツーランドの入り口に向かいました。サカシタは、ジサツーランドを外からながめました。ジサツーランドは、遊園地のようなところでした。ジェットコースターや、観覧車、メリーゴーランド、遊園地にあるものは、何でもそろっているようでした。食事をするレストランや、ファーストフード店、屋台までもが、そろっていました。さらには、何かしらのキャラクターの着ぐるみを着たスタッフがいました。客の方は、まばらでした。まばらとはいえ、自殺を考えているだろう人たちの多さに、サカシタはドキッとしました。そして、少し安心しました。
「私だけじゃないんですね。自殺をしようとしている人は」
「ストレス社会なんでしょ。いっぱいいるよ、自殺を考える人は」
ジサツーランドの入り口には、受付の人が立っていました。
「ご予約の方は、ありますか?」
受付の人は、口を開きました。
「昨日、サカシタで予約しました」
タイチが答えます。
「サカシタさまですね。お支払いは、いつも通りで、よろしいですか?」
「支払いは、いつも通り、あとからおれが、振り込みます」
受付の人とタイチの会話を聞いて、サカシタは驚き、どなりました。
「タイチさん! あんた、いったい何人の人を、ジサツーランドで自殺させてんだ!」
タイチと、受付の人は、苦笑いをしました。
「笑ってすませる気か!? 人間のクズめ! 自分は、お金を払っているから許されるとでも思っているのか!? クズめ! ウジ虫め!」
サカシタは、怒鳴り散らしました。
「サカシタさん、落ち着いてよ」
タイチは、苦笑いをしていました。
受付をすませて、サカシタは、タイチと別れました。サカシタは、タイチをたくさんののしりました。自殺しようとしているのをとめてくれなかったから、タイチを憎みました。
ジサツーランドに入ると、すぐに、猫のキャラクターの着ぐるみを着た人が、近づいてきました。そして、猫のキャラクターは、こう言いました。
「ここは、夢の国。ジサツーランド! 誰もが、安心、安全に自殺ができるテーマパークだよ。ぼくの名前は、ニャッピー。まずは、ジサツーランドのルールを教えるからよく聞いてね」
「ルール? ジサツーランドにルールがあるんですか?」
サカシタは、困惑しました。
「そうだよ。ジサツーランドには、ルールがあるんだ。これから説明するよ」
「あ、はい……。ルール説明、お願いします」
「まず、ジサツーランドにきたからって、勝手に自殺してはダメだよ。もし、勝手に自殺したとしても、すぐに助けるから無駄だよ。簡単に死ねないからね」
「自殺するためのジサツーランドなのに、勝手に自殺できないんですか?」
「そうだよ。自殺するためには、許可がいるんだ。許可なしに自殺しようとしても、ジサツーランドのスタッフみんなでとめる。だから、自殺できないよ。もし、それでも、自殺した場合は、すぐに助けるから、死ねないよ。ジサツーランドには、たくさんの優秀な医者がいるから、死ねないよ」
「自殺するのに、許可がいるって……」
「それから、ジサツーランドで、とりあえず数日の間、生活してもらうけど、お金のことは、気にしないで。ジサツーランドの中は、無料で、すべてのものが使えるよ。食事だって無料。寝泊まりするホテルも無料。入場料さえ払ってもらえば、その後は、お金を払う必要はないよ」
「あぁ、タイチさんが、払ってくれた入場料だけでいいんですね」
「そして、ジサツーランドでの生活は、規則正しい生活をしてもらうよ。朝の七時に起床。夜の十一時に就寝だよ」
「そういえば、最近は、生活習慣が、めちゃくちゃでした。ジサツーランドでは、規則正しく、がんばります」
「最後に、ジサツーランドでは、どんな願いも、かなえるようにするよ。だから、なんでも言ってね」
「えっ!? 何でも、願えばかなえてくれるんですか?」
「かなえられる範囲内であれば、何でもかなえるようにするよ」
「えー! それは、すごいですね」
「まぁ、最後の晩餐みたいなものだからね。死ぬ前に、幸せになりましょうって、ことだよ」
「……なるほど」
「それじゃあ、あとは、自由だから、ジサツーランドでの生活を楽しんでね」
「わざわざ、説明ありがとうございます」
「それじゃあね」
ニャッピーは、手をふって、どこかに行こうとしました。ですが、サカシタは、困惑しました。そして、すぐにニャッピーに言いました。
「待ってください。それで、私は、いつごろ自殺できるのでしょうか?」
ニャッピーは、人差し指を立てて、それを左右にふりながら答えました。
