16 / 28
〈16〉
しおりを挟む
注文したコーヒーがテーブルに置かれるのを待って、竪川氏は口を開いた。
「さてと、どうして足利駅まで君を呼び出してここを見せたかというと――偶然、館内で開催している展示物が良かったからだよ。僕がこれから説明することを君が理解しやすいと思ってね」
竪川氏は自分のスマホを僕へ差し出した。
「まず、これを読んでくれ。少々古い、数年前の記事なんだが」
【長尾家宝刀〈小豆長光〉足利市の長林寺で〈写真〉見つかる】
/ライブドアニュース2017年3’14より ※以下、概略と記事の抜粋
★〈小豆長光〉は鎌倉時代に作られたとされる日本刀(太刀)。
古来上杉謙信の愛刀であったと伝わる。
経緯は不詳ながら足利長尾家に伝来された。
宝刀は一時、同寺に預けられていたが現在は所在不明……
刀の刃に小豆を落とすとサッと切断されるほど切れ味が良かったことから、
〈小豆長光〉と呼ばれている。
◇詳細:現住職によると、明治18(1885)10月5日、長尾家関係者が同寺を訪れ御宝刀と鎧などを預けた。現在も預り書が保存されている。その後、間を置かず関係者が再度訪れ「宝刀は返却してほしい」と持って帰った。鎧は持ち帰らずそのまま同寺に所蔵され、現在国広展が開催されている足利市立美術館で展示中……
◇更に詳細:昭和42年夏、長尾家関係者が再再訪。「申し訳ないがあの刀は先祖が売ってしまった」と伝え、記念として写真を置いて去った。これが今回見つかった写真である。写真では鹿の角の刀架に刀と鞘が掛けられ、箱書きには長尾家当主の世襲名長尾八郎の文字が見える……
写真から「室町時代の刀では」と推測されている……
「読みました。今回も鎧の方は展示されてましたね。で――これが何か?」
竪川氏はこともなげに、
「宝刀〈小豆長政〉は和路氏の、曰く、宝箱に入ってる物の一つだ」
ハッとして僕は顔を上げた。
「僕をからかってる? まさか、それが宝箱から盗み出された物と言いたいんですか?」
「いや、大丈夫。これは今現在もちゃんとあそこに入っているから」
「じゃ、他の物が持ち出された? と言うか――宝箱の中身についてあなたはご存知なんですね?」
「これは失敬、言い方が悪かった。僕が言わんとしたのは、僕は宝箱にこの刀――小豆が入っていることを知っているという意味さ」
「?」
「改めて正確に言うよ。何故僕があの中に宝刀の小豆が入っているか知っているかと言うと、和路氏がそれを入れるのを見たからだ」
竪川氏は更に正確に、一語一語噛み砕くようにして繰り返した。
「和路氏が変死する前日、自宅へ会いに言った時、僕がそれを渡した。僕の眼の前で和路氏は宝箱に仕舞った」
「待ってください――」
この時になって僕はもう一つの、更に大きな矛盾に気づいた。
「で、でも、その刀についてこの記事には、『既に明治18年頃、菩提寺から持ち出され、昭和42年の段階でその刀は所在不明』とありますが?」
「何の不思議もない。つまり、そういうことだ。刀は色々な好事家の手を経巡って来たんだよ。で、直近の買主が和路氏だったと」
竪川悠氏は片目をつぶった。
「僕はそういう仕事をしている。和路氏が希望して段取りをつけた物を、出向いて受け取って、届ける〈最終運搬人〉。ザックリ括るなら〈故買屋〉とも言う。そういう仕事がこの世には存在するのさ。画材屋探偵カッコ自称なんてふざけた職業があるようにな」
「――」
混乱し、驚きを隠せない僕に竪川氏は微笑を浮かべて言った。
「まだ理解できないかい? じゃあリアリティを増すためにもう幾つか聞かせてやろう。和路氏の書斎のサイドボードに猿の置物が飾ってある。知ってるかい?」
「知っています」
そのことは波豆君から聞いたし、有島刑事が写真を見せてくれた。
「あれが元はどこにあったか教えてやるよ」
「さてと、どうして足利駅まで君を呼び出してここを見せたかというと――偶然、館内で開催している展示物が良かったからだよ。僕がこれから説明することを君が理解しやすいと思ってね」
竪川氏は自分のスマホを僕へ差し出した。
「まず、これを読んでくれ。少々古い、数年前の記事なんだが」
【長尾家宝刀〈小豆長光〉足利市の長林寺で〈写真〉見つかる】
/ライブドアニュース2017年3’14より ※以下、概略と記事の抜粋
★〈小豆長光〉は鎌倉時代に作られたとされる日本刀(太刀)。
古来上杉謙信の愛刀であったと伝わる。
経緯は不詳ながら足利長尾家に伝来された。
宝刀は一時、同寺に預けられていたが現在は所在不明……
刀の刃に小豆を落とすとサッと切断されるほど切れ味が良かったことから、
〈小豆長光〉と呼ばれている。
◇詳細:現住職によると、明治18(1885)10月5日、長尾家関係者が同寺を訪れ御宝刀と鎧などを預けた。現在も預り書が保存されている。その後、間を置かず関係者が再度訪れ「宝刀は返却してほしい」と持って帰った。鎧は持ち帰らずそのまま同寺に所蔵され、現在国広展が開催されている足利市立美術館で展示中……
