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1人目の攻略対象
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メインキャラの動きはなさそうなので、用無しの俺は昼ごはんを食べに中庭を抜けて食堂へ向かう。
中庭といえば、中庭に接しているサロンに向かったメアリーは無事エリオット王子に会えたのだろうか。
よくは覚えていないが、入学して2ヶ月も経つのでそろそろ愛称で呼び合う頃だろうか。
俺は愛用ゲームの世界を進めることを使命と考えているため、その障害となる可能性のある親友は作っていないので行動は常に一人、いわゆる一匹狼である。
まぁ、俺が意識的にそんな行動をしなくても、ゲームの力で一人行動になっていたのだろう。
メインキャラから話しかけられた時に頭の中に突然浮かんでくる会話、これはゲームの力なのであろう。
「イーサン殿、少し時間をいいか?」
エリオット王子の側近、ジェイデン=ナバーラ公爵家子息である。
宰相の息子の彼は学年で一番の成績で、体術も得意、文武両道でもちろん攻略対象の1人である。
黒髪に涼しげな紫の瞳はネット上でも氷の貴公子として人気を博していた。
その彼が一般市民、いやしがない子爵家次男に過ぎない俺に話しかける理由はただ一つ、ゲームの力である。
「ジェイデン様、勿論です」
サポートキャラの俺はただ従うのみです。
ジェイデン様に連れられ、サロン、しかも王家や選ばれた方々のみ使用が許可されている特別サロンにやってきた。
「周りに聞かれてはまずい話なのだが、わかる範囲で教えて欲しい」
と、ジェイデン様が顔を近づけて小声になる。
教えて…という事は、やはりサポートキャラとしての役割を求めているのだろう。
メアリーの行動?もしくはメアリーの情報?同情を得るためには辛い家庭環境の話を、好感度を上げるためには趣味の料理の話を。
ジェイデン様が尋ねさえしてくれたら、俺の頭の中に回答が浮かんでくる。さぁ、なんでも尋ねてくるがよい。
「わかりました。どのようなご質問でしょう?」
「イーサン殿とメアリー嬢はどのような関係だ?」
ヒロインとサポートキャラです。
・・・・・・・・・・想定外の質問だ。
いつものようにピコーんと回答が浮かんでこない。
少し焦りを感じた俺は、ずり落ちてもいないメガネの真ん中を指でくいと上げて考える。
「ご存知のとおりただのクラスメイトです」
「そうか。メアリー嬢がイーサン殿へ話しかけているところを何回か見かけたので、もっと親しい関係かと思っていたよ」
話といいましても、ほとんどがあなた方攻略対象への質問ですけどね。
「いいえ、ただのクラスメイトとしての会話ぐらいしかした事はありません」
「では、もし、分かるなら教えてくれないか。公開していない情報である私の古傷の事を何故かメアリー嬢が知っていた。
『本来は痺れが残っていたはずなのに、リハビリでここまで回復するなんてあなたは努力をされる方なのですね』と話しかけてきた。
この事は我がナバーラ公爵家でも一部の者しか知り得ない内容である。
何故、メアリー嬢はその情報を知っていたのだろうか。彼女の目的は何なのだろうか。
分かるなら教えて欲しい」
・・・・・これもまた予想外の・・・
やはりピコーんと回答は出てこない。
たしかゲームでは…
「そ、そうですね。ラジヴィン男爵家の関係者でナバーラ家のことを知る者はいないと思います。
学園でもジェイデン様のお怪我のことを存じ上げている者はいないでしょう。
このことからも、おそらくジェイデン様のご様子から推測されたのではないかと……」
「推測とは?」
「ジェイデン様は剣を構える時に左後ろを庇う傾向にありますので、背中に傷があると判断されたのではないでしょうか」
「メアリー嬢がそこまで剣に詳しいとは思えないがそうであろうか…
メアリー嬢は古傷としか言っていなかったが、背中、しかも左後ろとまで分かるとはイーサン殿は流石だな」
そこはゲームの基本知識として知っています。
流石と言われましても俺には剣の才能はなく、防御魔法がただ飛び抜けてるだけのサポートキャラです。
「ただの素人考えですので」
「いやいや謙遜するな。まぁ、私もすぐバレるような構え方をするとはまだまだだな」
(いえ、俺には構え方の癖なんてありません。ゲームの中で先生がそう指摘していました。
もしかしたらメアリーもそれを聞いたのかもしれません。俺のはただのカンニングです)と、心の中で謝る。
「いいえ、私の場合はジェイデン様から古傷と伺ったから想像がついただけで、ほとんど癖は無いかと…
きっと、メアリー嬢はジェイデン様のことをよく観察されていたので気付かれたのでしょう。
よっぽどのことがないとその小さな違和感には気付かれないと思います。
利き腕近くの傷は生活にもかなり支障をきたしたでしょう。
それは血の滲むような努力をされたのだと剣に疎い私でもわかります。
努力の賜物ですので自信を持ってください」
「そうか。メアリー嬢はたまたま知り得たということか。
メアリー嬢がエリオット殿下にも、私とも距離が近く、親しげに知り得ない情報を話しかけてくるので少し警戒し過ぎていたようだ。
よく観察…努力の賜物…
イーサン殿は私のことをよく見てくれていたんだな」
ジェイデンは目を細め照れ臭そうにニコリと笑う。
あれ?
・・・私のことをよく見てくれていたんだな
・・・私のことをよく見てくれていたんだな
このセリフはイベント達成の時にヒロインに言うセリフのような…そこで、笑顔のない氷の貴公子が初めて笑顔を見せ、ヒロインと見つめ合うスチルは神々しかった。
中庭といえば、中庭に接しているサロンに向かったメアリーは無事エリオット王子に会えたのだろうか。
よくは覚えていないが、入学して2ヶ月も経つのでそろそろ愛称で呼び合う頃だろうか。
俺は愛用ゲームの世界を進めることを使命と考えているため、その障害となる可能性のある親友は作っていないので行動は常に一人、いわゆる一匹狼である。
まぁ、俺が意識的にそんな行動をしなくても、ゲームの力で一人行動になっていたのだろう。
メインキャラから話しかけられた時に頭の中に突然浮かんでくる会話、これはゲームの力なのであろう。
「イーサン殿、少し時間をいいか?」
エリオット王子の側近、ジェイデン=ナバーラ公爵家子息である。
宰相の息子の彼は学年で一番の成績で、体術も得意、文武両道でもちろん攻略対象の1人である。
黒髪に涼しげな紫の瞳はネット上でも氷の貴公子として人気を博していた。
その彼が一般市民、いやしがない子爵家次男に過ぎない俺に話しかける理由はただ一つ、ゲームの力である。
「ジェイデン様、勿論です」
サポートキャラの俺はただ従うのみです。
ジェイデン様に連れられ、サロン、しかも王家や選ばれた方々のみ使用が許可されている特別サロンにやってきた。
「周りに聞かれてはまずい話なのだが、わかる範囲で教えて欲しい」
と、ジェイデン様が顔を近づけて小声になる。
教えて…という事は、やはりサポートキャラとしての役割を求めているのだろう。
メアリーの行動?もしくはメアリーの情報?同情を得るためには辛い家庭環境の話を、好感度を上げるためには趣味の料理の話を。
ジェイデン様が尋ねさえしてくれたら、俺の頭の中に回答が浮かんでくる。さぁ、なんでも尋ねてくるがよい。
「わかりました。どのようなご質問でしょう?」
「イーサン殿とメアリー嬢はどのような関係だ?」
ヒロインとサポートキャラです。
・・・・・・・・・・想定外の質問だ。
いつものようにピコーんと回答が浮かんでこない。
少し焦りを感じた俺は、ずり落ちてもいないメガネの真ん中を指でくいと上げて考える。
「ご存知のとおりただのクラスメイトです」
「そうか。メアリー嬢がイーサン殿へ話しかけているところを何回か見かけたので、もっと親しい関係かと思っていたよ」
話といいましても、ほとんどがあなた方攻略対象への質問ですけどね。
「いいえ、ただのクラスメイトとしての会話ぐらいしかした事はありません」
「では、もし、分かるなら教えてくれないか。公開していない情報である私の古傷の事を何故かメアリー嬢が知っていた。
『本来は痺れが残っていたはずなのに、リハビリでここまで回復するなんてあなたは努力をされる方なのですね』と話しかけてきた。
この事は我がナバーラ公爵家でも一部の者しか知り得ない内容である。
何故、メアリー嬢はその情報を知っていたのだろうか。彼女の目的は何なのだろうか。
分かるなら教えて欲しい」
・・・・・これもまた予想外の・・・
やはりピコーんと回答は出てこない。
たしかゲームでは…
「そ、そうですね。ラジヴィン男爵家の関係者でナバーラ家のことを知る者はいないと思います。
学園でもジェイデン様のお怪我のことを存じ上げている者はいないでしょう。
このことからも、おそらくジェイデン様のご様子から推測されたのではないかと……」
「推測とは?」
「ジェイデン様は剣を構える時に左後ろを庇う傾向にありますので、背中に傷があると判断されたのではないでしょうか」
「メアリー嬢がそこまで剣に詳しいとは思えないがそうであろうか…
メアリー嬢は古傷としか言っていなかったが、背中、しかも左後ろとまで分かるとはイーサン殿は流石だな」
そこはゲームの基本知識として知っています。
流石と言われましても俺には剣の才能はなく、防御魔法がただ飛び抜けてるだけのサポートキャラです。
「ただの素人考えですので」
「いやいや謙遜するな。まぁ、私もすぐバレるような構え方をするとはまだまだだな」
(いえ、俺には構え方の癖なんてありません。ゲームの中で先生がそう指摘していました。
もしかしたらメアリーもそれを聞いたのかもしれません。俺のはただのカンニングです)と、心の中で謝る。
「いいえ、私の場合はジェイデン様から古傷と伺ったから想像がついただけで、ほとんど癖は無いかと…
きっと、メアリー嬢はジェイデン様のことをよく観察されていたので気付かれたのでしょう。
よっぽどのことがないとその小さな違和感には気付かれないと思います。
利き腕近くの傷は生活にもかなり支障をきたしたでしょう。
それは血の滲むような努力をされたのだと剣に疎い私でもわかります。
努力の賜物ですので自信を持ってください」
「そうか。メアリー嬢はたまたま知り得たということか。
メアリー嬢がエリオット殿下にも、私とも距離が近く、親しげに知り得ない情報を話しかけてくるので少し警戒し過ぎていたようだ。
よく観察…努力の賜物…
イーサン殿は私のことをよく見てくれていたんだな」
ジェイデンは目を細め照れ臭そうにニコリと笑う。
あれ?
・・・私のことをよく見てくれていたんだな
・・・私のことをよく見てくれていたんだな
このセリフはイベント達成の時にヒロインに言うセリフのような…そこで、笑顔のない氷の貴公子が初めて笑顔を見せ、ヒロインと見つめ合うスチルは神々しかった。
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