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20.ノルックの気持ち

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もう嫌だ。森へ帰る。

でもまだ王都でやり残したことがあるから帰れない。

ノルックは私を送ったあとどこかに行ったみたいでお屋敷にいなかったから、ピナさんに部屋まで案内してもらった。
部屋に入った瞬間ソファに顔からダイブする。


あーーーこれはやってる。やらかしてる。

ノルックからすると、ちょっとホームステイしてたところに久しぶりに行ってみたら、その家の人が分厚いラブレター書いて待ってたのと同じことだよね?

めちゃめちゃやばい人じゃん私。
普通ドン引きだよ。責められてもなんにも言えない立場だよ。

やばい…

ほんとに、だよね…?

ノルックは、私をそんなやばい人だと認識した上で、ペンダントをくれたり家に招いてくれたり自分は使わない浴室を作ってくれたりしたってことで…

『ミノリが好きな人だから問題ないよ』

コンコンコン

ドアがノックされたので思考を中断した。

「はい!起きてます!!」

うつ伏せ寝だったのを慌てて起き上がって座ってた風を装う。

ドアが開くとノルックだった。

「ミノリ、寝てたの?」

目の前に移動してきたかと思うと手が伸びてきた。

「顔が熱い。病気か?あいつら何した」

「ちが!!違うの!ほら、同じ年くらいの女の人とおしゃべりするの、(この世界に来てからは)はじめてだったからすごい緊張しちゃって!変なこと言わなかったかな~って1人反省会してたというか、2人とも、すごいいい人で話も盛り上がったし、ノルックのことも尊敬してるぽかったし、なんかうれしかったなーって思い出したりしてたら熱くなったというか!」

ノルックをチラッと見上げると、ものすごく訝しんでいる。

「本当に、ステキな人を紹介してくれてありがとう。ノルックのお家で勤めてる人なら安心そうだし、これからオトモダチになれたらうれしいな。ノルックのお家に来たら会えるなんて幸せだな~。」

身振り手振りで必死に2人の無害さをアピールする。これで解雇なんてされたら話の内容はともかく、恥ずかしいし申し訳がなさすぎる。

だって、解雇理由を聞かれたら『お茶会後に部屋に行ったら顔が熱くなってたから』とか言われちゃうってことでしょ?!疑いを確信にされそうじゃん。むりむりむりむり…

祈るようにノルックを見ると、目線を逸らして不満を口元に集めたみたいな顔をしていた。

「やっぱり会わせるんじゃなかった。ミノリが減る。」

「減らない減らない!ノルックがいない時に話相手してもらえたりしたらうれしいなってくらいだから!もちろん!!」

ノルックが、不満顔のまま目を閉じる。眉間に皺も寄ってきた。

「そういえば、ノルックは今帰ってきたの?おかえりなさい。」

とりあえず話題を変えよう。落ちつかないと。

「ただいま。」

いつもの表情に戻って腕を広げて待っている。

傘のようなポーズで立つノルックをしばし眺める。

ハグ、だよね。ハグ。
ハグくらいノルックが小さい時から何回もしてるし、別に特別な事じゃない。

ソファから立ち上がり、おそるおそる背中に腕を回してポンポンと軽く叩くだけのハグをして離れた。

「?」

ノルックが、縦に長い胴体を折り畳むようにして顔を覗いてくる。

「あんま見ないで」

両手でノルックの目が見えないように覆ったけどすぐに避けられた。

「何、意識してるの?」

言われてビクッと反応してしまった。

「ふむ。あの2人には特別給与の方が良さそうだな。」

「あー!そうそう。私の相手してくれたんだから上乗せしてあげてよ!ボーナスっていくらくらいなの?私の手持ちで足りるかな。」

ポケットに入ったままなのに、お金をとりに行くふりしてトランクに向かおうとすると、ノルックに腕を引かれた。
そのままノルックの胸の中に収まる。

「ちょっと、急に引っ張ったら危ないから。」

「ミノリなんか隠してる?」

心臓が跳ねた。さすがにノルックにも伝わってしまっただろう。

「誰にでも隠し事くらいあるものでしょ。何にも教えてくれないノルックに言われたくないよ。」

顔が見えないように、わざとそっぽ向くと、腕が回ってきて抱き寄せられた。

「ミノリ。」

肩におでこが乗せられる。

「内緒にしてもいいけど、嫌いになって離れたりしないで。ミノルがいなかったら生きていけない。」

腕に力が込められて逃げられなくなる。

「ミノリは僕がいなくても平気だろうけど…」

そんなことない、と言おうとしたけど、以前ノルックに問われた時に否定しなかったことを思い出して二の足を踏んでしまった。

「お願い。僕の、そばにいて。いなくならないで。
ミノルがいなくなったら、
      僕何するかわからないな。」

いつのまにか肩の重みがなくなっていた。
頬に触れた唇はひんやりと冷たく、キスをされたことに一瞬気付かなかった。

顔を見合わせると、鈍く光るオーロラの瞳で、逸らさせないようにじっと見てくる。

「…わかった。ノルックも、次どこか行く時はちゃんと教えてね。」

熱かったはずの顔は、いつの間にか冷えて冷たくなっていた。負けないように見返すと、ノルックは満足したのか、いつもの顔に戻った。

「わかった。」と言って、もう一度頬にキスをしてきたけど、2度目はやわらかい唇の感触がして安堵した。
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