「自殺の許可がおりるのは、個人差があるよ。数日後なのか、数ヶ月後なのか、わからないんだ。とりあえず、ジサツーランドで生活をしつ、自殺の許可がおりるのをまって。その間は、ジサツーランドで楽しんで」
それを聞いて、サカシタは、キツネにつままれた気分になりました。
ジサツーランドでは、老人から、若い人たちまで老若男女いました。みな、それぞれ、ジェットコースターにのったり、メリーゴーランドにのったり、お菓子を食べたり、楽しんでいるように見えました。
「みんな、自殺をしようとしている人たちには見えないなぁ」
サカシタは、一人、つぶやきました。
まっくらな夜に、ある山奥で、ある男が歩いていました。男は五十代で、くたびれたスーツを着て、ぽっこりとお腹がでていました。男の名前は、サカシタと言いました。サカシタは、自殺するつもりで、山奥にきたのでした。サカシタは、少し息を切らして、ひとりごとを言いました。
「この世界に、愛なんて存在しない……」
サカシタは、悲しい気持ちでいっぱいでした。
「このあたりで、いいかな?」
サカシタが、まわりを見渡した時、ふと、後ろから、車が来ていることに気がつきました。サカシタは、あわてて、道のすみに、よりました。
「こんな夜ふけに、こんなところで、何してるの?」
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「……お、おかまいなく」
「おかまいなくじゃなくて」
「……」
サカシタは、気まずくなりました。まさか、山奥で自殺をしにきたなんて言えません。
「これから、どこに行くつもり?」
車の男は、ズケズケと聞いてきます。
「いや、どこと言われても…」
「ねぇ、今日、どこに寝泊まりするの?」
「いや、寝泊まりって言われても…」
「ねぇ、おじさん、おれの車にのりなよ。この道をまっすぐ行くと、おれの家があるんだ。今日は、おれの家に泊まりなよ」
「えっ!? は、はぁ」
「とにかく、車に乗りなよ」
サカシタは、なかば強引に車にのせられました。
車の助手席にサカシタは、のりました。車を運転する男は、二十代ぐらいのようでした。二人は、無言で、何も話をしませんでした。車は、ただただ、道なりを走っていきました。
「着いたよ」
車の男は、言いました。
「ペンションですか? 素敵ですね」
目の前には、木造のヨーロッパ風の家がありました。
「ありがとう。おれは、奥さんと二人でペンション経営してるんだわ。まだ、はじめたばかりだけどね」
「いいですね。正直、うらやましいです」
「うらやましいだなんて、そんなたいしたことじゃないけど。まぁ、とりあえず、車からおりて、家に入ろう」
二人は、車からおりて、家の中に入りました。
「あなた、おかえり。あれ? どちらさまですか?」
家の中に入ると、二十代ぐらいの若い女がでむかえました。
「そういえば、名前、聞いてなかったなぁ。オレはタイチ。そんで奥さんのサヨ。おじさんの名前は?」
「サカシタと言います」
「サカシタさんね。夕食まだでしょ。二人とも、すぐにテーブルに座って。夕食、多めに作っちゃったから、ちょうど良かった」
サヨは、タイチが、急に人をつれてきても、何一つ文句も言わずに家に向かい入れました。
夕食は、カレーでした。夕食中は、タイチとサヨが、いろいろと自分たちの身の上話しを語りました。
「オレとサヨは、小学生の時からの幼なじみなんだよ」
「タイチくんは、小学生の時、私のことを助けてくれたよね」
「まぁね。そんなこともあったね」
タイチとサヨの二人を見て、サカシタは、ほのぼのした気分になりました。
「そんな小さなころから、タイチさんと、サヨさんは、仲良しだなんて素敵ですね」
「ありがとう」
サカシタは、何か、気持ちが楽になりました。自殺を考えていたものの、少しだけ、自殺をやめようかとすら考えました。人とコミュニケーションをとることによって、少しだけ心がいやされたのでした。
食後に三人は、お茶を飲みました。そして、ふいにタイチが言いました。
「おじさん、自殺しようと思って、こんな山奥にきたんでしょ」
サカシタは、ギョッとしました。
「そ、そんなわけないじゃないですか」
「いやいや、この辺は、自殺の名所だし…。それに、夜おそくに、あんなとこを歩いているって、自殺以外にないでしょ」
「……」
「ペンション経営しててさ、近くで自殺されると困るんだよ」
「……そうですよね。近くで、私が自殺すると、お二人に迷惑がかかりますよね」
