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前編
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ある日目覚めると、豪奢な天蓋付きのベッドに横になっていた。
ベッドカバーにも天蓋にもこれでもかというくらいにレースがあしらわれている。
(中世ヨーロッパの世界みたいだな。当時は寝室という概念がないから自分の寝姿を使用人から見られないようにプライベート空間を確保するために天蓋を設けて、安心感と特別感を満たしていたのだろう。
ここは一体どこだ?)
きょろきょろと辺りを見渡していると、窓ガラスに映る金髪の少女と目があった。
輝く金色の髪にグリーンの瞳をした妖精のような少女がこちらを見ている。
(誰だっ?)
「お目覚めですか、ディアナお嬢様」
漫画にでてくるメイド服に包まれた女性が入ってきた。
(ディアナお嬢様?メイド?)
自分の周りには誰もいない。そこでハッと気が付いた。
侯爵令嬢ディアナ…俺は、好きだった乙女ゲームの世界に転生したのだと…
(漫画みたいだよな… 男の俺が女に生まれ変わるなんて…これって転生ってやつか…童顔の割におっぱいもでかいし可愛いし…将来有望だな…むふふ…
人生バラ色だぜ…オナニーしてやろっと…うけけけけ。お前の身体は俺のもんだ…文字通り俺のものか…
この美貌を活かして男誑かしていい思いをしてやるか…)
俺は自由な生活を想像しにやりとほくそ笑んで、ハタと気付く。
(ディアナって…たしか悪役令嬢じゃん…)
ヒロインが4人の攻略対象と恋愛を繰り広げる恋愛シミュレーションームで、第1王子の婚約者で悪役令嬢のディアナ。
なぜか、ヒロインが側近の副生徒会長や風紀委員、教師を攻略する際も私は悪役令嬢として活躍する。
誰とヒロインがゴールインしても、ディアナは卒業パーティで婚約破棄を宣言され断罪される。
(断罪されたらディアナはどうなるんだっけ…思い出せ俺…働け前頭葉…たしか…ヒロインを虐めた罪で自宅謹慎を命ぜらて…
父親である侯爵により市井に落とされたはず…よかった…怖いゲームじゃなくて…死刑とか修道院へ行けとか言われたらどうしようかと思ったじゃん…
でも…貴族でいられなくなるなんてむしろ俺にとってはラッキー。
王子妃とか一般人の俺には無理だ…ゲーム通りエンディングを迎えよう。そうしたら俺には自由な未来が…)
「ディアナ・フィッツウィルド侯爵令嬢、貴様との婚約を破棄する」
(ひゃっほーい。きたきたきたきたー。高まるー)
ディアナの心は踊っていた。前世を思い出してからこの10年間はそれなりに楽しかった。
ディアナの豊満ボディも毎日のように堪能させてもらったし、侯爵令嬢ごっこもゲームを体験しているみたいでそれなりに楽しかった。
だが不満もあった。自由に買い物も行けず、ぐうたら昼寝もできず、気の置けない毎日だった。
そんな日々もこれで終了~
溢れる喜びを抑え、ディアナは俯き悲しみの演技をする。
「承知いたしました、殿下」
ハンカチで目元を抑え眉を下げ俯く。
(ほいっ。これで解放してくれよっ。あとは家に帰って感動されるからさっ!)
ドレスの裾を上げ小さく礼をするとその場を去ろうと踵をかえす。
「えっ!!」
「ま…待ちなさいよっ!私はディアナ様に罵詈雑言を浴びせられ虐められていたんです。謝罪を求めます」
ディアナの潔い行動に驚く王子と噛みつくヒロイン。そのほかの貴族は固唾をのんで成り行きを静かに見守っている。
(ヒロインっ!本性が出てきてるな…ぷふっ…あっそうだった。つい、喜びのあまり先走って断罪されるのを忘れていたぜっ。
でも、何もしていないのに、罪を認めるのもしゃくだな…あのヒロインの顔もなんかむかつくな…)
「殿下、私はその隣にいる女性を存じ上げません。存在を知らない私が虐めるはずもありませんし、必要もありません。
ただ、婚約破棄が殿下の願いであれば謹んでお受けいたします」
ディアナは立ち止まり振り返ると、王子に向かい高らかに宣言した。
ヒロインは唇をぎりぎりと噛み悔しそうな表情をしてディアナを睨んでいる。
「なっ!お前が謂れのないことでこのマチルダを罵倒したことは幾人もの生徒が目撃しておる。
それに…マチルダの教科書を破り持ち物をゴミ箱に捨てたことも分かっておる。
中でも特に卑劣なのは…マチルダを殺害しようと階段から突き落としたであろう」
王子が怒りの余り顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくる。
(いや…普通に令嬢らしからぬ行為をしていたから注意しただけだし…教科書を破るとかそんなみみっちいことするわけがないだろ…
突き落とすってなんのことだ?)
