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39.最終話

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様子がおかしいことに気付いたのか、ノルックが体を離して顔を覗き込んできた。

「ミノリ…?うれしくないの?」

全力で首を振る。ノルックがしたことは、うれしくないわけなく、むしろ誇らしいくらいだ。
そう思うのに、ノルックの目を見れなくて、否定しながらも顔を逸らしてしまう。

「…なんか、ソニアさんとダイアさんとノルックが会ってたなら、きっともっと早く解決してたな、と思って。
むしろ私がいなかったら、ダイアさんが森の家に結界を張る必要もなくて、もう少し長く、ソニアさんと一緒にいれたかもしれないのに。私が居たせいで、私が余計なことばかりしてたから、遠回りになって、ただかき回して…
私、何のためにいるんだろう…」

思わず溢した懺悔を、ノルックが間髪入れず否定する。

「それは違う。僕はミノリがいなかったらこんなことしようとも思わなかった。
先見の魔女が先見をしてミノリを助けたって言ったよね?それは、たくさんのルートからミノリを助けるに値する人物だって判断したからなんじゃないの?

それに、ミノリが僕を助けてくれて、愛情を注いでくれて、僕が生きることを望んでくれたから、僕はミノリの望みを叶えたいと思った。
ミノリが2人の言葉を守って、2人からの贈り物を大切に持ち続けていたから、ギルス族を犠牲にしない方法を見つけることができたんだ。

ミノリが諦めないでくれたから、僕も、僕が生き続ける方法を考えられたんだよ。

ミノリを介さなかったら、決して繋がっていない。
ミノリが直接手を下したものじゃなくても、確かにミノリの存在があったからこそ実現したことなんだよ。

僕らを繋いでくれたのは、ミノリが生きて導いてくれたからだ。」

本当?私…私も、ちゃんと役に立ってた?
私も、貢献してたって言ってくれるの?

再び目が滲み始めたところで、そっと唇が落とされた。
突然のことに出かけていたものが引っ込む。

「ノルック…今…。」

「ありがとう。あの日、ミノリが僕を森で見つけてくれてよかった。
これでこれからも一緒にいられるね。」

一緒にいられる。その言葉で抑えていた感情が迫り上がってきた。

「ノルック…、ノルック!!」

「うん。」

今度は私から、ノルックに抱きついた。

「ノルック、生きてる。」

「ね、ミノリの願いを一番叶えてあげられるのは、僕でしょ。」

ノルックの言葉がじんわりと沁みてくる。
顔が見えないように押し付けながら、確かに刻んでいる鼓動を感じて堪えてた涙を零した。



新しい結界は、空気中に漂っている魔素(前世の地球でいう酸素みたいなものらしい)を吸収して結界の魔力に反映する仕組みらしく、一度に強い魔力は必要ないからもうノルックでも他の人でも誰でも祭壇に近付けるようになったらしい。

とはいっても、流石に足元に白骨が転がっている場所にずっといるのは耐え難く、一度山の家に戻ることにした。

ノルックは自分が結界に取り込まれたことにして森で2人で過ごそうという。
でもこれでミィミ達とお別れになるのは寂しいから、お屋敷を継続して欲しいと言うと、しぶしぶだけど了解してくれた。

ノルックを眠らせたことで、ノルックが国中にかけていた眠りの魔法は解け、山の家も見つかるのは時間の問題になる。

ノルックが王族にこれ以上都合よく使われないように、ノルックとこれからも一緒にいられるように、まず結界の仕組みを変えたことを周知することにした。

ギルス族を犠牲にしなくても、永久的に結界を維持する魔術を施したこと。この世に魔素がある限り維持されること。不安なら監視でもすれば良い。誰でも祭壇に近付ける、と。

呪いを解除する方法を知っているからか、王は手のひらを返したように従順な態度に変わっていた。

それを逆手にとって、
モンバード家は今後社交界に参加しない、王族に関わらないと約束させる。
その代わり、今回の技術を伝える役割はしてもいいとした。

ソニアさんの置物の技術は、スキャンしていた(いつの間に!)ものを設計書に起こすから王宮魔術研究所で実現させろとノルックがなげた。
編まれていた紐一つ一つに呪文が刻まれているらしく、素材も簡単に入手できる物ではないため同じものを作るにはかなり時間がかかりそうだけど。

