6 / 12
6
しおりを挟む
それからも平内とパン屋へ出勤し一緒に帰宅するという日々を送っていた。
レジの仕事にも慣れて悠一人で業務をこなせるようになってきた頃、製造の業務もしてみることとなった。
製造の業務は、生地を捏ねたりパンを焼いたりなど力仕事が多く、パン作りは思っていたより大変なんだと思った。それでも、自分の作ったパンを買ってくれる人がいると思うとやりがいを感じた。
最初は失敗してしまうこともあったが、平内や上田が丁寧に教えてくれたおかげで、悠は段々コツを掴んできていた。
平内も上田も本当にパンが好きで、大変ながらもパン作りを楽しんでいた。だからここのパンはあんなに美味しいのかと悠は納得した。
「中原くん、最近顔色いいね」
厨房の片付けをしていると、上田が話しかけてきた。
「えっ」
「いや、変な意味じゃないんだけど、前に比べると健康的というか……」
「そりゃそうだよ、ここの美味しいパンと僕の作った美味しい夕食を食べてるからね」
上田が言い終わる前に、平内が話に割り込んできた。
「ちょっ、平内さん」
一緒に夕食を取っているのを知られるのがなんとなく気恥ずかしくて平内を呼び止めたが、上田はその話に食いついた。
「え、平内さん中原くんと一緒にご飯食べてるんですか」
「住んでるとこ一緒だからね、言ってなかったっけ?」
「えっ、一緒に住んでるんですか」
上田が驚きながら二人を見比べた。平内が変な言い方するから、話がややこしくなっている。
「たまたま住んでるマンションが同じだっただけです。一緒に住んではいません」
悠が丁寧に訂正する。そんな様子を平内は笑って見ていた。
「なんだ、そういうことか。いいな~今度俺も混ぜてくださいよ」
「え~上田が来るとうるさくなるしなぁ」
「そんな、寂しいこと言わないでくださいよ」
悠を挟んで、二人はそんなやり取りを続けていた。
たしかに、毎日のように中原手作りの夕食を食べているし売れ残った美味しいパンも口にしている。平内に出会う前と比べると食欲もあるし、健康的な食事をしている。そのおかげか、以前より顔色も良くなり体力も出てきたと自分でも感じていた。
そこで悠はふと思い出した。死ぬ前にセックスをしようという約束はどうなっているのだろうか。あのとき平内は悠を太らせてからすると言っていたが、自分はもう健康体になっていると思う。それとも、もっと太らせるつもりなのだろうか。
「中原くん?」
悠が考え込んでいると、テーブルを挟んで座る平内が話しかけてきた。今日の夕食はカレーライスだった。悠も野菜の下ごしらえをしたカレーは、辛さが丁度良くて美味しい。
「な、なに」
「いや、ボーッとしてたから。何か考え事?」
「別に、なんでもない」
もしかして約束のことを忘れてるとか?いや、俺なんかとするのが嫌になった可能性もある。というか、なぜここまで考えているんだ。俺は目の前にいるこの人とセ……したいのか。いや違うあれはあの場のノリで約束してしまっただけで、この人に抱かれたいとか微塵も思ってない。ってなんで俺が抱かれる側なんだよ。
「……中原くん大丈夫?」
「えっな、なにが」
突然呼びかけられ悠は我に返った。平内が怪訝な顔をしてこちらを見ている。
「なんか顔が赤いけど」
「少し、カレーが辛かったかも」
カレーはそこまで辛くはないが、そういうことにしておく。
「もしかして辛いの苦手だった?ほら、水飲みな」
平内が水の入ったコップを渡してくれた。
「……平内さんは嫌にならないの。毎日のように俺と一緒に夕食取るの」
悠がそう聞くと、平内はカレーを食べていた手を止めて話し始めた。
「嫌にならないよ。ご飯は一人で食べるより誰かと食べたほうが美味しいって言うじゃん。きみは僕と食べるの嫌?」
「別に……温かくて美味しいご飯食べられるし」
「あったりまえじゃん。僕の料理には愛情がこもっているからね」
平内が得意げな顔でそう言った。
「なんだよそれ」
「そうだ、明日僕帰るの遅くなるから一緒にご飯食べられないんだ。ごめんね」
「俺、遅くなっても大丈夫だけど」
「……そんなに僕と一緒に食べたかった?」
深く考えずに言ったのだが、よく考えるとそう解釈されてもおかしくないかもしれない。
「そ、そうじゃなくて、時間が遅くなっても大丈夫ってだけで。無理して一緒に食べたいわけじゃ」
言い訳すればするほど嘘くさくなってくる。
「そんなムキにならなくていいじゃん。いつ帰れるか分からないし、また今度食べようね」
平内は優しく笑いながらそう言うので、悠はまた顔が熱くなった。
レジの仕事にも慣れて悠一人で業務をこなせるようになってきた頃、製造の業務もしてみることとなった。