◇更に詳細:昭和42年夏、長尾家関係者が再再訪。「申し訳ないがあの刀は先祖が売ってしまった」と伝え、記念として写真を置いて去った。これが今回見つかった写真である。写真では鹿の角の刀架に刀と鞘が掛けられ、箱書きには長尾家当主の世襲名長尾八郎の文字が見える……
写真から「室町時代の刀では」と推測されている……
「読みました。今回も鎧の方は展示されてましたね。で――これが何か?」
竪川氏はこともなげに、
「宝刀〈小豆長政〉は和路氏の、曰く、宝箱に入ってる物の一つだ」
ハッとして僕は顔を上げた。
「僕をからかってる? まさか、それが宝箱から盗み出された物と言いたいんですか?」
「いや、大丈夫。これは今現在もちゃんとあそこに入っているから」
「じゃ、他の物が持ち出された? と言うか――宝箱の中身についてあなたはご存知なんですね?」
「これは失敬、言い方が悪かった。僕が言わんとしたのは、僕は宝箱にこの刀――小豆が入っていることを知っているという意味さ」
「?」
「改めて正確に言うよ。何故僕があの中に宝刀の小豆が入っているか知っているかと言うと、和路氏がそれを入れるのを見たからだ」
竪川氏は更に正確に、一語一語噛み砕くようにして繰り返した。
「和路氏が変死する前日、自宅へ会いに言った時、僕がそれを渡した。僕の眼の前で和路氏は宝箱に仕舞った」
「待ってください――」
この時になって僕はもう一つの、更に大きな矛盾に気づいた。
「で、でも、その刀についてこの記事には、『既に明治18年頃、菩提寺から持ち出され、昭和42年の段階でその刀は所在不明』とありますが?」
「何の不思議もない。つまり、そういうことだ。刀は色々な好事家の手を経巡って来たんだよ。で、直近の買主が和路氏だったと」
竪川悠氏は片目をつぶった。
「僕はそういう仕事をしている。和路氏が希望して段取りをつけた物を、出向いて受け取って、届ける〈最終運搬人〉。ザックリ括るなら〈故買屋〉とも言う。そういう仕事がこの世には存在するのさ。画材屋探偵カッコ自称なんてふざけた職業があるようにな」
「――」
混乱し、驚きを隠せない僕に竪川氏は微笑を浮かべて言った。
「まだ理解できないかい? じゃあリアリティを増すためにもう幾つか聞かせてやろう。和路氏の書斎のサイドボードに猿の置物が飾ってある。知ってるかい?」
「知っています」
そのことは波豆君から聞いたし、有島刑事が写真を見せてくれた。
「あれが元はどこにあったか教えてやるよ」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
子成神社殺人事件~ダブったよ2024~
八木山
ミステリー
■イントロダクション
ここは某県の山中の村にひっそりと聳え立つ子成神社だ。
蛭子なる神を祀った寺には、今日も何人かの参拝客が訪れる。
バスは一日一度しか来ないため、神主である紅丸・藍丈兄弟の屋敷に参拝客は集っていた。
そこで事件が起きる。
夜中、屋敷の両脇にそびえる塔の片割れが燃え上がったのだ。
中からは黒焦げになった紅丸の死体が見つかる。
容疑者は全員。
調査中に起きる悲劇。
混沌とした擦り付け合い。
全員が裏を抱えたイカれた設定。
主人公はこれを読んでいるあなたってことになるんじゃないでしょうか。
■登場人物
子成紅丸・・・神主の双子の片割れ。赤の塔で焼死体となって見つかる。酒飲みで和風かぶれ。
子成藍丈・・・神主の双子の片割れ。酒飲みで西洋かぶれ。
紫 野・・・住み込みで働く若い巫女の一人。3人の中ではもっとも古株で最年長。
鳩 羽・・・住み込みで働く若い巫女の一人。料理は主に彼女が担当している。
彩 芽・・・住み込みで働く若い巫女の一人。もっとも新入り。
黒木蔵人・・・参拝客の一人。30前後の物静かなサラリーマン。
月白 雪・・・参拝客の一人。還暦を超えている老婦。
老竹梅松・・・参拝客の一人。明るい金髪に象徴される、軽薄な若者。
柳 茶凛・・・参拝客の一人。山吹の連れ添いの若い女性。
山吹悠人・・・参拝客の一人。柳の連れ添いの若い男性。二人は付き合っていない。
■注意事項
画像の一部にDALL-Eと五百式立ち絵メーカーを使用しています。
【完結】20-1(ナインティーン)
木村竜史
ライト文芸
そう遠くない未来。
巨大な隕石が地球に落ちることが確定した世界に二十歳を迎えることなく地球と運命を共にすることになった少年少女達の最後の日々。
諦観と願望と憤怒と愛情を抱えた彼らは、最後の瞬間に何を成し、何を思うのか。
「俺は」「私は」「僕は」「あたし」は、大人になれずに死んでいく。
『20-1』それは、決して大人になることのない、子供達の叫び声。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる