乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓

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その後の話

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小さなテーブルの上に2人分の食事が所狭しと並んでいる。パンとスープにサラダと肉料理、卵料理、少量ずつ美しく盛られた複数の皿を、1セットは俺ともう1セットはジェイデンの前に。

時が経つのは早いもので、ジェイデンと親しくなってから2年が経過した。ジェイデンは言葉のとおり、積極的にアプローチをしてきた。ハイキングや下町散策など休みのたびに誘ってきた。

卒業後魔術師寮に住むようになってからは、こうして週の大半、一緒に夕飯を囲うようになり1年が経過した。彼の側は気を使うこともなく穏やかで心地よい。

(俺みたいなモブがこんなキラキラした彼の近くにいていいのだろうか…)

卒業後、エリオット王子の側近兼文官として王宮で働くジェイデンは、大人になりもともとあった磨き抜かれた美しさに色気まで身につけた。
風に揺れる艶やかな黒髪に、吸い込まれそうなアメジスト色の瞳。光り輝く王子に対し、落ち着いて洗練された物腰。すらりと細いながらもほどよく鍛えられ均整のとれた身体。
家柄、容姿、才能、全てにおいてずば抜けているジェイデンは魅力的で、社交界での人気も高い。
彼の周りには彼の隣の座を虎視眈々と狙う未婚令嬢が常に寄ってくる。

(運良く王宮魔術師になれたとはいえ、もともとサポートキャラの俺は地味で印象に残らない、ただのメガネだもんな…俺はモブで、ジェイデンは攻略対象…付き合うなんてありえないよな…
乙女ゲームの世界に転生したサポートキャラの俺が、ヒロインを押しのけて攻略対象と友達になれたことすら奇跡なんだろう…)

「エタンの料理はいつも美味しそうだな。こんな手の込んだご馳走をありがとう。大好きな君の手料理を食べられるなんて私はなんと幸せ者なんだろう」

まっすぐ好意を口にしてふわりと柔らかい微笑みを浮かべるジェイデン。俺以外の前では感情を隠し表に出さないジェイデンの、俺にだけ見せる素の表情に目を奪われる。

「ううん。料理は私の趣味だから…でも、喜んで貰えて嬉しい…です」

ジェイデンに食べて欲しい、喜んで欲しい、そんな思いで作ったけれど、俺にはそんな思いを伝える勇気がない。眩しいジェイデンの笑顔に俺は小さく俯く。

金色の花を浮かべたスープを口に運ぶと、満面の笑みを浮かべる。数種類の花と野菜にスパイスを加え弱火でコツコツと煮込んだこのスープはジェイデンのお気に入りだ。
この世界では料理に手間をかける習慣はないので、基本強火で焼く、煮る調理で、味付けは濃く食感は硬い料理が多い。ジェイデンも初めは俺の料理に驚いていたが、今では薄味嗜好になってきている。

「美味しかったよ。エタンの料理はとても美味しくてやめらないよ。エタンが作っていると思うと感無量だ。もし良ければ、今度作り方を教えて欲しい。君にも私の手料理を食べて欲しいな。上手くできるかわからないけれど」

茶目っ気たっぷりに片方の目を細めて笑うジェイデンに、俺の心臓がコトンと跳ねる。

人からこんなに愛情を向けられることには慣れず未だに動揺してしまう。しかもこんなに美しいジェイデンから積極的にアピールされるのだからなかなか現実のものと受け止められない。
俺自身もジェイデンに好意を抱いているが、これが恋なのか、ただの友情なのか、はたまた憧れなのかわからない。

前世では生きていくことに精一杯だったし、この世界ではサポートキャラとしての自覚が強く、人とは一定の距離をとり、自分が恋愛することなど考えたこともなかった。

(恋愛感情っていうのがどういうものなのかよくわからない…)

「お口にあってよかったです。私の手料理なんかでよろしければいつでもお教えしますね」

(料理を一緒にってカップルみたい…)

努めて平静を装うが、顔が火照って耳が赤くなっているのが自分でもわかる。ジェイデンはそんな俺の顔を嬉しそうに覗き込む。

「私と一緒に暮らさないか?」

俺を愛おしそうに微笑むジェイデン。他の皆に見せる作られた煌びやかな笑顔ではなく、俺だけに見せる表情。甘く蕩けそうな紫水晶の瞳に俺の顔が映っている。低く凛とした声は強い慕情を含んでいてとても甘い。

(絡め取られそう。逃がさないと言われた訳ではないけど…熱の籠った瞳に見つめられ、甘い声で囁かれ、心を奪われない人がいるのだろうか…)

鼓動が早鐘を打ち、心臓が胸を突き破りそうなほどドキドキする。身体中の血液や熱が一気に顔に流れていくのを感じる。彼の顔を見ることが出来ず、俺はそっと目を逸らす。小さく頷くと、彼がごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。

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