悪役令嬢の義弟に転生した俺は虐げられる

西楓

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プロローグ

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「サミュエル、今日から君はタインフェル公爵家の一員となる」
こんなに綺麗な男性に会ったことがなかった。
艶やかな黄金色の髪に、吸い込まれそうな空色の瞳、上品な立ち居振る舞い。全てが自分とは別次元の存在であった。
整いすぎた目鼻立ちが冷え冷えとした印象を与え、なんの感情も感じさせない冷淡な視線と相まって血の通っていない人形のように見えた。

その隣には、同じく光沢のある金色の髪に、紺色の瞳、洗練された仕草の少女が寄り添っていた。
男性とよく似た雰囲気をしていたが、直線的な眉毛と釣り上がった目は気の強さを感じさせた。

「はい。伺っております」
腰が折れ曲がるほど深い礼をして従順さを示した。

「この子が君の義姉となるアマーリエだ。君と同じ年齢だ。私のことは義父、娘のことはアマーリエと呼びなさい」
アマーリエは公爵の言葉にフンと鼻を鳴らし、同い年の義弟への不機嫌さを隠そうともしない。

「いいえ。恐れ多い事でございます。旦那様、アマーリエお嬢様と呼ばせていただきますので、よろしくお願いします」





息が止まるかと思った。
公爵の氷のような美貌に驚いたわけでも、アマーリエのビスクドールのような造形に衝撃を受けたわけでもない。

ここゲームの世界だ。

俺はアマーリエの存在を知っていた。
少女ながらに既に完成された美貌の彼女は、ネチネチとした陰険な嫌がらせを行う悪役だった。
小さな頃から性根が腐っていた彼女は、突然同い年の義弟が引き取られたことから、より性格が歪んでいった。
屋敷内で義弟に対し陰険な虐めを繰り返し、王子と婚約してからは王子に纏わりつく令嬢に対し悪質な嫌がらせを繰り返すようになった。
王子ととある女性が懇意になると、卑劣な彼女はその女性に狡猾で陰湿な虐めを行う。
このとある女性がヒロインであり、陰険な女性アマーリエが悪役令嬢である。

ゲームはヒロインが学園に入学したところからスタートする。2年の学園生活の中で王子を含めた3人の攻略対象と親しい間柄となり恋愛模様を繰り広げるのだ。ヒロインが攻略対象を攻略するに当たってどのルートでもライバルとなるのが悪役令嬢のアマーリエだ。

そして、俺はアマーリエに虐待される義弟であり攻略対象の一人でもある。アマーリエにより傷つけられたサミュエルの心をヒロインが癒やし二人の仲が深まるのだ。

アマーリエの顔を見て、俺は前世を思い出し、ここがゲームの世界だと認識した。

これからアマーリエから手酷い虐めを受けるのか。
その先にある愛くるしいヒロインとの交流は確かに楽しみではあるが、彼女と出会う15歳まであと3年間悪役令嬢の陰湿な嫌がらせに耐え得ることが出来るだろうか。

今すぐここから逃げ出したい。

だが俺が公爵家から逃げ出せば家族に迷惑がかかる。前世を思い出してもこれまでの人生の記憶が無くなったわけではなく、家族への情はある。
家族を人質として取られている状況では、公爵にもアマーリエにも逆らうことは出来ない。
ゲームと同じなら公爵もどうせ力にはなってくれない。

アマーリエが断罪され修道院へ行くその日まで俺は耐え続けなければいけないのだろうか。
ただ耐えて待つには5年という日々は長すぎる。
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