「恐れながら…罵倒ではなく注意かと…。そちらのご令嬢は婚約者のいる数人の男性に娼婦のように纏わりついていると苦情がクラスで上がっておりましたので、学級委員の私がクラスを代表して注意をしたまでです。
本来なら生徒会や風紀委員、教師が注意すべきところですが…どうやらその女性に骨抜きにされていらっしゃるようでしたので…。オホホ。
教科書を破り…でしたっけ、私物は鍵のかかるロッカーに保管しておくことになっておりますので私にはその女性の私物を触るすべはございません。
そして階段と申されましたが、私には全く身に覚えがございません。ここ数か月領地に戻っていたため学園には通学しておりませんので…
そもそも婚約解消を直接おっしゃっていただけたらいつでも応じましたのに…
なんの証拠もなく一方の意見のみを聞き入れ断罪するなんてこれが貴族の鑑となる王家の言動とは信じられませんわ。しかもこのような卒業生の晴の舞台を利用するなんて…」
ディアナは一気に捲し立てドヤ顔をした。
ディアナの言葉に周りのご令嬢がうんうんと頷き拍手をしている。
このヒロインは攻略対象だけでなく多数の男性を誘惑していたので、たくさんの令嬢から苦情が上がっていたのだ。
身に覚えがあるモブ達はぎくりとした表情をして少しずつヒロインから距離を置く。
ヒロインの周りを取り囲んでいる攻略対象者ー生徒会長の王子や副会長、風紀委員長、教師は強気な姿勢を取ってはいるが表情は明らかに強張っている。ヒロインは顔を真っ赤にし頭から湯気を放出している。
(平民となる準備のために領地に引っ込んでいてよかったわ。アリバイ成立!よっしゃ、論破ー。いや…論破しちゃだめじゃん。ここで断罪されないと俺のハッピー平民ライフが…)
「あっ…いえ…そういえば虐めたのかもしれません…きっとそう…虐めたのです。つい動揺して忘れておりました…おっしゃるとおりです。私の事は謹慎処分なりなんなりとなさってください」
慌ててどや顔を隠し神妙な顔をつくる。ディアナの言葉にヒロインは少し首をひねりながらも満足そうな笑みを浮かべている。
(いやあ、焦ったわ…俺って負けず嫌いのところがあるから…でもこれで大丈夫…予定どおり断罪されるはず…)
――えっ?ディアナ様は何も悪くありませんのに…なぜ?
――もしかして殿下のことを思って自ら身を引いたのではないでしょうか…
――さすが令嬢の中の令嬢とも言われるディアナ様だわ…
――それに引き換えあの下品な女は…
――そうですよ。そんな馬鹿な女の一方的な意見だけで断罪しようとするなんてありえませんわ。
ざわめきがどんどん大きくなっている。分が悪いと感じ取った王子と側近たちはひそひそと話し合っている。
(いやいや今さら話し合いなんかするなよ。ゲーム通りこのまま断罪してくれればいいんだからさっ)
「ディアナ、其方のいう通りだ。たしかに何の証拠もなく…しかもこのような場で宣言することではなかった。ディアナも皆の者も大変申し訳ない。
この件については保留とし、追って検証することとする。騒がせてしまってすまなかったが引き続きパーティを愉しんでくれ」
今までの勢いが嘘のように静かに王子が告げ頭を深く下げる。颯爽とその場を後にすると、ヒロインと攻略対象が慌てたように王子の後ろをバタバタと追いかける。
ディアナの横を通りすぎるときにヒロインの声がかすかに聞こえてきた。
「何なのよっ!!…ここで断罪しなければエンディングにいかないじゃないのっ!何よこれっ!!」
忌々しそうにブツブツと呟きながら爪を噛んでいる。
ディアナは初めてヒロインに共感した。
(そうだよ。ちゃんと断罪してくれないと俺のハッピーライフがっ!!もし婚約破棄じゃなくて解消ってことにでもなったら、別の貴族のところへ嫁に行かされてしまうじゃないか…)
令嬢達が同情の笑みを浮かべてディアナのもとに集まってくる気配を感じたが、ディアナは無視をして王子を追いかけることにした。
ベッドカバーにも天蓋にもこれでもかというくらいにレースがあしらわれている。
(中世ヨーロッパの世界みたいだな。当時は寝室という概念がないから自分の寝姿を使用人から見られないようにプライベート空間を確保するために天蓋を設けて、安心感と特別感を満たしていたのだろう。
ここは一体どこだ?)