製造の業務は、生地を捏ねたりパンを焼いたりなど力仕事が多く、パン作りは思っていたより大変なんだと思った。それでも、自分の作ったパンを買ってくれる人がいると思うとやりがいを感じた。
最初は失敗してしまうこともあったが、平内や上田が丁寧に教えてくれたおかげで、悠は段々コツを掴んできていた。
平内も上田も本当にパンが好きで、大変ながらもパン作りを楽しんでいた。だからここのパンはあんなに美味しいのかと悠は納得した。
「中原くん、最近顔色いいね」
厨房の片付けをしていると、上田が話しかけてきた。
「えっ」
「いや、変な意味じゃないんだけど、前に比べると健康的というか……」
「そりゃそうだよ、ここの美味しいパンと僕の作った美味しい夕食を食べてるからね」
上田が言い終わる前に、平内が話に割り込んできた。
「ちょっ、平内さん」
一緒に夕食を取っているのを知られるのがなんとなく気恥ずかしくて平内を呼び止めたが、上田はその話に食いついた。
「え、平内さん中原くんと一緒にご飯食べてるんですか」
「住んでるとこ一緒だからね、言ってなかったっけ?」
「えっ、一緒に住んでるんですか」
上田が驚きながら二人を見比べた。平内が変な言い方するから、話がややこしくなっている。
「たまたま住んでるマンションが同じだっただけです。一緒に住んではいません」
悠が丁寧に訂正する。そんな様子を平内は笑って見ていた。
「なんだ、そういうことか。いいな~今度俺も混ぜてくださいよ」
「え~上田が来るとうるさくなるしなぁ」
「そんな、寂しいこと言わないでくださいよ」
悠を挟んで、二人はそんなやり取りを続けていた。
たしかに、毎日のように中原手作りの夕食を食べているし売れ残った美味しいパンも口にしている。平内に出会う前と比べると食欲もあるし、健康的な食事をしている。そのおかげか、以前より顔色も良くなり体力も出てきたと自分でも感じていた。
そこで悠はふと思い出した。死ぬ前にセックスをしようという約束はどうなっているのだろうか。あのとき平内は悠を太らせてからすると言っていたが、自分はもう健康体になっていると思う。それとも、もっと太らせるつもりなのだろうか。
「中原くん?」
悠が考え込んでいると、テーブルを挟んで座る平内が話しかけてきた。今日の夕食はカレーライスだった。悠も野菜の下ごしらえをしたカレーは、辛さが丁度良くて美味しい。
「な、なに」
「いや、ボーッとしてたから。何か考え事?」
「別に、なんでもない」
もしかして約束のことを忘れてるとか?いや、俺なんかとするのが嫌になった可能性もある。というか、なぜここまで考えているんだ。俺は目の前にいるこの人とセ……したいのか。いや違うあれはあの場のノリで約束してしまっただけで、この人に抱かれたいとか微塵も思ってない。ってなんで俺が抱かれる側なんだよ。
「……中原くん大丈夫?」
「えっな、なにが」
突然呼びかけられ悠は我に返った。平内が怪訝な顔をしてこちらを見ている。
「なんか顔が赤いけど」
「少し、カレーが辛かったかも」
カレーはそこまで辛くはないが、そういうことにしておく。
「もしかして辛いの苦手だった?ほら、水飲みな」
平内が水の入ったコップを渡してくれた。
「……平内さんは嫌にならないの。毎日のように俺と一緒に夕食取るの」
悠がそう聞くと、平内はカレーを食べていた手を止めて話し始めた。
「嫌にならないよ。ご飯は一人で食べるより誰かと食べたほうが美味しいって言うじゃん。きみは僕と食べるの嫌?」
「別に……温かくて美味しいご飯食べられるし」
「あったりまえじゃん。僕の料理には愛情がこもっているからね」
平内が得意げな顔でそう言った。
「なんだよそれ」
「そうだ、明日僕帰るの遅くなるから一緒にご飯食べられないんだ。ごめんね」
「俺、遅くなっても大丈夫だけど」
「……そんなに僕と一緒に食べたかった?」
深く考えずに言ったのだが、よく考えるとそう解釈されてもおかしくないかもしれない。
「そ、そうじゃなくて、時間が遅くなっても大丈夫ってだけで。無理して一緒に食べたいわけじゃ」
言い訳すればするほど嘘くさくなってくる。
「そんなムキにならなくていいじゃん。いつ帰れるか分からないし、また今度食べようね」
平内は優しく笑いながらそう言うので、悠はまた顔が熱くなった。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。

ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい
パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け
★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる