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21.勉強会
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その日からノルックのスキンシップが増えた。
さりげなく顔や髪に触れてくるし、ハグに頬へのキスが追加されている。
耐性がないから毎回ドキドキしてしまうけど、表面では平静を装っているつもりだ。
ノルックなんて、そのうちいなくなるつもりなんだから乱されたらダメだ。
「ミノリサマ、疲れちゃいました?」
文字を追っていた指が止まっていた。
「ミィミさん!すみません。まだ大丈夫です。」
目を数回強めに瞬かせて、あらためて手元の本に向き合う。
文字を習いたいと言ったら、次の日からミィミさんがお昼前の一刻だけ来てくれることになった。ピナさんはこの時間は抜けられない作業があるんだとか。
教材はお屋敷の中にあった本の中でいちばん読みやすいものをノルックが選んで貸してくれた。
私の願いでミィミさんまで巻き込んでいるのに、集中していないとかどうかしてる。
「今日はここまでにしません?ひと休みしましょーよ。」
気を遣って休憩を提案してくれる。面目がない。
ミィミさんが、手を広げて何か呟くと、お菓子や紅茶の道具が乗ったワゴンが机の真横に現れた。
「見てくださいよ。このお菓子、モンバード様がミノリサマのために用意したらしいっすよ。茶葉も特注のやつです。めちゃ愛されてますね。」
あはは…
ミィミさんの魔法で教材は片付けられ、代わりにティーセットが並んだ。
カップには琥珀色のお茶が入っていて、白い湯気が揺れている。
「いただきます。」
一口飲むと香りが広がって、少しだけ肩の強張りが緩んだ気がした。
ミィミさんが向かいの席を引いて座る。
「そういえばなんですけど、こないだの給料上増しありがたかったです。ミノリサマのおかげでお財布めっちゃ潤ったっす。」
「勤務中に私のわがままで呼んだことだから。気にしないで。」
結局私のお財布から出したお金を、ノルックからもちゃんと渡してくれたみたい。
「うぃ!でも、モンバード様から充分もらってるんで、今後は今日の時間とかも追加しなくていいですからね。
ミノリサマ、ウチらとダチになるためにこないだお茶会したんですよね?」
なんと、ノルックからお茶会の目的まで伝えられていた。
最初からお友だちになりたくてって言えばよかったんだ。変な入りしちゃって言い出しにくくなってたけど、もしかして今が挽回のチャンスでは。
「はい!トモダチなりたい、です。」
正直なところ叶わないと思っていたから友だちは口実のつもりだった。
でも、できることならもちろん欲しい。ソニアさんとダイアさんがいない今、ただでさえ知り合いがノルックしかいないし、同性の友だちがいるってだけでぐっと心強い。
「よっしゃ。この屋敷歳の近い人あんまりいないから、実はウチもミノリサマと仲良くなりたかったんですよ。」
歳近いと言っても私の方が何年か歳上な気がするけど、敢えて触れないでおこう。
若く見られてるってことだし。
「これから、友だちとしてもよろしくお願いします!」
前のめりで言ってしまったけど、ミィミさんはニッと笑ってこちらこそよろしく~と言ってくれた。
「トモダチ記念ってことで、ミノリサマは敬語やめてくれるとありがたいっす。慣れないから敬語使われるの痒くて。あと、名前もミィミだけでいいんで。」
「あ、じゃあ、み、ミィミも…」
「モンバード様コワイから、ウチの話し方は変えられないんだけどー。」
近づけた!と思ったのに、すぐ突き放されてしまった。残念。
「知ってます?ここって、もともと領地取り上げになったお屋敷で働いてた人が殆どなんすよね。でも、仕事サボったり不正したりモンバード様にハニートラップかけようとした人はソッコー消えてるから、残ってる人タチいい人ばっかなんすよ。しかも給料いいから一部ではかなり人気なんです。
そんな好条件の職場なんで、万が一でもミノリサマに不敬ってことでモンバード様のご機嫌損ねてクビにだけはなりたくないんですよね~。」
今までの言動から想像つかなかったけど、ノルックが意外にお屋敷の運営ちゃんとやってることがわかって衝撃を受ける。
ノルックが暴走する未来は安易に見えてしまうので、ミィミの態度が変わらないことは泣く泣く受け入れた。
「でも、ノルックって結界のために魔力ごと捧げられることになってる…んだよね?その後はどうするつもりなの?」
「そしたら次の雇用先を探すしかないっすね。そのためにいいお給料ってところもあるし。てかミノリサマが引き取ってくれたらめっちゃいいんじゃ?むしろこのタイミングで連れてくるとか、ミノリサマにこの屋敷譲る気なんじゃないすか?」
流石にそれは重すぎるから辞退したい。
私は森で暮らし続けたいし、こんな立派なお屋敷の管理なんて自信がない。
「私は森に帰るつもりだから、お屋敷は他の人にお任せしたいかな。」
「えー!そしたらほら、別荘として置いとくとか。王都に家あると便利ですよ?
管理はハンさん…あ、1番ジィさんの執事なんすけど、がやってくれますし!てか、ウチ森についてってもいいすか?ミノリサマ魔力ないんですよね。モンバード様ほどじゃないけどけっこう役に立ちますよ。」
握り拳を掲げてアピールする姿に、思わず笑う。ミィミと森で生活するのも楽しそうだな。
「ダメだ。」
検討しておくって言おうとしたタイミングでノルックが音もなく現れた。
びっくりしてカップを落としそうになる。
「えーっ!いいじゃないですか。味方は多い方がいいですよ。」
ミィミは全く動揺していない。
家主として畏怖の対象かと思っていたけど、気楽な雰囲気で話している。
「ダメだ。ミノリは僕が守るから手出しするな。おまえは話し相手までだ。」
「…モンバード様、あんまり束縛しすぎると嫌われますよ?」
「ミノリは嫌わない。」
「どこから出てくるんですかその自信!」
ばちばちと火花が散る中、口を挟みづらい話題のため、落ち着くまでノルックが用意してくれていたというスイーツを堪能して目を逸らすことにする。
遠くに置かれた教材を見ながら、今日の勉強時間の終わりを感じて明日はもっと集中しようと意気込んだ。
さりげなく顔や髪に触れてくるし、ハグに頬へのキスが追加されている。
耐性がないから毎回ドキドキしてしまうけど、表面では平静を装っているつもりだ。
ノルックなんて、そのうちいなくなるつもりなんだから乱されたらダメだ。
「ミノリサマ、疲れちゃいました?」
文字を追っていた指が止まっていた。
「ミィミさん!すみません。まだ大丈夫です。」
目を数回強めに瞬かせて、あらためて手元の本に向き合う。
文字を習いたいと言ったら、次の日からミィミさんがお昼前の一刻だけ来てくれることになった。ピナさんはこの時間は抜けられない作業があるんだとか。
教材はお屋敷の中にあった本の中でいちばん読みやすいものをノルックが選んで貸してくれた。
私の願いでミィミさんまで巻き込んでいるのに、集中していないとかどうかしてる。
「今日はここまでにしません?ひと休みしましょーよ。」
気を遣って休憩を提案してくれる。面目がない。
ミィミさんが、手を広げて何か呟くと、お菓子や紅茶の道具が乗ったワゴンが机の真横に現れた。
「見てくださいよ。このお菓子、モンバード様がミノリサマのために用意したらしいっすよ。茶葉も特注のやつです。めちゃ愛されてますね。」
あはは…
ミィミさんの魔法で教材は片付けられ、代わりにティーセットが並んだ。
カップには琥珀色のお茶が入っていて、白い湯気が揺れている。
「いただきます。」
一口飲むと香りが広がって、少しだけ肩の強張りが緩んだ気がした。
ミィミさんが向かいの席を引いて座る。
「そういえばなんですけど、こないだの給料上増しありがたかったです。ミノリサマのおかげでお財布めっちゃ潤ったっす。」
「勤務中に私のわがままで呼んだことだから。気にしないで。」
結局私のお財布から出したお金を、ノルックからもちゃんと渡してくれたみたい。
「うぃ!でも、モンバード様から充分もらってるんで、今後は今日の時間とかも追加しなくていいですからね。
ミノリサマ、ウチらとダチになるためにこないだお茶会したんですよね?」
なんと、ノルックからお茶会の目的まで伝えられていた。
最初からお友だちになりたくてって言えばよかったんだ。変な入りしちゃって言い出しにくくなってたけど、もしかして今が挽回のチャンスでは。
「はい!トモダチなりたい、です。」
正直なところ叶わないと思っていたから友だちは口実のつもりだった。
