当て馬令息はフラグを回避したい

西楓

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ユランのお願い

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入学に向けて、兄上とヒースに少し事情を打ち明けることにした。

ここ数日の僕のやつれぐあいをみて、兄もヒースも理由を突っ込んで聞いてはこなかったがずっと心を痛めているからだ。

父と寝るようになって夜眠れるようになったので、僕の心にも余裕が出て周りを見れるようになったのかもしれない。





「兄上、ヒース…お話があります」

今日は訓練日ではないけれど、夕食後兄の部屋に集まることにした。

隣のソファに兄が腰掛け、僕の手を握っている。ヒースは斜め前に立ち、こちらを心配そうにうかがっている。

「前に言った夢のことですが…」

目を軽く閉じ深呼吸をすると、意を決して話しはじめた。

夢のような不確かなものに何故ここまで振り回されているのか、と一笑に付すのだろうか。
それとも頭がおかしくなったと心配するだろうか。
笑い飛ばされるのだろうか。

どんな反応をするのだろう。
ヒロインちゃんとの恋愛を邪魔したくないから話さなかった…それは詭弁に過ぎない。

(僕は嫌われたくなかったんだ。この世界でやっと掴んだ好意を離したくなかったんだ。

でも、今なら2人に話せる。きっと2人なら受け止めてくれる)


「無理して話さなくてもいいんだよ」

少し口籠もって俯く僕の顔を、兄が覗き込んで言う。

「いいえ、、聞いてください。兄上とヒースには知っていて欲しいんです」

ーー僕は倒れたときに夢をみたこと
ーー夢の中で僕は僕の未来を知ってしまったこと
ーー未来の中で、僕は出会った女性に乱暴をしてしまうこと
ーー父や兄には嫌われていたが、その出来事が決定打となり、それ以降兄とは顔を会わすこともなくなったこと
ーーヒースも僕を蔑み僕から離れていくこと
ーーそして、それは学校に入学してからはじまること
既にいくつか予言のように一致していて、ただの夢とは思えないこと

前世とか、ゲームとかの要素はあえて省いた。
ヒロインのことを好きにならないで僕を見ていて欲しい。独占欲、嫉妬心のようなものはあるが湧いてくる。

でも、ただの弟、主の僕が2人にそんなことをいう資格はない。ヒロインと攻略対象の関係についても触れなかった。

「例え媚薬がきっかけとはいえ、やってはいけないことをやってしまったのだから当然なんだけど…
ニコラス王子や兄上、ヒースの僕をみる冷たい視線が心に突き刺さって、どうしても忘れられなくて…
いつか現実になって、夢に見たように嫌われてしまうかと思うと怖くて…」

「泣かないで、ユラン。話してくれてありがとう。ずっとそのことで悩んでたんだね」

「ユラン様、夢とはいえ申し訳ありません」
僕の顎をくいと持ち上げ、優しく指で涙を拭う。

「私はもちろん何があってもユランの味方で、決して傷つけることはないよ」

「私もです。死ぬまでユラン様の味方です」

「兄上…ヒース…」

安心感からかとめどなく涙が溢れてくる。

「困ったね。ユランの不安を解消してあげたいが…どうしたら…」

「…それでしたら…入学するまであと数日ですが、毎日訓練してもらえませんか?
あの行為をしていると、2人のことが好きでたまらなくなって…他のことを考えられなくなるんです。
それに2人からも愛されている気がして…
もっともっと兄上とヒースでいっぱいにしてもらえませんか?」

「愛しいユラン、もちろんだよ」

(おお、まさかユランからお願いされるなんて…)

「ユラン様、こちらの方こそお願いします」

(恥ずかしそうにおねだりするユラン様…なんて素敵なんだ…)

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