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15.ノルックの屋敷
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うん。早まったかもしれない。
「この方を丁重に扱うように。」
「「「「「「 かしこまりました。 」」」」」」
ノルックと、もっと王都での生活とか諸々について打ち合わせしとけば良かった…
王都に行っても長居するつもりはないから、夜のうちにトランク1つ分の荷造りを終えた。
寝て起きたらノルックの転移で王都まで移動。
そこまでは予想通り。
馬車で森から徐々に街へと景色が変わるのを楽しみたい気持ちもあったけど、どう考えても1日そこらで着くような距離じゃなさそうだし、馬車の移動はまたの機会を期待したい。街で地図買えるかな。
それでも、転移先は王都の入り口だと思ってた。ファンタジーの世界では、街の中を通りながら『思ってたより栄えてるんだね』とか言ったり、見知らぬ人とぶつかったり、バザーで買い物したり屋台のものを食べたりしてから目的地に向かうものじゃない?
まさか、ノルックのお屋敷の前にいきなり飛んで、執事さんとかメイドさんとか従業員らしき人たちが勢揃いしてるとは思わなかった。ノルックいつ連絡したんだろう。
…って、“だいまじゅつし”と言われるくらいなんだから、連絡なんてなんとでもできるのか。
お辞儀の角度が全員きれーに揃ってる。
軍隊かと思うくらい圧巻だ。
「ミノリ、中を案内するよ。」
ノルックの手がスッと目の前に出された。
これはいわゆるエスコートの手だ。
リアルでされる時がくるとは思わなかった。
とはいえ、そんな高貴なマナーとかわからないので差し出された手を思いっきり掴んでしまう。
視線を動かすと、私のカバンは執事さんに渡されていた。丁重にお待ちいただいている。
何年かぶりの知らない人がたくさんいる場所に踏み出すのだから、びびってしまうのは見逃してほしい。
エスコートされながら歩くのも慣れなくて、なんでもないところで躓きそうになってしまう。その度にノルックが前に出て支えてくれるのだけど。
ノルックの家は想像以上に大きかった。
ふかふかの絨毯に、綺麗に磨かれた調度品はシンプルで上品さを醸している。
滑らかな手すりの階段を上って角に並ぶ部屋の扉を開くと猫足の家具が揃うかわいらしい部屋が現れた。床は木を組み合わせたおしゃれな柄になっていて、白を基調とした壁紙にパステルカラーのカーテンが揺れている。
えっ、かわいい…?
ノルックって、かわいいもの好きだったっけ?ずっとローブだし、なんならまだ私の失敗作着てるし、あんまり拘りあるように見えなかったけど…
観光地にあるちょっといいホテルみたいな設えに見惚れていると、肩にそっと手が置かれた。
「気に入った?」
「あっ、かわいいお部屋だね。清潔感もあって、素敵だと思う。」
「そう。よかった」
そう答えると、ノルックはドアの前に控えていたセバスチャンみたいな老紳士を呼んだ。
「この部屋の担当者に特別給金を。」
「かしこまりました。」
キレイな90度の角度でセバスチャンさんは下がっていった。
「ノルックって、お金持ちなの?」
「そうだね。一応、王族に仕える契約でそれなりの額は貰ってるけど、あんまり興味ないから」
「そうなんだ。」
気になったけど、話を広げられなくてそこで終了してしまった。
森のことならいくらでも話せたのに、アウェーの環境になると途端に話題がみつからない。一人暮らしが長かった弊害かな…
「…ノルック、この部屋はなんの部屋なの?」
一つ一つの部屋について案内されるものと思って聞いてみたけど、ノルックの回答はそうではなかった。
「ミノリがこれから過ごす部屋だよ。」
「わ、私?!」
にこっと笑ったかと思うと、再び手を取って歩き始めた。
ついていくと、ウォークインクローゼットのようで、かわいらしい靴やワンピースが色別でグラデーションになるように整列されていた。
「これは…」
「全部ミノリの服だよ。ね、着てみて。」
勧められるがままに2、3着袖を通すと、何故か全てぴったりだった。
肩やウエスト、スカートの丈までオーダーメイドみたいだ。
「うん。ミノリはどれも似合うね。気に入った服はあった?」
「あ、うん。あ…ありがとう?」
なんとなく居心地が悪くて、着てきた服に着替えた。ノルックは不満そうだったけど、流石にこんなにたくさんの服なんて、何か裏があるに違いない。
「ほら!ノルックは王様に会いに行かなきゃでしょ?支度しなくていいの。」
当初の目的を忘れたらいけない。
ノルックが登城してる間に街にでも行かせてもらおう。
「あー…、まあ。ね。」
急にすごく歯切れが悪くなった。
どうしたのかと見上げると、一瞬だけ目を逸らしてから合わせてきた。
「それ、ミノリも一緒に行くことになったから。」
「はい?!」
ノルックが手を翳すと、服がいつのまにかドレスに変わっていた。
足元が見えないくらいのロングスカートに、首を隠すハイネックスタイル。手首どころか手の甲まで隠れてしまっている。
髪は何故かオレンジ色に変わっていて、ぼさぼさだ。前髪は鼻につくくらい伸びている。
「ちょ…前見えにくいよ。こんな格好、不敬じゃない?」
「これでいい。陛下の前ではあまり喋らないように。」
暖簾のように前髪をよけながらノルックを見上げると、ノルックの顔から表情が消えていた。
そのまま手を掴まれ、前を見ると
見たことがない荘厳な扉が聳え立っていた。
「この方を丁重に扱うように。」
「「「「「「 かしこまりました。 」」」」」」
ノルックと、もっと王都での生活とか諸々について打ち合わせしとけば良かった…
王都に行っても長居するつもりはないから、夜のうちにトランク1つ分の荷造りを終えた。
寝て起きたらノルックの転移で王都まで移動。
そこまでは予想通り。
馬車で森から徐々に街へと景色が変わるのを楽しみたい気持ちもあったけど、どう考えても1日そこらで着くような距離じゃなさそうだし、馬車の移動はまたの機会を期待したい。街で地図買えるかな。
それでも、転移先は王都の入り口だと思ってた。ファンタジーの世界では、街の中を通りながら『思ってたより栄えてるんだね』とか言ったり、見知らぬ人とぶつかったり、バザーで買い物したり屋台のものを食べたりしてから目的地に向かうものじゃない?
