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28.再診とおねだり

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「どうして…何が嫌だった…?」

腰に回る腕に力が込められる。
ノルックを見ると、瞳がわかりやすく揺れている。

「嫌とかじゃないよ。もともとノルックすぐに帰れるって言ってくれてたじゃない?すぐ戻るものと思ってたから、食料とか整理したいなと思って。あと探したいものとかもあるし。」

大丈夫だと思うけど、傷みそうな食材は持ってくるか処分したい。

「…そういうことなら。カメルの結果が出てからでもいいか?」

帰りたい理由を伝えると、あっさりといつもの顔に戻った。

「あー…うん。もう大丈夫だと思うけど、今日来るんだよね?その後でも大丈夫だよ。」

カメルさんは今日のお昼前にまた来てくれるらしいから、ノルックとお庭を散歩したり帰省用に荷物をまとめたりして待ち時間を過ごした。

予定の時間に近くなったので、応接室に移動してノルックとお茶をしていると、来訪者を知らせるベルが鳴り、扉が開けられた。

「ミノリ様の診察に参りました。」

カメルさんの手には、見たことのない道具がある。

「ミノリ様はそのままでけっこうです。昨日から何か変わったことはありますか。」

昨晩ノルックが布団に入ってきてドキドキしたけど質問はきっとそういうことじゃない。

「いえ、特に何も…。夜もぐっすり寝ちゃいましたし、朝ごはんも食べれたし、散歩もしました。」

私の回答を聞きながら、カメルさんが昨日と同様に腕を摩ったり眼に光を当てたりしてきた。

「それは安心いたしました。…大変申し訳ないのですが、私が知る限りの技術ではミノリ様のお身体に異常がないと断言できる根拠を示すことができません。
治癒者は魔力を検査して異常を調べるのですが、ミノリ様には魔力を全くございませんので。」

カメルさんが申し訳なさそうに目を伏せる。

「王国一の治癒者と謳っていながら役立たずめ。」

吐き捨てるようなノルックの言葉に、カメルさんが悔しげに睨みつけた。

「ノルックは、私の身体を調べることはできないの?」

「患者の状態を調べることができるのは治癒者だけなんだ。僕は修復はできるけど人体の探知はできない。原因がわかれば治せるけど、異常を見つけられない。」

なるほど?魔法にも特性があるのかな。目に見える傷は治せるけど、病の原因を調べて治すのは治癒者の特権みたいなこと?

「昨日、傷口の液体を採取させていただきましたが、こちらから一時的に強力な眠気を促す薬物反応がありました。既に意識があり記憶の混濁などないようですから現在は効果を失っていると思われますが、その確認が魔力から感知できませんでしたので、念のため引き続きご注意下さい。」

知らない間に体に得体のしれないものを打ち込まれていたという事実に、無意識に傷跡を探ってしまう。今回は回復できたからよかったけど、キュリテの『どうこうするくらい訳もない』という言葉が真実味を帯びてきて背筋が冷える。

「それから、僅かに外部からの魔力の残滓がありました。簡易の魔力鑑定を試みられたようです。ミノリ様に魔力がないため恐らくなんの情報も得られなかったと思いますが…」

「あいつがわざわざ薬品を使うとはどういうことだ。魔力を感知させないためなら転移してきた理由が不明だ。
ミノリに魔力がないことは、あの魔力バカが重視するとも思えないが、何をしようとしたのかは気になるな。」

キュリテの企みが見えなくて、思わず腕をさすった。魔力がなくてよかったのか、悪かったのかも今の段階では判断がつかない。

「現状申し上げられる診断結果は以上になります。」

カメルさんはそう言って深いお辞儀をした。

「ふぅん。つまり、ミノリに使われた薬物と鑑定魔法かけられたこと以外は何にもわからないわけか。」

俯きがちに座るカメルさんに、ノルックが冷水を浴びせるように言う。

「そ、そうですが、その代わりに今後を懸念しまして…」

こっち向いたかと思うと期待に満ちた目で見つめてくる。
さっきまでの落ち込んだような雰囲気と180度変わって、言葉尻の割に口角は上を向いているし、頬も上気してきている。

「ミノリ様の様々なデータを取らせていただけますか!
魔力のある私たちとの体の仕組みの違いを明確にし、どのような差があるか、ゆくゆくは実験…いえ、調査させていただき、ミノリ様の今後の健康や治療にお役立てればと…!」

あ、圧が強い…。しかも実験って言った。
今後病気になったときに治し方がわからないのは困るけど、お願いしますと即答できない程度には身の危険を感じる。

「現在の医学に治療法がないなら、お前にはもう用はない。ご苦労だった、もういい。」

何かを言おうとして口を開いた姿を最後に、運んできた荷物と共にカメルさんがいなくなった。
ノルックが魔法で追い出したことは流石にわかった。

昨日の夜ミィミがいなくなったの、ノルックの仕業の可能性もあるな。

「とりあえず、カメルさんの診断だと気をつければ大丈夫そうだし私は特に問題ないと思ってるから、早く森に行こ。」

まとめておいた荷物を掲げる。
このタイミングでどうしても一度帰りたい。

「どうしても帰りたいのか。」

「ノルックが一緒なら何があっても大丈夫でしょ?今回帰ったら、またしばらくはこっちにいてもいいから。」

掲げていた鞄を抱きしめて、ノルックを見つめながらお願いと念じる。

「…わかった。ハン。」

しばらくの沈黙の後、遂にノルックが折れてくれた。
私とノルック以外いないはずの部屋で執事さんを呼ぶ。

「承知しました。」

声のした方を見ると、いつの間にか部屋の中にハンさんがいた。
45度のお辞儀のまま停止している。

「行くぞ。」

ノルックは決めたら行動が早い。
鞄を持ちなおすと、ノルックの手を握り森へ転移した。

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