「やっぱり、自殺、考えてたんだ」
「えっ! まぁ、そうです。自殺しようと思っていました」
サカシタは、ひたいの汗を、うででぬぐいました。
「自殺しないで、生きていくことはできませんか?」
サヨは、やさしく言いました。
「自殺するって、きめたんです。今さら、生きようと考えなおしたりしません」
サカシタは、どんなに説得をされようとも、絶対に自殺をする覚悟をきめました。
「……」
おもい沈黙が流れました。そんな中、タイチが言いました。
「ジサツーランドにでも行こうか」
「ジサツーランド? 何ですか、そのジサツーランドって?」
「ジサツーランドは、安心、安全に自殺ができるテーマパークだよ」
「安心、安全に自殺ができるテーマパーク?」
サカシタは、おかしく思いました。そんなものが存在するだなんて意味がわかりません。
「私、ジサツーランドの方に電話しとくね。明日、すぐに行く感じでいいでしょ」
サヨは、立ち上がり、電話をしだしました。ジサツーランドに電話をかけているようでした。
「自殺をとめるのではなく、自殺するために、ジサツーランドをすすめるって、何てひどい人たちなんだろう」
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「ジサツーランドで自殺すれば、おれたちには迷惑がかからないし、まぁ、明日、ジサツーランドに行くとして、今日は、風呂にでも入って、寝なよ」
タイチは、明るく言いました。その言葉にサカシタは、悲しくなりました。
「自殺しようとしている人に、なぜ自殺をやめるように、説得をしないんだ!? そして、ジサツーランドって、どんな感じなんだろうか?」
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「じゃあ、食事もすんだことだし、すぐにジサツーランドに行こっか」
タイチは、かるいノリで言いました。
「あなた、気をつけてね」
サヨは、タイチを気にかけました。
サカシタは、違和感を感じました。
「夫の心配はしても、私の心配はないんだ……。私は、自殺をしても良いんだ」
サカシタは、そう思うと、悲しくなりました。
タイチとサカシタは、車にのりました。ジサツーランドまで、タイチがサカシタを送ってくれるのです。
車にのってから数分たちました。
「ジサツーランドって、いったい、どんなとこなんだろう?」
サカシタは、ポツリとつぶやきました。
「サカシタさん、心配しないで、楽しいとこだから」
「楽しいとこって、あなたねぇ、自殺するとこなんでしょ」
「まぁ、そうだけど」
「自殺するところを、楽しいだなんて!」
「サカシタさん、怒んないでよ。ジサツーランドは、楽しいとこなんだから」
「あなたねぇ、不謹慎でしょ! そもそも、自殺をしようとする人がいたら、とめるのが普通でしょう! あなたは、なぜ自殺する人をとめないんですか!?」
「……サカシタさんは、自殺したくないの?」
「いや、自殺したいですよ!」
「自殺をしないように説得をしたら、サカシタさんは、考えをあらためるわけ?」
「いえ、私は絶対に自殺します!」
「じゃあ、説得をしても意味ないじゃん」
「……まぁ、そうですけど」
「ジサツーランドに行けば、何もかもうまくいくから」
「……でも、自殺をしようとしている人を、ジサツーランドにつれていって、勝手に自殺しろってのは、ちょっと、冷たくないですか? あなたは、心が痛まないんですか?」
「……」
その後、沈黙がつづきました。タイチも、サカシタも少しだけ、悲しい顔をしていました。
車は、ジサツーランドにつきました。タイチは、ジサツーランドの駐車場に車をとめました。そして、二人は、車からおりて、ジサツーランドの入り口に向かいました。サカシタは、ジサツーランドを外からながめました。ジサツーランドは、遊園地のようなところでした。ジェットコースターや、観覧車、メリーゴーランド、遊園地にあるものは、何でもそろっているようでした。食事をするレストランや、ファーストフード店、屋台までもが、そろっていました。さらには、何かしらのキャラクターの着ぐるみを着たスタッフがいました。客の方は、まばらでした。まばらとはいえ、自殺を考えているだろう人たちの多さに、サカシタはドキッとしました。そして、少し安心しました。
「私だけじゃないんですね。自殺をしようとしている人は」
「ストレス社会なんでしょ。いっぱいいるよ、自殺を考える人は」
