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兄とヒース
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「カール様がお呼びですので、少し離れます」
眉根を寄せたヒースの顔は不満そうだ。
(そういえば夕食のときの兄上も、笑顔だったけど時折厳しい顔をしてたなぁ。
兄上の不機嫌とヒースの不満…関係しているのだろうか…)
「大丈夫だよ。心配しないでヒース。何かあったらエリスに言うから」
倒れる前のユランは優しいメイドのエリスにべったりだった。
いつの間にかヒースが僕専用の従者になり、エリスはユランの部屋にはほとんど入ってこなくなった。
*
「カール様、御用でしょうか」
「なにが、御用でしょうか、だ。わかっているだろう?なんで呼び出されたか…」
「…ユラン様のことですね」
「あぁ、私のユランのことだよ。今朝、ユランに何をしたんだい?ヒース」
「俺のユラン様ですね。不本意ですが、カール様貴方と同じことですよ」
「貴様っ!まさか私のユランに無理強いを⁉︎この卑怯者がっ」
「卑怯者?貴方には言われたくありませんね。ここをほぐしたら女の子を襲わないとか、どうせ純粋なユラン様に嘘を信じ込ませて、手にかけたんでしょう⁉︎」
「くっ!ひ、ヒース、お前の方だって、どうせその嘘に乗っかって、純粋なユランの身体を弄ったんだろう」
*
兄上の部屋で、カール兄上とヒースの攻防が繰り広げられてるとはユランは知る由もなく、エリスの入れた紅茶を堪能し寛いでいた。
「エリス、美味しい紅茶をありがとう」
「お口にあってよかったです、ユラン坊ちゃま」
思わず強くエリスの腕を握ると、エリスがあらまあとユランの頭を優しく撫でてくれた。
(エリスって優しくっていいなぁ。包容力があって、お母さんってこんな感じなのかな。だったらいいな…)
病弱で儚い美人だったとは聞いてはいるが、母はユランが生まれてすぐに亡くなったためユランには母に甘えた記憶がなかった。
(前世でも、お母さんとはたまに病院に着替え持ってきてくれたけど、僕がお金ばっかり使う悪い子だったからお母さん怒ってばかりだったから…頭を撫でてもらったことはなかった…僕がだめな子だから…)
ユランがエリスとの至福の時を過ごしている間に、カールの部屋では交渉が行われていた。激しい話し合いの末ユランの訓練の割り当てが決まっていたようだ。
訓練で身体に負担がかかり体調を崩すことがないように、訓練は隔日で実施し、2日に1回は休息を設ける。隔日の訓練日は、カールとヒースが交互に対応する。
(そう言えば、訓練では2回とも意識が飛んでしまったもんなぁ。
さすが、伯爵家秘伝…おそろしい…なんか、変な感じになったもんな…
僕が僕じゃなくなりそうで…怖いっ…やめようかな…いや、でも卑怯な人間になることの方が嫌だ。
いや…諦めない…
あつしくんも努力はきっと報われるって言っていた。頑張って強制力にあらがえば、みんなで幸せになれる道が開けるはず…)
ユランは目を瞑り何度も自分に言い聞かせた。
眉根を寄せたヒースの顔は不満そうだ。
(そういえば夕食のときの兄上も、笑顔だったけど時折厳しい顔をしてたなぁ。
兄上の不機嫌とヒースの不満…関係しているのだろうか…)
「大丈夫だよ。心配しないでヒース。何かあったらエリスに言うから」
倒れる前のユランは優しいメイドのエリスにべったりだった。
いつの間にかヒースが僕専用の従者になり、エリスはユランの部屋にはほとんど入ってこなくなった。
*
「カール様、御用でしょうか」
「なにが、御用でしょうか、だ。わかっているだろう?なんで呼び出されたか…」
「…ユラン様のことですね」
「あぁ、私のユランのことだよ。今朝、ユランに何をしたんだい?ヒース」
「俺のユラン様ですね。不本意ですが、カール様貴方と同じことですよ」
「貴様っ!まさか私のユランに無理強いを⁉︎この卑怯者がっ」
「卑怯者?貴方には言われたくありませんね。ここをほぐしたら女の子を襲わないとか、どうせ純粋なユラン様に嘘を信じ込ませて、手にかけたんでしょう⁉︎」
「くっ!ひ、ヒース、お前の方だって、どうせその嘘に乗っかって、純粋なユランの身体を弄ったんだろう」
*
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「エリス、美味しい紅茶をありがとう」
「お口にあってよかったです、ユラン坊ちゃま」
思わず強くエリスの腕を握ると、エリスがあらまあとユランの頭を優しく撫でてくれた。
(エリスって優しくっていいなぁ。包容力があって、お母さんってこんな感じなのかな。だったらいいな…)
病弱で儚い美人だったとは聞いてはいるが、母はユランが生まれてすぐに亡くなったためユランには母に甘えた記憶がなかった。
(前世でも、お母さんとはたまに病院に着替え持ってきてくれたけど、僕がお金ばっかり使う悪い子だったからお母さん怒ってばかりだったから…頭を撫でてもらったことはなかった…僕がだめな子だから…)
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いや…諦めない…
あつしくんも努力はきっと報われるって言っていた。頑張って強制力にあらがえば、みんなで幸せになれる道が開けるはず…)
ユランは目を瞑り何度も自分に言い聞かせた。
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