異世界で迷子を保護したら懐かれました

稲刈 むぎ

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34.襲撃

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ノルックが連れてきてくれた元大蛇の住処は、確かに植物の宝庫で、定番の薬草はもちろん、見たことのない植物もたくさんあった。

欲しかった薬草の他に、気になった野草や山菜もいくつか採集して山に持ち帰る。

乾燥させるため、使われていないキッチンに干したり、辞書とメモを駆使して何の植物か調べたりしていると1日があっという間に過ぎるようになった。

ノルックも本を読んだりしながら常に近くにいてくれる。

ふとした時に他愛もない話をしたり、採ってきた山菜を一緒に食べて感想を言い合ったり、薬効のない花は栞やポプリにして飾ったり、最初から山に住んでたんじゃないかと思うくらい平和な時間。

家にいるだけじゃなくて、3日に一度は元大蛇の住処で採集や散歩をして気分転換もできている。

「こうしていると、ノルックと森で住んでた頃を思い出すね。」

珍しい香りのする野草を摘みながら言うと、ノルックも肯定しながら微笑んでくれた。

王都のお屋敷ももちろん良かったけど、自然の中で改めて生活してみると、私はこうしてノルックと過ごす方が合っているように思う。

「あ、あそこのきのこ食べられそう。ちょっととってくるね。」

傘が茶色でツバの部分は白い。あれは確か食べても大丈夫なきのこのはず。

傾斜に生えているきのこに向かって走ると、雨上がりだったようでぬかるみに足をとられて滑ってしまった。

「わっわわっ…」

地面にお尻を打ちつけた時、


バシュン
と音がして一歩分離れた場所に穴が空いた。

「ミノリ!」

「見つけたぞ!捕えろ!」

頭上で声がして見上げると、キュリテと見知らぬ男の人が空中に浮いていた。

「ノルック!!」

「捕まって。」

すぐにノルックが私を掴んで転移する。
転移の直前に、眩しい光が迫ってきて、ペンダントのシールドが発動した感覚があった。



気がついたら泥だらけのままでログハウスの床に座り込んでいた。

転んだ瞬間、地面に穴が空いた。私が転んでなかったらどうなってた?ノルックのペンダントがなかったら?

呆然としている間にノルックが清浄の魔法をかけてくれる。目に見える汚れは消えたけど、ヘドロのような不安感がいつまでも拭えない。

無意識に自分自身を掻き抱いていた。籠をもったままだったから入れていた草花や木の実が膝の上に散らばっている。

ノルックが言っていた『ミノリが指名手配になっている』と言う言葉が頭の中をぐるぐると回りだす。

『捕まえろ』と言っていたけど、放たれたものは明らかに殺意があった。

「もう大丈夫だ。ここなら安全だから。」

ノルックが籠を床に置き、そのまま私を横抱きにする。2度目の清浄の魔法がかけられて、服がいつの間にかナイトドレスに変わっていた。

部屋唯一の扉が開けられて、ベッドに寝かされる。

「あいつらに、何をしたか思い知らせてくるよ。ミノリはここで休んでて。」

ね?といって、そっと髪に触れる手は優しいけど、見上げた顔は瞳孔が広がって黒曜石のような色に変わっているし、額には縦筋が浮かんでいた。
ノルックの腕が背中から引き抜かれる前に咄嗟に掴む。

「ノルック、行かないで。お願い」

「ミノリ?」

少しだけ動揺する気配がした。

「お願い。怖いの…」

荒くなる呼吸をなんとか落ち着かせようとするけどうまくいかない。前世を含めても命の狙われることなんてなかったから、こんな時にどうしたらいいかなんて教わったこともない。

それでもノルックと離れてはいけないと体中が警報を鳴らす。

「ひとりにしないで…」

行き場のない不安が、涙となってこぼれ落ちる。

「…わかった。ここにいるよ。」

ノルックが、身動きができないくらい強く抱きしめてくれる。そのまま身を任せているとだんだんと呼吸が楽になってきた。

拾ったことに恩を感じてくれたとしても、ノルックは私にやさしすぎると思う。私なんて、この世界でただ生きているだけの何も価値のない人間なのに。

年上のくせに、再開してからはノルックに頼ってばかりだ。ノルックに教えられることなんて何があるだろう。

ひとりにしないでなんて、ノルックを縛る権利なんてないのに、何を言ってるの。
これ以上甘え続けたら私がノルックの重石になってしまう。今がノルックを解放する分岐点なんだ。

「…ごめん。やっぱり、ノルックは逃げて。ノルックなら誰にも捕まらずに姿を消すことなんて簡単でしょ?」

別れを決意したけど、ノルックの顔は見れなくて、服の上に広がるシミを凝視していた。

「できれば最後は森の家で過ごしたかったけど…。誓紋が消えた今ならチャンスだから、ノルックは、私や、こんなノルックを酷使するような国から離れて自由になって。
…私のことは、忘れていいから…」

最後の言葉は小さくなってしまったけど、ノルックは聞き逃してくれなかった。

「ミノリを忘れる…?そんなのあり得ない。」

抱きしめられていたはずが、気づいたらベッドに倒されて、両腕が拘束された。
視界がノルックの顔面で占められる。

「ミノリが望むなら、僕とミノリだけで他の奴らは全員消したっていいんだよ?森の民の結界があれば、終末がきたってしばらくは耐えられるはずだ。」

顔を見合わせているはずが目の焦点が合わない。

「だ、ダメだよ!みんなを消すのはやめて」

「ミノリは僕より他の奴らを選ぶの?」

「そういうわけじゃないけど、私は誰の命も奪いたくないし、ノルックにも奪って欲しくない。」

必死に伝えると、間を置いてから「わかった」と言うけど、腕は離してくれなかった。

「ミノリ混乱してるんだね。さっきはひとりにしないでって言ったばかりなのにひとりで逃げろと言うなんて。
落ち着くまでは僕がそばにいるから、今は何も考えずにゆっくり寝たらいいよ。」

弁解しようと口を開こうとしたけど、何故かうっそりと笑うノルックの感情が読めなくて、ただただその顔を見つめ続けてしまった。
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