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〈21〉

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 第4の手紙には、三枚の絵(複製画)と一枚のキノコの写真が入っていた。
 絵の方は、一応美大卒なので、一目見てだいたい作者とタイトルはわかった。
 が、念の為PCで検索して確認する。次に、キノコについて……
 ほどなく、僕はキーボードから指を離して呟いた。
「見えて来たぞ!」
 即、来海サンにメールした。
〈 無事帰還した/第4の手紙届く/君に会いたい。すぐに来られたし 〉

 彼女を待つ間に僕は、僕らの牙城、桑木画材店のレジカウンターの後ろに移動式ホワイトボードを引っ張って来て今までに届いた手紙を張り付けた。明かりはレジ横のバンカーランプのみ。
 おっ、いいじゃないか! 少女探偵ナンシー・ドルーが謎の香水事件で潜りこんだ洞窟の中のような気分。これは母の本棚から見つけた母の少女時代の愛読書で小6の僕が夏休みの寝床で夢中で読んだ一冊なり。綺麗なカラーの絵入りで少女名作全集5と銘打っていたっけ……

 10分後、頼もしき相棒はやって来た。同じくらい頼もしいボディガード、バーニー犬のアルバートとともに。
 到着した来海さんは静かにゴーギャンの椅子に腰を下した。城下印章店の店番が本業のアルバートはおとなしく女主人の足元に、前脚に顎を乗せうずくまる。
 最新の第4の手紙に入っていた三枚の絵と一枚の写真を来海サンの前に並べて、おもむろに僕は言った。
「絵のタイトルと作者名は左から順に、
 ①〈アルプスの山〉ホドラー
 ②〈吹雪のアルプスを超えるハンニバル〉ターナー
 ③〈解氷〉クロード・モネ
 そして、キノコはカンバタケ だ」
 キノコの方は絵より手こずったけど、この名で間違いないはず。
「以上から僕が行き着いたのは――〈アイスマン〉だ」
 JKながらミステリマニア、従って知識量豊富な来海サンは即座に反応した。
「うそ、アイスマンて……あの、アイスマン?」
「そうとも。だが、この帰結は驚くに当たらない。いち早く『世界に目を向けろ』と指摘したのは君だぞ。君の言葉を念頭に僕は推理した。絵のタイトルーーアルプス~アルプス越え~解氷ときたらアイスマン以外ない」
「キノコは?」
「いい質問だ。それについては後で詳しく説明するよ」
 僕はまじまじと来海サンの顔を見つめた。
「さて、君はアイスマンについてどれくらい知っている?」

 アイスマンとは――
 1991年、アルプス山脈のイタリア・オーストリア国境にあるエッツ渓谷(海抜3200m)の氷河で見つかった男性ミイラである。
 通常の登山コースから外れた観光客の夫妻が偶然、溶けた雪の下から発見した。
 周辺からミイラの所持品も一緒に見つかり、ヨーロッパの青銅器時代前期、約5300年前(紀元前3300年頃)のものと断定された。当初、発見場所のエッツ渓谷にちなんでオーストリアの新聞記者が〈エッツイ〉と命名したこのミイラは、その後の正確な測量によりイタリア領と判明。イタリアの所蔵となった。 
 こうして、1998年オープンしたイタリアはボルツァーノ県南チロル考古学博物館で、-6℃に保たれた冷凍室内、年に数回の滅菌散布、という厳重な管理の元、保存されている。
 この南チロル考古学博物館には世界中から毎年30万人が訪れ、アイスマンを目の当たりにして驚嘆して帰って行く。 
 また2005年4月、愛知県で開催された〈愛・地球博〉の期間中、名古屋ボストン美術館と豊橋自然博物館で借り受けた精密なアイスマンのレプリカと所持品が展示されたことを記憶している人も多いのではないだろうか……

 平成生まれの僕。更に若い平成生まれの相棒。その瞳を覗き込んで僕は言った。
「現代科学は日進月歩だ。アイスマンが発見されて30年以上経過した現在、更なる調査で分かった事をまとめてみた――」



 ☆「少女ナンシーの冒険」少女名作全集5 キャロル・キーン著/諏訪晃代・訳/高木清・絵(偕成社)1958’
 ☆「レッド・ゲート農場の秘密」ナンシー・ドルーミステリ6 渡辺庸子・訳(創元推理文庫)2005’
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