ジサツーランドの入り口には、受付の人が立っていました。
「ご予約の方は、ありますか?」
受付の人は、口を開きました。
「昨日、サカシタで予約しました」
タイチが答えます。
「サカシタさまですね。お支払いは、いつも通りで、よろしいですか?」
「支払いは、いつも通り、あとからおれが、振り込みます」
受付の人とタイチの会話を聞いて、サカシタは驚き、どなりました。
「タイチさん! あんた、いったい何人の人を、ジサツーランドで自殺させてんだ!」
タイチと、受付の人は、苦笑いをしました。
「笑ってすませる気か!? 人間のクズめ! 自分は、お金を払っているから許されるとでも思っているのか!? クズめ! ウジ虫め!」
サカシタは、怒鳴り散らしました。
「サカシタさん、落ち着いてよ」
タイチは、苦笑いをしていました。
受付をすませて、サカシタは、タイチと別れました。サカシタは、タイチをたくさんののしりました。自殺しようとしているのをとめてくれなかったから、タイチを憎みました。
ジサツーランドに入ると、すぐに、猫のキャラクターの着ぐるみを着た人が、近づいてきました。そして、猫のキャラクターは、こう言いました。
「ここは、夢の国。ジサツーランド! 誰もが、安心、安全に自殺ができるテーマパークだよ。ぼくの名前は、ニャッピー。まずは、ジサツーランドのルールを教えるからよく聞いてね」
「ルール? ジサツーランドにルールがあるんですか?」
サカシタは、困惑しました。
「そうだよ。ジサツーランドには、ルールがあるんだ。これから説明するよ」
「あ、はい……。ルール説明、お願いします」
「まず、ジサツーランドにきたからって、勝手に自殺してはダメだよ。もし、勝手に自殺したとしても、すぐに助けるから無駄だよ。簡単に死ねないからね」
「自殺するためのジサツーランドなのに、勝手に自殺できないんですか?」
「そうだよ。自殺するためには、許可がいるんだ。許可なしに自殺しようとしても、ジサツーランドのスタッフみんなでとめる。だから、自殺できないよ。もし、それでも、自殺した場合は、すぐに助けるから、死ねないよ。ジサツーランドには、たくさんの優秀な医者がいるから、死ねないよ」
「自殺するのに、許可がいるって……」
「それから、ジサツーランドで、とりあえず数日の間、生活してもらうけど、お金のことは、気にしないで。ジサツーランドの中は、無料で、すべてのものが使えるよ。食事だって無料。寝泊まりするホテルも無料。入場料さえ払ってもらえば、その後は、お金を払う必要はないよ」
「あぁ、タイチさんが、払ってくれた入場料だけでいいんですね」
「そして、ジサツーランドでの生活は、規則正しい生活をしてもらうよ。朝の七時に起床。夜の十一時に就寝だよ」
「そういえば、最近は、生活習慣が、めちゃくちゃでした。ジサツーランドでは、規則正しく、がんばります」
「最後に、ジサツーランドでは、どんな願いも、かなえるようにするよ。だから、なんでも言ってね」
「えっ!? 何でも、願えばかなえてくれるんですか?」
「かなえられる範囲内であれば、何でもかなえるようにするよ」
「えー! それは、すごいですね」
「まぁ、最後の晩餐みたいなものだからね。死ぬ前に、幸せになりましょうって、ことだよ」
「……なるほど」
「それじゃあ、あとは、自由だから、ジサツーランドでの生活を楽しんでね」
「わざわざ、説明ありがとうございます」
「それじゃあね」
ニャッピーは、手をふって、どこかに行こうとしました。ですが、サカシタは、困惑しました。そして、すぐにニャッピーに言いました。
「待ってください。それで、私は、いつごろ自殺できるのでしょうか?」
ニャッピーは、人差し指を立てて、それを左右にふりながら答えました。
「自殺の許可がおりるのは、個人差があるよ。数日後なのか、数ヶ月後なのか、わからないんだ。とりあえず、ジサツーランドで生活をしつ、自殺の許可がおりるのをまって。その間は、ジサツーランドで楽しんで」
それを聞いて、サカシタは、キツネにつままれた気分になりました。
ジサツーランドでは、老人から、若い人たちまで老若男女いました。みな、それぞれ、ジェットコースターにのったり、メリーゴーランドにのったり、お菓子を食べたり、楽しんでいるように見えました。
「みんな、自殺をしようとしている人たちには見えないなぁ」
サカシタは、一人、つぶやきました。
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