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王子とヒロイン
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「まずいっ‼︎」
廊下から届くイザベラの声に、ニコラス王子は激しく狼狽した。
すぐにコホンと咳をすると唇を引き締めて、気を取り直す。目をキョロキョロさせて辺りを見渡すと、勢いよく僕の腕を引っ張って、窓近くのロッカーに身を隠した。
少し大きめの業務用のロッカーは、運良く中身があまり入っていなかった。男性2人が入るには少し狭いが、身動きができないほどではない。
ニコラス王子が僕の背中に右腕を回し密着した状態で、左の手で僕の口を塞ぐ。
「…っ!…」
「少しだけ我慢してくれ」
ニコラス王子が耳元で囁いてくるのと、同時にドアが開いた。
「ニコラス王子~っ、もうっ~どこに隠れてるんですかぁ?いるのはわかってるんですよぉ~」
ベッドを囲むカーテンをシャーっと勢いよく開けていく。
何これ…怖い…ホラーみたいだ…
愛らしい声とのギャップでなおさら恐ろしく感じる。
「ここかなぁ?」
一つずつ布団をめくって確かめているようだ。
静かな保健室に楽しそうなイザベラの声と、布団やカーテンを捲る音が響く。
胸がどくんどくんと激しく波打つ。
口を塞がれていてよかった。イザベラの言動がとてつもなく恐ろしくて、思わず声が出てしまっていたかもしれない…
口から心臓が飛び出てしまいそうだ。
ベッドから離れて、窓の方へ近づいてくる気配がする。
(どうしよう…手が震えてきた。このままだとカタカタと身体が震える音が外に漏れてしまう。
音が漏れるとここにいることがバレてしまう…)
どくん
「イザベラ様~、ユラン様も居ないですし、教室へ戻られたんじゃないですか?」
取り巻きの声が廊下から飛び込んでくると、イザベラはちっと舌打ちをして踵を返した。
苛立ちを隠せぬように、扉を荒々しく音を立てて開閉すると、パタパタと廊下を走り去っていった。
ふうっ…
(まさか、ロッカーの中に王子がいるとは考えなかったのだろう…助かった…
もしあの時ロッカーを開けられてたら…
王子と二人きりでいるところを見られてしまっていたら…)
恐怖心と安堵が複雑に入り混じり、全身の力が一気に抜ける。思わず身体から力が抜け、王子に一気に寄りかかった。
王子はロッカーから僕ごと抜け出ると、僕の鼓動が鎮まるまで、ずっと寄り添い強く抱きしめてくれた。
王子の胸に僕の耳を押し当てている体勢のため、王子の胸の音がダイレクトに聞こえてくる。
目を瞑り王子の波打つ鼓動の音に集中すると、少しずつ心が静かに休まり、穏やかになっていくのを感じた。
(王子は腕の中はとても温かくて兄と一緒にいるみたいで安心する…兄上…)
安堵感からか一筋の涙か流れ落ちる。王子は優しく指で拭うと腰を屈めて僕に視線を合わせる。王子の瞳に映る僕はゆらゆらと揺れていた。
怖いほど真っ直ぐな視線を僕に向けて言った。
「あの女は危険だ‼︎スパイかもしれない。私達は今イザベラの正体とそのバックを調べている。
ユラン、君のことは私達…私が守る。君も絶対に彼女に近づくな」
僕の両手を強く握り大きく頷くと、颯爽と保健室を出ていった。
廊下から届くイザベラの声に、ニコラス王子は激しく狼狽した。
すぐにコホンと咳をすると唇を引き締めて、気を取り直す。目をキョロキョロさせて辺りを見渡すと、勢いよく僕の腕を引っ張って、窓近くのロッカーに身を隠した。
少し大きめの業務用のロッカーは、運良く中身があまり入っていなかった。男性2人が入るには少し狭いが、身動きができないほどではない。
ニコラス王子が僕の背中に右腕を回し密着した状態で、左の手で僕の口を塞ぐ。
「…っ!…」
「少しだけ我慢してくれ」
ニコラス王子が耳元で囁いてくるのと、同時にドアが開いた。
「ニコラス王子~っ、もうっ~どこに隠れてるんですかぁ?いるのはわかってるんですよぉ~」
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何これ…怖い…ホラーみたいだ…
愛らしい声とのギャップでなおさら恐ろしく感じる。
「ここかなぁ?」
一つずつ布団をめくって確かめているようだ。
静かな保健室に楽しそうなイザベラの声と、布団やカーテンを捲る音が響く。
胸がどくんどくんと激しく波打つ。
口を塞がれていてよかった。イザベラの言動がとてつもなく恐ろしくて、思わず声が出てしまっていたかもしれない…
口から心臓が飛び出てしまいそうだ。
ベッドから離れて、窓の方へ近づいてくる気配がする。
(どうしよう…手が震えてきた。このままだとカタカタと身体が震える音が外に漏れてしまう。
音が漏れるとここにいることがバレてしまう…)
どくん
「イザベラ様~、ユラン様も居ないですし、教室へ戻られたんじゃないですか?」
取り巻きの声が廊下から飛び込んでくると、イザベラはちっと舌打ちをして踵を返した。
苛立ちを隠せぬように、扉を荒々しく音を立てて開閉すると、パタパタと廊下を走り去っていった。
ふうっ…
(まさか、ロッカーの中に王子がいるとは考えなかったのだろう…助かった…
もしあの時ロッカーを開けられてたら…
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恐怖心と安堵が複雑に入り混じり、全身の力が一気に抜ける。思わず身体から力が抜け、王子に一気に寄りかかった。
王子はロッカーから僕ごと抜け出ると、僕の鼓動が鎮まるまで、ずっと寄り添い強く抱きしめてくれた。
王子の胸に僕の耳を押し当てている体勢のため、王子の胸の音がダイレクトに聞こえてくる。
目を瞑り王子の波打つ鼓動の音に集中すると、少しずつ心が静かに休まり、穏やかになっていくのを感じた。
(王子は腕の中はとても温かくて兄と一緒にいるみたいで安心する…兄上…)
安堵感からか一筋の涙か流れ落ちる。王子は優しく指で拭うと腰を屈めて僕に視線を合わせる。王子の瞳に映る僕はゆらゆらと揺れていた。
怖いほど真っ直ぐな視線を僕に向けて言った。
「あの女は危険だ‼︎スパイかもしれない。私達は今イザベラの正体とそのバックを調べている。
ユラン、君のことは私達…私が守る。君も絶対に彼女に近づくな」
僕の両手を強く握り大きく頷くと、颯爽と保健室を出ていった。
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