当て馬令息はフラグを回避したい

経過観察

「ユラン様？…ユラン様？ああ…よかった…ユラン様、ヒースです。わかりますか？」
ヒースが心配そうに覗き込んでくる。

「ヒース。僕あれから？」

「お怪我をされてから高熱で丸2日寝込んでいらっしゃったんですよ。お身体はどんな感じですか？」
右腕を軽く動かそうとすると全身に痛みが走った。

「痛っ！」

「あぁ、無理なさらないでください。骨にヒビがはいっておりますので安静の指示が出ております」
腰に手をやるとコルセットが巻かれていた。コルセットで固定し、３～４週間安静にする保存治療となるようだ。

「イザベラ嬢は？」

「あの女はかすり傷ひとつなく元気にしているようです。ユラン様が骨折をしたことを知っても、『自分は悪くない、ユランさんが自分を触ろうとしたのを振り払っただけだ』と繰り返すばかりで話にもならず…
伯爵様から学校と男爵家に抗議はしておりますが反応は芳しくありません」

ヒースが悔しそうに唇をかみしめている。

「そう…ありがとう。ふふ。なんだが５年前のこと思い出すね。あの時も意識が戻って最初に見えたのがヒースだったね。何度も心配かけてごめんね。いつも近くにいてくれてありがとう」

「ユラン様。勿体ないお言葉ありがとうございます。お守りできず申し訳ありません」




＊




1ヶ月自室で安静にすることになった。教室に行かなかったが、自室で課題に取り組んだり、ヒースとお茶をしたりと穏やかな日々を過ごしていた。

学校側が当時の聞き取りや怪我の回復状況の確認に訪れたり、クラスメイトが課題をもってお見舞いに訪問することが稀にあった。

学校側によるとイザベラは一貫して無実を主張しており、目撃者もいないことから裏を取ることが出来ない状況らしい。

ただ、ユランの右脇に打身の青あざがあったことと、倒れた時の位置から、故意か過失かはわからないがイザベラの方から接触したという可能性が濃厚であるというのが学校側の見解だそうだ。

しかし、以前からユランによる付き纏いを訴えていたこともあり、恐怖心からの過敏な反応であれば正当防衛の一種とも捉えることが出来、責めることはできないとのことだ。

僕やヒースが付き纏いを否定しても、受け取り手であるイザベラが不快に感じており、数人ではあるが周りの人も同様の発言をしているため、故意と判断するには難しいようだ。

見舞いに来てくれた幾人かのクラスメイトの中には僕を信じ、イザベラの言動に疑問をもつ者もいるが、依然としてイザベラの取り巻きはイザベラを擁護しており、ユランが休みになってからは取り巻きの数は増えているとのことだった。