凍蝶の手紙*画材屋探偵開業中!

sanpo

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「俺、話すのが上手くないんだ。あんまり他人ヒトとしゃべったことがなくて。まともに小学校も行ってないから言葉の使い方もよく知らないし。唯一自信があるのが絵を描くことくらいでさ。なんせ、暇な時間はいつも絵を描いてたから……」
 こう断って少年は語り出した。
「とにかく、俺が教えてほしいのは、こういった・・・・・状況だったら・・・・・・刑事や探偵――推理をする人間――がどう思うかってことなんだ」
「どうぞ続けてみて」
「人が死んでる。頭から血を流してブッ倒れてる。その上に着物が被せてあるんだ。でね、その死体の前の壁にさ、死体の死様しにざまととても似た絵が飾られている――こういう場合、その絵を描いた人が、眼の前の人をった人物……〈殺人犯〉だと考える?」
 しばらく僕は、そして隣の相棒、来海サンも口を閉ざしたままだった。あまりにも突拍子のない話だったので。
 ようやく僕は言った。
「えーと、それは、君が読んだ小説の話かい?」
「ちがう、言ったろ、俺はミステリなんて読まないって」
「じゃ、マンガやアニメ、ゲームとか?」
「ちがう」
 少年はゆっくり左右に首を振りながら、
「俺が実際にこの目で見たことだよ」
 更に長い沈黙。
 とうとう僕は言った。
「OK。これが物語やドラマなら、その絵を描いた人物が犯人と言うのはストーリー的には大いにあり得る。推理小説では常道セオリーだろうな」
  ガタン、
 立ち上がりかけた少年の腕を掴む。
「だけど、現実では、我が国の警察は徹底的に捜査を行う。そうして、本当に殺した人=真犯人を捜し出す。殺していないなら逮捕される心配はない」
「ゼッタイに?」
「絶対に」
「死体を発見したのが俺でも? その上、壁に掛かった絵を描いたのが俺でも?」
「――」
 この日、僕の店に満ちた三度目の静寂。

 どのくらい経っただろう、僕は片手を上げた。
「ひょっとして、君が見たのは和路功己氏かい? 場所は鎌倉市山之内……」
「凄い!」
 少年は目をみはった。
「俺のたったこれだけの話から、そんなことまでわかるのか! 探偵の推理力って物凄いんだな!」
「いや、これは偶々たまたまだ。君が僕のHPを見ていたように、ある人物が僕に――」
 ここまで言って僕は言葉を切った。
 差出人不明の謎の手紙のことは、今はまだこの子に話さない方がいいと判断したためだ。あの手紙の取り扱いに関しては慎重であるべきだ。
 僕の咄嗟の決断を勘の良い来海サンも即座に理解したようだ。優しく微笑んでフォローしてくれた。
「あのね、この桑木さんはね、画材屋探偵を名乗るだけあって、毎日、全国の事件を広範囲にチェックしているのよ。だから、今あなたが言ったことと類似性のある事件を思い出した、というわけ」
「ああ、なるほど、そういうことか」
 少年は納得したようだ。すかさず僕は続けた。
「ねぇ、君、僕で良かったら力になるよ。だから、さっきの話をもっと詳しく教えてくれないかな」
 少年はしばらくうつむいていた。やがて顔を上げた。
「俺の名は波豆心平はずしんぺい。四日前、とんでもないことに遭遇しちまったんだ――」
 唾を飲み込むと、息もつかず、一気に波豆君は語った。
「あの日、1月31日の夜8時過ぎ、あらかじめ指定された通り、俺は描き上げた絵を持って和路さんの家へ行った。こういうやり方は4回目だから慣れたものさ。玄関から入って、まっすぐ書斎へ向かう。ドアが半分開いていた。電灯がついていたので和路さんが倒れているのがハッキリ見えた。俺は反射的に室内へ足を踏み入れた。和路さんは完全に死んでた。ピクリとも動かない。死体の頭方向、一直線上の壁に、前回俺が描いて渡した絵が掛軸に仕立てて飾られていた。
 俺、二度見したよ。だって、そっくりだったんだ。和路さんの死様と俺の絵が。ちょうど、3Dマシンに俺の絵を入れるだろ、和路さんが出て来た、ってカンジ」
「君が描いた絵とは、どんなものなんだ?」
 来海サンが紙と鉛筆を差し出す。レジカウンターの上でサラサラッと少年は描いて見せた。 
 薙刀なぎなたを持った屈強な僧兵、背後を行く白い小袖を被ったはかなげなひとり……
 僕はすぐわかった。
「これは――」
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