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23.仲直り

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ノルックがべったりついてくるようになって早くも5日が経った。

まだ森にいた時はよかった。ノルックが楽しそうだったから。今は圧も感じるしずっと目が笑ってないからこわい。神経がすり減る。

下手に喋るとまた逆撫でしそうだからあんまり喋れなくて、2人でいても静かだ。
このところずっと、お互い本ばかり眺めているけど、ノルックはこの状態に満足してるのかな。

1日でようやく訪れる1人の時間。体は温まったけど、離れ難くて湯船で揺蕩う。
お湯が熱いのと温いの境目くらいの温度で快適だ。ずっといたかったけど、のぼせそうになったので出ることにした。

湯船を出ると太陽をいっぱい浴びたようなふかふかのタオルと、肌触りのいいナイトドレスが用意されている。

森では自作した上下のパジャマを着ていたけど、王都ではナイトドレスを着るのが主流らしい。
ノルックの家で初めて着てみた時に、あまりの手触りの良さとシルエットのかわいさにキュンとした。表には出さないようにしてたはずなのに、ばれていたのかそれから毎回欠かさず用意してくれている。

タオルで水滴を拭き取って、用意してくれていたナイトドレスを身につけてから廊下に出ると、初めて入浴した日に執事さんがいたところに、ノルックがいる。ノルックが私の頭に手を翳すと、濡れた髪がブローされたみたいにサラサラになった。そのままするりと髪を撫でられる。

「ねぇノルック、まだ怒ってる?」

「…」

何事もないように撫で続ける。ノルックは沈黙を貫く意思のよう。
そろそろ、何も言わないのも限界だった。少しでも怖気付かないように、視界をノルックの肩に移した。

「私が、ノルックよりミィミを優先するって思った?」

「…」

「私に、ノルック以外の知り合いができるのは嫌?」

「…嫌だ。ミノリが取られる。」

ようやくノルックが口を開いた。

「ただでさえミノリとの時間が少ないのに、他の奴らに取られるのは嫌だ。」

駄々を捏ねているような姿に、森に来たばかりの小さいノルックを思い出して、思わずぎゅっと抱きしめた。

「ノルックは、結界の儀式を受け入れるつもりなんだよね?」

「…そうだ。」

心の奥がツキンと痛む。
でも、もう痛みごと立ち向かうことにした。

「私もノルックとの時間は大事。少ない時間なのにノルックと笑い合えないのは寂しいよ。」

もう一度力を込めてから腕を離した。
決意してノルックの目を見据える。

「今の時間ももちろん大事だけど、ノルックがいなくなったら、わかる?私ひとりぼっちになっちゃうんだよ?
ノルックは良いかもしれないけど、残された私は、ノルックと思い出しかなくなるの。」

目頭が熱くなってきた。奥歯を噛み締めて一呼吸おく。まだ耐えなきゃ。

「ダイアさんとソニアさんがいなくなったとき、本当に辛かった。
私が、魔法がない私が住めるように、2人には必要ないのに、あの家や庭に水を引いて火を起こせるようにしてくれたの。
結界だって、2人が生きてた時はなかった。
全部…私のために、私がこの世界で生きられるように、心を砕いてくれてたの。
いつも話を辛抱強く聞いてくれて、うまくいかないときは励ましてくれて、一緒にいれたのは、ノルックとの時間より短かかったけど、あの家には2人との幸せな思い出がどこにでも染み込んでいるんだよ。
なのに、いなくなったら、声をかけても返事がないし、誰かと2人の思い出を分かち合うこともできないし、あ、あったかかった手は冷たくなっちゃったし、毎日、寒くて、寒くて、あの時私も一緒に死んでしまいたかった…」

息が苦しくなってきて、短く息を吸う。
喉の入り口が詰まってきた。

「せっかく、ノルックと会えて、生きようって思ったのに、ノルックがいなくなったら、またおんなじ気持ちにさせるの?
ノルックについての、共通の記憶を、他の人と持ちたいって思うのは、ダメなのかな。」

堪えきれずに、滴が鼻の横を通りすぎる。

「もうひとりで、思い出だけで耐えられる自信がないよ…」

全部、言い切った。いってしまった。
もう我慢しなくていいんだ。
決壊したように泣き出して、しゃくりあげる私をノルックがどんな顔で見ていたかわからない。
しばらくしてからおずおずと腕が伸びてきて腫れ物に触れるように背中に腕が回ってきた。

「ごめん。ごめんミノリ。ミノリのこと、考えられてなかった。ごめん。泣かないで。」

息が整うまでずっと、ごめん、ごめんと言いながら抱きしめて背中をさすってくれる。

やがて涙も止まり、呼吸も落ち着いてきたので、大丈夫、と合図する代わりに抱きしめ返した。
顔がぐしゃぐしゃで恥ずかしかったから下から見上げるようにノルックの目を探す。

「ね。ノルックも一緒のときでいいから、私にもノルックのお屋敷の人たちと仲良くなりたいな。
ノルックが選んだ人たちなら安心でしょ?」

「……う。…いや……わかった。
ミィミとピナ…は、いいけど、他のやつは……僕がいる時なら、話しかけても………いい…」

すごく歯切れが悪かったけど、ひとまず言質はとれた。
最近ミィミやピナさんだけじゃなく、他の人も不思議なくらい姿を全く見れてないけど、まさか解雇されてないよね…?

涙でカピカピだった顔や、皺だらけになったナイトドレスはノルックが魔法でキレイにしてくれた。

部屋まで送ってくれた後、ちょっと呼ばれたからとノルックが消えたほんの少しの間

窓の近くで魔法陣が現れた。

「やあ。また会ったね」

魔本陣から出てきたのはキュリテだった。

「こんばんは…?というか、不法侵入ですよね?」

ナイトドレス姿の女性の部屋に前触れもなく現れるとか、信じがたい。

「正面からじゃ入れてくれないからさ、ちょっと手荒に攫いにきたよ」

「なっ」

咄嗟に逃げようとするけど、追いつかれて腕を掴まれた。チクリとしたかと思うと意識が遠ざかる。

「すまんね。こっちも切羽詰まってんのでね。」

再び現れた魔法陣に吸い込まれ、部屋は再び無人となった。
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