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王子とフローレンス
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なぜ、私は今記憶を取り戻したのだろう。
せめてフローレンスが生まれてすぐか、まだ自我を持つ前であったなら…
私が16歳の時に生まれたフローレンスや攻略対象の王子も18歳となり、後半年で学園を卒業する。
そう、攻略対象である王子はもう既にヒロインとの恋愛を繰り広げているわけだ。
ゲームと同じように、既に攻略対象の王子と悪役令嬢フローレンスは険悪な仲である。
それもこれも悪役令嬢の父であるタウフェン侯爵が一人娘を甘やかしすぎたことが原因である。
言い訳となるが、身体も弱く華奢な私の亡き妻が命と引き換えに産んだのがフローレンスであった。
もともと病気がちであった妻に、出産は命を縮める可能性があると医師も私も必死で止めたのだが、彼女の決意は強かった。
死を覚悟した彼女は、「もし、仮に私が死んだら私の分までこの子を愛してください」と、遺言した。
その彼女の言葉を受けたからだけでなく、フローレンスの銀髪とルビーの瞳を引き継いだ彼女がとても愛しくてついつい甘やかしてしまった。
我が家のお姫様はなんて可愛らしくも、気高く育ったのだろう。
気の強いフローレンスが問題を起こしても、それすら愛しさを感じ甘やかし、それによりフローレンスの甘えや我儘が悪化するという悪循環が起きていた。
そのため父には甘えてみせるが、その他には我儘放題の独裁王のような娘が出来上がってしまい、当然のように王子とうまく行くはずもない。
*
先の様子も王子の発言だけを聞いたら王子にも悪いところがあったのだろう。
だがその前段がある。
まだ我が家にきて間もないメイドが、短気なフローレンスの怒りを買わぬよう恐怖のあまり、手を震わせながら紅茶を注いだのだ。
幸いドレスや身体にかかることはなかったのだが、震えによりティーサーバーから注がれた曲線がカップの縁にかかりソーサーへと一滴落ちてしまった。
それに対し鬼のように怒り、メイドを平手打ちのうえクビを宣言したのが我が娘フローレンスである。
もともと、娘への悪感情から円満な婚約解消の相談に来ていた王子は、娘の剣幕に、さらに嫌悪感を抱き、先程の発言となった。
今ならわかる。
私の育て方が悪い…
というより私が全て悪い…
なぜだろう。ゲームの力だったのだろうか。
全くフローレンスの言動に疑問すら抱かなかった。
我儘なところも愛らしく、自己中心で身勝手なところもいとおしいと感じていた。
問題は凍てついた今の現状である。
流石に王子に対し手をあげることはないが、既に一触即発の状態。
今までの私であったならフローレンスを庇い、代わりに王子に謝罪をし、事を有耶無耶にしたであろう。
ただ、今それをすると破滅である。
このままだとフローレンスは修道院か国外追放。我が侯爵家もよくて降格、悪くて爵位取り上げとなるだろう。
ゲームの通りだと、断罪時にフローレンスと連座で私も処刑されるんだよな。
せめて平民落ちでお願いします…
これはまずいな…
そもそも、どう見てもフローレンスが悪いし…
「フローレンス、今のはお前が悪いよ。正しい指摘をした殿下に対する態度ではないね。殿下に謝りなさい。殿下、うちの娘が失礼な態度をとってしまい申し訳ありません」
あまりにも予想外であったのだろう。
私の言葉に瞠目するフローレンスと殿下。
「ナタリー、フローレンスがきつい事を言ってすまなかった。クビなどの処分はないから安心しなさい」
フローレンスの逆鱗に触れ、床にしゃがみ込んで泣いているメイドのナタリーの腕を引いて立たせる。
肩をトントンと優しく叩くと、安堵からか号泣する。
ナタリーをメイド長に預け、固まったままのフローレンスの前に立つ。
「フローレンスっ!」
背中を軽く叩いて、王子へ謝罪するように促す。
「お父様~っ…ぐすっ…でもっ」
「フローレンス!謝りなさい」
「…殿下…ご気分を害して申し訳ございませんでした」
頬を膨らませ不貞腐れた顔でしぶしぶ謝罪を口にする。
「いや…私の方こそ少しキツイ物言いをしてすまなかった」
私とフローレンスの態度に驚きつつも、受け入れる王子。
