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6.独り

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ノルックが居なくなったことに気付いてから、最初に家中を探して、家の中にはどこにもいないことがわかってからは毎日外に出て名前を呼び続けた。



また大蛇が現れたら、自分だけでは逃げられる自信がない。
家が見えるギリギリの範囲で探し続けるけれど、名前を呼んでも砂に石を投げるように何も返ってはこない日々が続いた。

危ない目に遭っていたらどうしよう。
どこかで迷子になって帰れなくなってたら…

そう思うのに、魔物が怖くて足が竦んでしまう。以前は平気だった、草木の揺れる音にも敏感に反応して体が硬直し、満足に探すことができない。

ノルックの事を思うと探しに行くべきなのに。不甲斐なさに震える足を叩きながら涙を流した。

ノルックが消えた日から、初めて魔法が使えないことに不安を覚える。
今までソニアさんとダイヤさんが敷いてくれた柔らかな場所で、いかにぬくぬくと過ごしていたかを思い知らされた。


ソニアさんの結界から離れると、隠匿の魔法で家が見えなくなるので家の場所がわからなくなっているのかもしれない。
庭から見えるギリギリの位置に、ノルックが来た時に使っていた包帯の布を巻きつけた。
夜になっても見つけられるように、土に植っていればぼんやり光りつづける、ホワというホタルブクロのような花を植木鉢ごと添えた。

無事に、無事に帰って来ますように…



例年ならほとんど外に出ないような寒い日でも、かじかむ手を擦りながら歩き回る。
毎日、毎日、祈って名前を呼び続けては
木の包帯が解けていないことを確認する。


ノルックがいなくなってから数えきれない程の夜を迎えて、徐々に1日中探すことは諦めた。

それでも雪に埋もれた食料を採取しながらも、来た時のように銀色の髪が落ちてないか探して、包帯を確認することは日課になっていた。

1日にパンと、乾燥させた木の実を齧るだけでそれ以上は食べたくならなくて
時々スープを作っては何日もかけて食べた。


前よりも、置物と腕輪が側にないと不安で、起き上がれない日は2つを抱えてうずくまり、1日を過ごすこともあった。



寒い日々を超えて外が暖かくなっても、伸びる草を眺めてから去年の半分以下のスペースだけ畑を整えて種を蒔く。

流石に何もしないと飢えてしまう。

『最後まで生きて』

定期的にソニアさんの最期の言葉が浮かんでは、私を生かす。
ただ生きている状態に意味があるのかわからないけど、救ってくれたソニアさんの言葉はできるだけ裏切りたくない。

それにノルックが仮に戻って来たら
どんな状態でもおかえりと言ってあげたい。



見渡すと、床は埃が溜まっていて、物が散乱していた。必要最低限しか洗ってなかったから洗濯物も溜まってる。

まずは掃除しなきゃ。

ノルックのベッドも、キレイにしておきたいな。

カーテンも汚れてきたから、洗ってもいいかもしれない。


やることが見えてくると、少しずつ生きる気力も湧いてくる。
気付けば自然と耕した畑の範囲が広がっていた。

ノルックが戻ってきたら以前の服は着れないかもしれない。
ソニアさんがたくさんの布を保管していたから、ダイアさんの服を解体して型をとって、ノルックの服を縫ってみることにした。

誰かの服を作ったことはないけど
こっちにきてからソニアさんに教わりながら自分の服は作ってみたことがある。
手縫いだから綺麗にはできないけど、失敗したら自分で着ればいいし。

怪我もしてるかもしれないから傷薬を増やしておこう。
薬草が減っていたから明るいうちに採りに行きたい。

何しろ時間はたくさんある。

“ノルックが帰ってきたら”を基準に、ひとつひとつやりたいことを見つけては実行するを繰り返す。

そうして長い時間をかけて、徐々に再び独りの生活を取り戻していった。
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