これにはキュリテが実現に意欲的になっているらしい。誘拐されたり命を狙われたこともあるし、個人的には二度と会わずにいたいな…


いろんなことが片付いたから、また森の家にきてみた。
山の家は一部を改装して祭壇に訪れる人に解放することにした。

「そういえばダイアさんのブレスレットなくなっちゃったけど、ミィミ達の呪いはもう解除できないのかな。」

「魔力を貯めなくていいなら、こんなもんかな。」

いつの間にかノルックの手にダイアさんがくれたものと似たデザインで、シルバーに光るブレスレットがあった。

「これはミノリにあげる。でも、ギルス族の呪いを解呪させるのは別のやつにやらせる。」

「…どうして?これを使えばできるんでしょ?」

「ミノリがギルス族他のやつに囲まれたりしたら嫌だ。」

ぶすっとむくれた顔をして言う。
珍しい表情とはっきりと伝えられた独占欲に、胸の辺りがむず痒い。

「あ、お屋敷維持してくれてありがとう」

思わず話題を変えてしまう。

周知した後、すぐお屋敷に帰ったけど、ミィミやピナさんハンさんを始め他の従業員の方たちも無事な姿を見て安心した。

「ミノリの望みだからね。僕はこっちに住むことにしてもよかった。」

「ノルックのそういう優しいところ、今思うとすごく救われてた。ありがとう。」

「ミノリ…?」

「ね、ノルック。私考えたんだけどさ、ソニアさんとダイアさん、ノルックのことも救いたかったんじゃないかなって。

ソニアさんの先見で、結界更新する方法はわかっていたんだと思うんだよね。ソニアさんとダイアさんがいれば、結界の仕組みを変えるのは実現できたんじゃないかってやっぱり思うの。
でもこうして私を拾って、お家整えてくれたりメッセージ残してくれたりって手間をかけてくれたのは、ノルックも救える方法だったからなんじゃないかな」

思い起こせば、血縁者でもないのに過保護なくらい私を大事にしてくれた2人だから、ノルックと会う未来を予見してたとして、私にとってもいいことって思ってくれたからなんじゃないかって今なら思う。

「お願いだから、私より先にいなくなったりしないで。何年も、何十年も一緒に生きたい」

そっとノルックにもたれかかると、ノルックもそのまま受け入れてくれた。

「約束した通り、ミノリと二度と離れない。」

約束…ノルックと再会したとき。ノルックが言ってた。そうだね。と笑ってから
そっと唇を重ねた。

「ミノリ、今…」

「ノルックのこと、好き。家族としてもだけど、その、こいびと…にもなりたい。」

顔を見て言う勇気がなくて、ちょっと離れた床を見ながら素直な気持ちを吐き出した。

「ミノリっ…!」

「ノルックがいなくなったら、思い出だけなんてつらいから、がまんしてたけど、これからは手を繋いで街を歩いたり、お揃いのもの買ったり、き、キスも、したいなっておもいます。」

溜め込んでいた気持ちをようやく伝えたのに、沈黙しか返ってこない。

「引いた?」

恐る恐る見上げると、顔を真っ赤にして凝視してくるノルックと目があった。

「最高です…」

そう言ったノルックが抱きしめてくれて、
またキスをした。

すっかり王都の屋敷も居心地が良くなっていたけど
時々は、森の中のお家にも帰って家を掃除して2人でのんびり過ごす時間を作っている。

最期には、いつまでも幸せに暮らしました。で終われるように、ソニアさんとダイアさんが生かしてくれた命を大切にこの手を離さないでいようと誓った。
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