先程の態度はまだ子供だなと思ったが、こういう不測の事態にすぐさま冷静に対応出来るところは流石に王子だな。
せめてフローレンスが生まれてすぐか、まだ自我を持つ前であったなら…
私が16歳の時に生まれたフローレンスや攻略対象の王子も18歳となり、後半年で学園を卒業する。
そう、攻略対象である王子はもう既にヒロインとの恋愛を繰り広げているわけだ。
ゲームと同じように、既に攻略対象の王子と悪役令嬢フローレンスは険悪な仲である。
それもこれも悪役令嬢の父であるタウフェン侯爵が一人娘を甘やかしすぎたことが原因である。
言い訳となるが、身体も弱く華奢な私の亡き妻が命と引き換えに産んだのがフローレンスであった。
もともと病気がちであった妻に、出産は命を縮める可能性があると医師も私も必死で止めたのだが、彼女の決意は強かった。
死を覚悟した彼女は、「もし、仮に私が死んだら私の分までこの子を愛してください」と、遺言した。
その彼女の言葉を受けたからだけでなく、フローレンスの銀髪とルビーの瞳を引き継いだ彼女がとても愛しくてついつい甘やかしてしまった。
我が家のお姫様はなんて可愛らしくも、気高く育ったのだろう。
気の強いフローレンスが問題を起こしても、それすら愛しさを感じ甘やかし、それによりフローレンスの甘えや我儘が悪化するという悪循環が起きていた。
そのため父には甘えてみせるが、その他には我儘放題の独裁王のような娘が出来上がってしまい、当然のように王子とうまく行くはずもない。
*
先の様子も王子の発言だけを聞いたら王子にも悪いところがあったのだろう。
だがその前段がある。
まだ我が家にきて間もないメイドが、短気なフローレンスの怒りを買わぬよう恐怖のあまり、手を震わせながら紅茶を注いだのだ。
幸いドレスや身体にかかることはなかったのだが、震えによりティーサーバーから注がれた曲線がカップの縁にかかりソーサーへと一滴落ちてしまった。
それに対し鬼のように怒り、メイドを平手打ちのうえクビを宣言したのが我が娘フローレンスである。
もともと、娘への悪感情から円満な婚約解消の相談に来ていた王子は、娘の剣幕に、さらに嫌悪感を抱き、先程の発言となった。
今ならわかる。
私の育て方が悪い…
というより私が全て悪い…
なぜだろう。ゲームの力だったのだろうか。
全くフローレンスの言動に疑問すら抱かなかった。
我儘なところも愛らしく、自己中心で身勝手なところもいとおしいと感じていた。
問題は凍てついた今の現状である。
流石に王子に対し手をあげることはないが、既に一触即発の状態。
今までの私であったならフローレンスを庇い、代わりに王子に謝罪をし、事を有耶無耶にしたであろう。
ただ、今それをすると破滅である。
このままだとフローレンスは修道院か国外追放。我が侯爵家もよくて降格、悪くて爵位取り上げとなるだろう。
ゲームの通りだと、断罪時にフローレンスと連座で私も処刑されるんだよな。
せめて平民落ちでお願いします…
これはまずいな…
そもそも、どう見てもフローレンスが悪いし…
「フローレンス、今のはお前が悪いよ。正しい指摘をした殿下に対する態度ではないね。殿下に謝りなさい。殿下、うちの娘が失礼な態度をとってしまい申し訳ありません」
あまりにも予想外であったのだろう。
私の言葉に瞠目するフローレンスと殿下。
「ナタリー、フローレンスがきつい事を言ってすまなかった。クビなどの処分はないから安心しなさい」
フローレンスの逆鱗に触れ、床にしゃがみ込んで泣いているメイドのナタリーの腕を引いて立たせる。
肩をトントンと優しく叩くと、安堵からか号泣する。
ナタリーをメイド長に預け、固まったままのフローレンスの前に立つ。
「フローレンスっ!」
背中を軽く叩いて、王子へ謝罪するように促す。
「お父様~っ…ぐすっ…でもっ」
「フローレンス!謝りなさい」
「…殿下…ご気分を害して申し訳ございませんでした」
頬を膨らませ不貞腐れた顔でしぶしぶ謝罪を口にする。
「いや…私の方こそ少しキツイ物言いをしてすまなかった」
私とフローレンスの態度に驚きつつも、受け入れる王子。
先程の態度はまだ子供だなと思ったが、こういう不測の事態にすぐさま冷静に対応出来るところは流石に王子だな。
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