でも、できることならもちろん欲しい。ソニアさんとダイアさんがいない今、ただでさえ知り合いがノルックしかいないし、同性の友だちがいるってだけでぐっと心強い。
「よっしゃ。この屋敷歳の近い人あんまりいないから、実はウチもミノリサマと仲良くなりたかったんですよ。」
歳近いと言っても私の方が何年か歳上な気がするけど、敢えて触れないでおこう。
若く見られてるってことだし。
「これから、友だちとしてもよろしくお願いします!」
前のめりで言ってしまったけど、ミィミさんはニッと笑ってこちらこそよろしく~と言ってくれた。
「トモダチ記念ってことで、ミノリサマは敬語やめてくれるとありがたいっす。慣れないから敬語使われるの痒くて。あと、名前もミィミだけでいいんで。」
「あ、じゃあ、み、ミィミも…」
「モンバード様コワイから、ウチの話し方は変えられないんだけどー。」
近づけた!と思ったのに、すぐ突き放されてしまった。残念。
「知ってます?ここって、もともと領地取り上げになったお屋敷で働いてた人が殆どなんすよね。でも、仕事サボったり不正したりモンバード様にハニートラップかけようとした人はソッコー消えてるから、残ってる人タチいい人ばっかなんすよ。しかも給料いいから一部ではかなり人気なんです。
そんな好条件の職場なんで、万が一でもミノリサマに不敬ってことでモンバード様のご機嫌損ねてクビにだけはなりたくないんですよね~。」
今までの言動から想像つかなかったけど、ノルックが意外にお屋敷の運営ちゃんとやってることがわかって衝撃を受ける。
ノルックが暴走する未来は安易に見えてしまうので、ミィミの態度が変わらないことは泣く泣く受け入れた。
「でも、ノルックって結界のために魔力ごと捧げられることになってる…んだよね?その後はどうするつもりなの?」
「そしたら次の雇用先を探すしかないっすね。そのためにいいお給料ってところもあるし。てかミノリサマが引き取ってくれたらめっちゃいいんじゃ?むしろこのタイミングで連れてくるとか、ミノリサマにこの屋敷譲る気なんじゃないすか?」
流石にそれは重すぎるから辞退したい。
私は森で暮らし続けたいし、こんな立派なお屋敷の管理なんて自信がない。
「私は森に帰るつもりだから、お屋敷は他の人にお任せしたいかな。」
「えー!そしたらほら、別荘として置いとくとか。王都に家あると便利ですよ?
管理はハンさん…あ、1番ジィさんの執事なんすけど、がやってくれますし!てか、ウチ森についてってもいいすか?ミノリサマ魔力ないんですよね。モンバード様ほどじゃないけどけっこう役に立ちますよ。」
握り拳を掲げてアピールする姿に、思わず笑う。ミィミと森で生活するのも楽しそうだな。
「ダメだ。」
検討しておくって言おうとしたタイミングでノルックが音もなく現れた。
びっくりしてカップを落としそうになる。
「えーっ!いいじゃないですか。味方は多い方がいいですよ。」
ミィミは全く動揺していない。
家主として畏怖の対象かと思っていたけど、気楽な雰囲気で話している。
「ダメだ。ミノリは僕が守るから手出しするな。おまえは話し相手までだ。」
「…モンバード様、あんまり束縛しすぎると嫌われますよ?」
「ミノリは嫌わない。」
「どこから出てくるんですかその自信!」
ばちばちと火花が散る中、口を挟みづらい話題のため、落ち着くまでノルックが用意してくれていたというスイーツを堪能して目を逸らすことにする。
遠くに置かれた教材を見ながら、今日の勉強時間の終わりを感じて明日はもっと集中しようと意気込んだ。
応援ありがとうございます!
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