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ジェイデン視点
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イーサン=ヴァルドグレイ子爵家子息。
癖のないプラチナブロンドの髪に、整った鼻筋。
メガネの奥にある茶色がかったヘーゼルナッツ色の濁りなく輝く真摯な瞳は、以前よりも深みを増している。
穏やかで控えめな性格を反映しているのか、彼の顔立ちは決して華やかで目を引くものではない。
理知的な彼は機微に聡く、常に一歩引いて俯瞰的に周りを観察している。
客観的な身体が自分の評価はすこぶる低い。
防御魔法が得意な彼は王宮魔術師として防御システムを構築し、武器や建物を修繕し障壁を作っているが、どんなに小さな仕事でも手を退くことなく、一つ一つ丁寧で細やかな彼の仕事振りはとても評判が良い。
自分から積極的に話すタイプではないが、聞いたら筋の通った意見を押し付けることなく語ってくれる。
聞き上手でもある彼の側はとても居心地がよく、彼の研究室には同僚魔術師がよく集まっている。
エリオット王子も仕事の合間を縫って安らぎを求めイーサンの元に立ち寄っている。
「利き腕近くの傷は生活にもかなり支障をきたしたでしょう。
それは血の滲むような努力をされたのだと剣に疎い私でもわかります。
努力の賜物ですので自信を持ってください」
上手く隠したと思っていた背中の傷に彼は気付いた上で、それまでの私の姿勢を褒めてくれた。
真っ直ぐな彼の言葉はすとんと私の心に響く。
学園での実習演習では、常にサポートに徹し、同じチームの私やメアリーに目を配っていた。
積極的ではないが決して手を抜くことなく張り巡らされた深慮。何も言わずとも私の意図がわかるかのように、私の一挙手一投足に沿った防衛。
彼の存在に気づいた私が、彼に心を奪われるのにそんなに月日は掛からなかった。
そんな彼が、破茶滅茶なご令嬢メアリーを庇って階段から転倒した。誰にでも公平で優しい彼は迷わず身を投げ出して彼女を助けた。
宙に投げ出された彼の姿を見た時に全身の血が凍りつきそうになった。
(まずいっ…)
考えるより先に身体が動いていた。弧を描く彼の着地点を推測し最短距離で移動した。
自分の腕の中に収まる彼の重みや熱さに、彼の無事を感じ安堵するとともに恐怖を感じた。
(イーサンを失うかと思った…こんな思いはもう嫌だ…)
「君の思いやりに気づけなかった私の方こそ相応しくないのかもしれない。
…でも、君に相応しい人間となるよう精進するので、これからも私のことを側で見守ってくれないか?」
私の心の中ではプロポーズのつもりだった。付き合ってもいない彼に結婚を申し込むことは時期尚早だがつい口走っていた。
常に理知的な行動を心がけている私なのだが、彼の側にいると感情に引きずられ突発的な言動をしてしまうことが多々ある。
私の心を和ませるのも突き動かせるのも唯一彼だけだ。何度お願いしても敬語を崩さない彼。放っておくといつでもこの手から逃げ出そうとする彼。私は私が持ち得る全ての力を使って彼を手に入れることに決めた。
イーサンの寮の近くに部屋を借り、毎日のようにイーサンの部屋に入り浸った。子爵家に手を回し、イーサンへの見合い話を阻止した。
業務中の理由ない研究室への立ち入りを禁止とした。
(イーサンを他の奴らに奪われては…)
彼の感情は分かりづらいが、よく見ると喜怒哀楽に満ちている。私が頻繁に彼の部屋を訪問することも彼は嫌がっていない。
私の好物を作り嬉しそうに私が食べる姿を見ている。手の込んだ繊細な料理は彼そのもののようだ。
決して飾り立てているわけでなく、それでいて透き通っていて美しい。
彼に好意を示して2年、夕飯を共にするようになって1年。向けられる好意に鈍い彼に積極的に愛を囁いた。彼の身体に触れたい気持ちを抑え、ゆっくりと時間をかけ彼の周りを固めていった。性急に事を運び逃げられてはかなわない。
「お口にあってよかったです。私の手料理なんかでよろしければいつでもお教えしますね」
頬を染め俯くイーサン。私の言葉に翻弄される彼の姿は嬉しくとても愛おしい。同居すればこんな彼の姿を常に見られると思うと、そう願わずにはいられない。
「私と一緒に暮らさないか?」
溢れる愛情とともに願望が口から漏れてしまった。思わず口を押さえようとした時に、榛色の瞳に宿る熱を見つけ息を飲み込んだ。
「エタン…」
目を逸らす彼の瞳を縫い付ける。目元を赤く染める彼の姿は普段の無垢な姿と相まり倒錯的な色気を滲ませる。
(くっ…煽られる…でも、まだダメだ。怖がらせてはいけない…)
私は拳をぎりぎりと握りしめると、イーサンの熱の残る頬に触れるだけのキスをした。
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外堀埋めて、最後に手に入れた幸運で舞い上がってますね〜フリフリ(ृ˙꒳˙ ृ )ु੭ु⁾⁾
コメント嬉しいです^_^
ありがとうございます。
あはっ…嬉しくて止められず青臭い一面が出てしまいました。