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 今日で平内の部屋に行くのは辞めよう。悠は心の中でそう決めた。 
 いつものように平内の部屋で夕食を済ませた後、悠は平内のほうに向き直った。
 
 「平内さん、話があるんだ」
 「なに、改まって」
 
 改めて口に出して伝えようとすると緊張してくる。そんな悠が話し始めるのを、平内は静かに待っている。
 
 「……あの、こういうの今日で終わりにしたい」
 「どうしたの、いきなり」
 
 平内が驚いた表情でこちらを見ている。
 悠は今日のために考えてきた、もっともらしい理由を話し始めた。
 
 「仕事終わりで疲れてるし、お互いプライベートの時間を大切にしたほうがいいし……」
 「もしかして、僕と一緒にいるの嫌?」
 「そうじゃないけど……」
 
 嫌じゃない、本当は一緒にいたい。でも気持ちを伝えるべきではない。
 悠が何も言えないでいると、平内は悲しい表情をして口を開いた。
 
 「そうでしょう。僕がきみのこと襲うんじゃないかって思ってるでしょう。この前だって、僕がきみに触れたら急に帰っちゃうし」
 「それは、ちが」
 「脅えさせてごめん。もう無理に僕の部屋に誘ったりしないから。気を使わせちゃってごめんね」
 
 悠の言葉を遮るように、平内は言い切った。 
 
 「違うって言ってんじゃん」
 「……中原くん?」
 
 急に大きな声を出したからか、平内が驚いた表情でこちらを見ている。
 
 「好きなんだ、平内さんのことが」
 
 気がついたときには、言うはずのなかった思いが口から出ていた。
 
 「えっ」
 「最初は変な人だと思ってた。でも、一緒にいるうちに優しいとことか話してて楽しいとことか、全部好きになった」
 
 好きだと言葉に出したらもう止まらなかった。平内への思いがどんどんあふれてくる。
 
 「あのとき助けたのが平内さんのエゴだったとしても、俺は救われたんだ。変に気を遣わないでいてくれるのも嬉しかった。俺を一人の人間として接してくれて嬉しかった。いつの間にか、まだ生きたいと思えるようになってた」
 
 声が震える。油断したら泣いてしまいそうだ。
 途切れ途切れの悠の話を、平内は何も言わずにじっと聞いてくれている。
 
 「……セックスする約束だって、いつするのか内心ドキドキしてた。でもこの前、約束は無かったことにするって言われて、平内さんは俺としたくないんだって思った」
 「それは、きみが僕を避けてたから……」
 「気持ち悪いこと言ってごめん。でも、このまま気持ちを隠し通すのは無理だった。だから、平内さんのせいじゃないから、謝らないで」
 
 自分のせいなのに、平内に謝られるといたたまれなくなる。
 
 「中原くん」
 「好きになってごめんなさい。じゃあこれで」
 
 このままいると目から涙が溢れそうなので、早くこの場を去りたい。
 
 「ちょっと待って」
 
 立ち上がって部屋を出ていこうとすると、平内に腕を掴まれた。 
 
 「離せよ、出ていくから」
 
 そう言った刹那、平内の顔が近づいてきて唇に柔らかいものが触れた。悠は何が起きたのか理解できず、頭が真っ白になった。
 
 「……なにして」
 「中原くん、僕のこと好きなの?」
 「だから、そう言ってんじゃん」
 
 とりあえず、平内の顔が近くて逃げ出したいのだが、両手を掴まれているため出来ない。
 
 「いつから」
 「……一緒に居るうちに、気づいたら」
 「なんだ、僕達すれ違ってたんだね」
 「それって、どういう」
 「僕もきみが好きだよ」
 
 平内は、こちらを真っ直ぐ見つめて言った。自分はからかわれているのだろうか。
 
 「うそ……」
 「嘘じゃないよ。僕が嫌で避けられてると思っていたから、きみが僕を好きだって言ってくれて嬉しい」
 
 我慢できなくなって、悠の目から涙があふれた。これは夢なのだろうか。夢ならばこのまま覚めないでほしい。  
 
 「中原くん、抱きしめてもいい?」
 
 悠が小さくうなずくと、平内は優しく抱きしめてきた。フワッと彼の香りがする。
 
 「ずっとこうしてみたかった」
 
 耳元で囁かれ、心臓が痛いくらいドキドキする。平内に触れている部分が熱い。
 二人はそのまま見つめ合って、どちらからともなく唇を重ねた。徐々に口づけは深くなっていき、何も考えられなくなってくる。
 
 「服、脱がせてもいい?」
 
 平内がそう聞いてきたが、悠はお風呂に入ってないのが気になった。
 
 「俺、汗かいてるから汚い……」
 「じゃあ、一緒にお風呂入ろっか」
 「お風呂でヤるのかよ」
 「まさか、ベッドで大事に抱くに決まってるじゃん」
 
 そんなことをさらっと言える平内に、悠は顔を真っ赤にすることしかできなかった。
 平内に手を引かれ、二人は脱衣所へ向かった。
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