まさか、ノルックのお屋敷の前にいきなり飛んで、執事さんとかメイドさんとか従業員らしき人たちが勢揃いしてるとは思わなかった。ノルックいつ連絡したんだろう。
…って、“だいまじゅつし”と言われるくらいなんだから、連絡なんてなんとでもできるのか。
お辞儀の角度が全員きれーに揃ってる。
軍隊かと思うくらい圧巻だ。
「ミノリ、中を案内するよ。」
ノルックの手がスッと目の前に出された。
これはいわゆるエスコートの手だ。
リアルでされる時がくるとは思わなかった。
とはいえ、そんな高貴なマナーとかわからないので差し出された手を思いっきり掴んでしまう。
視線を動かすと、私のカバンは執事さんに渡されていた。丁重にお待ちいただいている。
何年かぶりの知らない人がたくさんいる場所に踏み出すのだから、びびってしまうのは見逃してほしい。
エスコートされながら歩くのも慣れなくて、なんでもないところで躓きそうになってしまう。その度にノルックが前に出て支えてくれるのだけど。
ノルックの家は想像以上に大きかった。
ふかふかの絨毯に、綺麗に磨かれた調度品はシンプルで上品さを醸している。
滑らかな手すりの階段を上って角に並ぶ部屋の扉を開くと猫足の家具が揃うかわいらしい部屋が現れた。床は木を組み合わせたおしゃれな柄になっていて、白を基調とした壁紙にパステルカラーのカーテンが揺れている。
えっ、かわいい…?
ノルックって、かわいいもの好きだったっけ?ずっとローブだし、なんならまだ私の失敗作着てるし、あんまり拘りあるように見えなかったけど…
観光地にあるちょっといいホテルみたいな設えに見惚れていると、肩にそっと手が置かれた。
「気に入った?」
「あっ、かわいいお部屋だね。清潔感もあって、素敵だと思う。」
「そう。よかった」
そう答えると、ノルックはドアの前に控えていたセバスチャンみたいな老紳士を呼んだ。
「この部屋の担当者に特別給金を。」
「かしこまりました。」
キレイな90度の角度でセバスチャンさんは下がっていった。
「ノルックって、お金持ちなの?」
「そうだね。一応、王族に仕える契約でそれなりの額は貰ってるけど、あんまり興味ないから」
「そうなんだ。」
気になったけど、話を広げられなくてそこで終了してしまった。
森のことならいくらでも話せたのに、アウェーの環境になると途端に話題がみつからない。一人暮らしが長かった弊害かな…
「…ノルック、この部屋はなんの部屋なの?」
一つ一つの部屋について案内されるものと思って聞いてみたけど、ノルックの回答はそうではなかった。
「ミノリがこれから過ごす部屋だよ。」
「わ、私?!」
にこっと笑ったかと思うと、再び手を取って歩き始めた。
ついていくと、ウォークインクローゼットのようで、かわいらしい靴やワンピースが色別でグラデーションになるように整列されていた。
「これは…」
「全部ミノリの服だよ。ね、着てみて。」
勧められるがままに2、3着袖を通すと、何故か全てぴったりだった。
肩やウエスト、スカートの丈までオーダーメイドみたいだ。
「うん。ミノリはどれも似合うね。気に入った服はあった?」
「あ、うん。あ…ありがとう?」
なんとなく居心地が悪くて、着てきた服に着替えた。ノルックは不満そうだったけど、流石にこんなにたくさんの服なんて、何か裏があるに違いない。
「ほら!ノルックは王様に会いに行かなきゃでしょ?支度しなくていいの。」
当初の目的を忘れたらいけない。
ノルックが登城してる間に街にでも行かせてもらおう。
「あー…、まあ。ね。」
急にすごく歯切れが悪くなった。
どうしたのかと見上げると、一瞬だけ目を逸らしてから合わせてきた。
「それ、ミノリも一緒に行くことになったから。」
「はい?!」
ノルックが手を翳すと、服がいつのまにかドレスに変わっていた。
足元が見えないくらいのロングスカートに、首を隠すハイネックスタイル。手首どころか手の甲まで隠れてしまっている。
髪は何故かオレンジ色に変わっていて、ぼさぼさだ。前髪は鼻につくくらい伸びている。
「ちょ…前見えにくいよ。こんな格好、不敬じゃない?」
「これでいい。陛下の前ではあまり喋らないように。」
暖簾のように前髪をよけながらノルックを見上げると、ノルックの顔から表情が消えていた。
そのまま手を掴まれ、前を見ると
見たことがない荘厳な扉が聳え立っていた。
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