きょろきょろと辺りを見渡していると、窓ガラスに映る金髪の少女と目があった。
輝く金色の髪にグリーンの瞳をした妖精のような少女がこちらを見ている。
(誰だっ?)
「お目覚めですか、ディアナお嬢様」
漫画にでてくるメイド服に包まれた女性が入ってきた。
(ディアナお嬢様?メイド?)
自分の周りには誰もいない。そこでハッと気が付いた。
侯爵令嬢ディアナ…俺は、好きだった乙女ゲームの世界に転生したのだと…
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人生バラ色だぜ…オナニーしてやろっと…うけけけけ。お前の身体は俺のもんだ…文字通り俺のものか…
この美貌を活かして男誑かしていい思いをしてやるか…)
俺は自由な生活を想像しにやりとほくそ笑んで、ハタと気付く。
(ディアナって…たしか悪役令嬢じゃん…)
ヒロインが4人の攻略対象と恋愛を繰り広げる恋愛シミュレーションームで、第1王子の婚約者で悪役令嬢のディアナ。
なぜか、ヒロインが側近の副生徒会長や風紀委員、教師を攻略する際も私は悪役令嬢として活躍する。
誰とヒロインがゴールインしても、ディアナは卒業パーティで婚約破棄を宣言され断罪される。
(断罪されたらディアナはどうなるんだっけ…思い出せ俺…働け前頭葉…たしか…ヒロインを虐めた罪で自宅謹慎を命ぜらて…
父親である侯爵により市井に落とされたはず…よかった…怖いゲームじゃなくて…死刑とか修道院へ行けとか言われたらどうしようかと思ったじゃん…
でも…貴族でいられなくなるなんてむしろ俺にとってはラッキー。
王子妃とか一般人の俺には無理だ…ゲーム通りエンディングを迎えよう。そうしたら俺には自由な未来が…)
「ディアナ・フィッツウィルド侯爵令嬢、貴様との婚約を破棄する」
(ひゃっほーい。きたきたきたきたー。高まるー)
ディアナの心は踊っていた。前世を思い出してからこの10年間はそれなりに楽しかった。
ディアナの豊満ボディも毎日のように堪能させてもらったし、侯爵令嬢ごっこもゲームを体験しているみたいでそれなりに楽しかった。
だが不満もあった。自由に買い物も行けず、ぐうたら昼寝もできず、気の置けない毎日だった。
そんな日々もこれで終了~
溢れる喜びを抑え、ディアナは俯き悲しみの演技をする。
「承知いたしました、殿下」
ハンカチで目元を抑え眉を下げ俯く。
(ほいっ。これで解放してくれよっ。あとは家に帰って感動されるからさっ!)
ドレスの裾を上げ小さく礼をするとその場を去ろうと踵をかえす。
「えっ!!」
「ま…待ちなさいよっ!私はディアナ様に罵詈雑言を浴びせられ虐められていたんです。謝罪を求めます」
ディアナの潔い行動に驚く王子と噛みつくヒロイン。そのほかの貴族は固唾をのんで成り行きを静かに見守っている。
(ヒロインっ!本性が出てきてるな…ぷふっ…あっそうだった。つい、喜びのあまり先走って断罪されるのを忘れていたぜっ。
でも、何もしていないのに、罪を認めるのもしゃくだな…あのヒロインの顔もなんかむかつくな…)
「殿下、私はその隣にいる女性を存じ上げません。存在を知らない私が虐めるはずもありませんし、必要もありません。
ただ、婚約破棄が殿下の願いであれば謹んでお受けいたします」
ディアナは立ち止まり振り返ると、王子に向かい高らかに宣言した。
ヒロインは唇をぎりぎりと噛み悔しそうな表情をしてディアナを睨んでいる。
「なっ!お前が謂れのないことでこのマチルダを罵倒したことは幾人もの生徒が目撃しておる。
それに…マチルダの教科書を破り持ち物をゴミ箱に捨てたことも分かっておる。
中でも特に卑劣なのは…マチルダを殺害しようと階段から突き落としたであろう」
王子が怒りの余り顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくる。
(いや…普通に令嬢らしからぬ行為をしていたから注意しただけだし…教科書を破るとかそんなみみっちいことするわけがないだろ…
突き落とすってなんのことだ?)
