死のうとしたらセックスしてからにしようと言われた話

梅星たね

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 ピンポーン
 朝五時をまわる頃、玄関のチャイムが鳴った。ドアを開けると昨日の男が立っていた。
 
 「おはよう。よかった、死んでなくて」
 
 早朝とは思えないくらいの爽やかな笑顔で話すこの人は、昨日命を絶とうとしていた自分に、死ぬ前にセックスしようとか訳のわからない約束を取り付けた男である。まあ、思わず了承してしまった俺も俺だが……。  
 
 「あんたが言ったんでしょう」
 「じゃあ行こうか」
 
 まだ眠たい目を擦りながら男の後ろをついていく。これからどこにいくのかと言うと、昨日の変な約束を取り付けられた後に遡る。


 『そうだ、きみ僕の店で働かない?最近一人辞めちゃってさ、丁度募集しようと思ってたんだ』
 『よく死のうとしてるやつ雇おうと思ったな』
 『え、変かな』
 『いや変だろ。俺だったら俺みたいなやつ雇おうと思わないね』
 
 自分で言っていて悲しくなるが、どう考えてもこんな面倒なやつと働きたくないだろう。
 
 『さっき死のうとした理由を聞くかぎり、きみは真面目で優しい子だと思うけどね。だから採用!』
 
 男は笑顔でグッドサインをした。やっぱりこの人はどこかズレているところがあるようだ。
 
 『そんなんでいいのかよ、っていうか働くとか言ってないし……!』
 『ええ~別によくない?きみ、どうせ死ぬんでしょう。それに、一緒に居たほうがきみを太らせやすいし』
 
 どうせ死ぬ。そうだ、なにがあっても自分は死ぬのだ。そして、本当ならもうこの世にはいなかったのだから。
 
 『……わかった』
 『じゃ、明日朝五時に迎えに来るね』
 『は、早すぎだろ』
 『うち、パン屋だからね。じゃあまた明日。勝手に死なないでね~』 
 
 そう言って男は出ていってしまった。もちろんドアノブに結びつけていたロープも没収されてしまった。


 そして今に至る。
 本当なら昨日死ぬはずだったのに、こうやって外を歩いているのがなんだか変な感じだ。           
 
 「あ、そういえば僕名乗ってなかったね。平内ひらうち宗介そうすけと言います。きみは?」
 「……中原なかはらゆうです」
 「中原くんだね、よろしく。店はすぐ着くから」  
 
 いろいろあってから家に引きこもっていたから、外を出歩くこと自体あまりなかった。この時間帯は人通りが少ないんだなとか、そんなことを思いながら平内の後ろをついていくと、外見がオシャレなパン屋が見えてきた。

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