「恐れながら…罵倒ではなく注意かと…。そちらのご令嬢は婚約者のいる数人の男性に娼婦のように纏わりついていると苦情がクラスで上がっておりましたので、学級委員の私がクラスを代表して注意をしたまでです。
本来なら生徒会や風紀委員、教師が注意すべきところですが…どうやらその女性に骨抜きにされていらっしゃるようでしたので…。オホホ。
教科書を破り…でしたっけ、私物は鍵のかかるロッカーに保管しておくことになっておりますので私にはその女性の私物を触るすべはございません。
そして階段と申されましたが、私には全く身に覚えがございません。ここ数か月領地に戻っていたため学園には通学しておりませんので…
そもそも婚約解消を直接おっしゃっていただけたらいつでも応じましたのに…
なんの証拠もなく一方の意見のみを聞き入れ断罪するなんてこれが貴族の鑑となる王家の言動とは信じられませんわ。しかもこのような卒業生の晴の舞台を利用するなんて…」
ディアナは一気に捲し立てドヤ顔をした。
ディアナの言葉に周りのご令嬢がうんうんと頷き拍手をしている。
このヒロインは攻略対象だけでなく多数の男性を誘惑していたので、たくさんの令嬢から苦情が上がっていたのだ。
身に覚えがあるモブ達はぎくりとした表情をして少しずつヒロインから距離を置く。
ヒロインの周りを取り囲んでいる攻略対象者ー生徒会長の王子や副会長、風紀委員長、教師は強気な姿勢を取ってはいるが表情は明らかに強張っている。ヒロインは顔を真っ赤にし頭から湯気を放出している。
(平民となる準備のために領地に引っ込んでいてよかったわ。アリバイ成立!よっしゃ、論破ー。いや…論破しちゃだめじゃん。ここで断罪されないと俺のハッピー平民ライフが…)
「あっ…いえ…そういえば虐めたのかもしれません…きっとそう…虐めたのです。つい動揺して忘れておりました…おっしゃるとおりです。私の事は謹慎処分なりなんなりとなさってください」
慌ててどや顔を隠し神妙な顔をつくる。ディアナの言葉にヒロインは少し首をひねりながらも満足そうな笑みを浮かべている。
(いやあ、焦ったわ…俺って負けず嫌いのところがあるから…でもこれで大丈夫…予定どおり断罪されるはず…)
――えっ?ディアナ様は何も悪くありませんのに…なぜ?
――もしかして殿下のことを思って自ら身を引いたのではないでしょうか…
――さすが令嬢の中の令嬢とも言われるディアナ様だわ…
――それに引き換えあの下品な女は…
――そうですよ。そんな馬鹿な女の一方的な意見だけで断罪しようとするなんてありえませんわ。
ざわめきがどんどん大きくなっている。分が悪いと感じ取った王子と側近たちはひそひそと話し合っている。
(いやいや今さら話し合いなんかするなよ。ゲーム通りこのまま断罪してくれればいいんだからさっ)
「ディアナ、其方のいう通りだ。たしかに何の証拠もなく…しかもこのような場で宣言することではなかった。ディアナも皆の者も大変申し訳ない。
この件については保留とし、追って検証することとする。騒がせてしまってすまなかったが引き続きパーティを愉しんでくれ」
今までの勢いが嘘のように静かに王子が告げ頭を深く下げる。颯爽とその場を後にすると、ヒロインと攻略対象が慌てたように王子の後ろをバタバタと追いかける。
ディアナの横を通りすぎるときにヒロインの声がかすかに聞こえてきた。
「何なのよっ!!…ここで断罪しなければエンディングにいかないじゃないのっ!何よこれっ!!」
忌々しそうにブツブツと呟きながら爪を噛んでいる。
ディアナは初めてヒロインに共感した。
(そうだよ。ちゃんと断罪してくれないと俺のハッピーライフがっ!!もし婚約破棄じゃなくて解消ってことにでもなったら、別の貴族のところへ嫁に行かされてしまうじゃないか…)
令嬢達が同情の笑みを浮かべてディアナのもとに集まってくる気配を感じたが、ディアナは無視をして王子を追いかけることにした。
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