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プロローグ
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「私はマリーナ=ディミトロフ公爵令嬢との婚約を破棄する。そしてこのアマンダ=ディミトロフ公爵令嬢と婚約することをここに宣言しよう」
高らかに宣言する私の婚約者リチャード=ハワード王子は眉間に皺をよせ苦渋の表情をしている。
その横にはピンクゴールドの髪を靡かせた庇護欲をそそる少女アマンダ=ディミトロフが、王子の腕にべったりと張り付いている。
アマンダはしたり顔を隠そうともせず、ニヤニヤと私をみている。
どうやって答えたのかわからないほど、頭の中は混乱していた。義妹が王子と必要以上に接近しているとは聞いていたが、まさかこのような愚かな真似まで犯すとは思っていなかった。
さまざまのでっち上げた罪状を述べると、反論の機会も与えられず、自宅謹慎となった。
∞∞∞∞∞
「この恥さらしの娘がっ‼︎」
マリーナは殴る蹴るの暴行を加えられ床に倒れ込んだ。髪の毛を思い切り掴まれ、地下牢へ放り込まれた。
死ぬ事を望まれている。
このままゆっくりと朽ち果てることを。
初めて受ける圧倒的な暴力の元で、生きる気力が奪われるのを感じた。
∞∞∞∞∞
母の代わりにこの世に生を受けたマリーナを父の公爵は隠すこともしなかった。
父と母は生まれた時から婚約者であった。政略結婚には愛がないと言われるが、彼らには当てはまらなかった。片翼、離ればなれになった半身のように彼らは互いに求めあっていた。
小さな恋のロマンスをいずれ落ち着くのだろうと、周りは温かい目で見守っていたが、その熱は冷めることはなく年々高まっていた。
妊娠した母に医師は命の危険はないと言ったが、父は数%の危険性から堕胎を勧めた。母に代わるものなど何もない、と。
母は愛する父の血を引く子どもに手をかけることがどうしてもできなかった。
母の強い意志に根負けし、私はこの世に生を受けた。
生まれた時から忌み嫌われる存在。
∞∞∞∞∞
「まだ、生きてたの?しぶといわね」
地下牢に来るなりマリーナへ水をバシャっと頭からかけた。
全身から体温が静かに奪われていき、口がカタカタと小刻みに動き身震いする。
「…ハァっ…ハァっ」
言葉を紡ぐこともできない。
「あの女に似て忌々しい‼︎」
投げつけてきたバケツが頬に当たり、頬から血がぽたりと流れた。
義母は母の妹であり、母亡き後のスペアとして公爵家の後添えとなった。母と義母との関係はわからない。
父には母に代わる存在など必要なかった。誰も代わりにはなり得なかった。義母のことは後継を生むだけの存在としてしか捉えてなかった。
全ての恨みをぶつける存在。
∞∞∞∞∞
「お姉様、無様ですね。床に這いつくばって溝鼠のよう。あはは。地下牢がとてもお似合いですわ」
あぁ、汚くて私には無理ですわ、と入口から決して中に入ろうとはしない。
「……っ…」
絶望しているのに何故か涙が滲む。
「リチャード王子は私のもの。幸せになりますのでどうか底辺で見守っていてくださいね」
亡き母に生写しの私。義母にそっくりな妹。
私をマウントすることに存在価値を見出す悲しい妹。お金などは全て与えられていたが、愛情だけは恵まれなかった。
父の愛情は全て亡き母へ。
義母の愛情は全て父へ。
歪んだベクトルは決して向き合うことはなかった。
自らの立場を誇示する存在。
∞∞∞∞∞
牢の扉がカタッと開く音がした。
思わず取手に手をかけるとドアがパタンと開いた。
逃げよう。何故そう思ったのかわからない。
忍足で暗い廊下を抜け階段を登った。部屋には戻らずこのまま外へ行こう。
そう決心したとき、階段から思い切り突き落とされた。
頭から血がどくどくと流れるのを感じながら、パタパタと足音が遠ざかるのを聞いた。
高らかに宣言する私の婚約者リチャード=ハワード王子は眉間に皺をよせ苦渋の表情をしている。
その横にはピンクゴールドの髪を靡かせた庇護欲をそそる少女アマンダ=ディミトロフが、王子の腕にべったりと張り付いている。
アマンダはしたり顔を隠そうともせず、ニヤニヤと私をみている。
どうやって答えたのかわからないほど、頭の中は混乱していた。義妹が王子と必要以上に接近しているとは聞いていたが、まさかこのような愚かな真似まで犯すとは思っていなかった。
さまざまのでっち上げた罪状を述べると、反論の機会も与えられず、自宅謹慎となった。
∞∞∞∞∞
「この恥さらしの娘がっ‼︎」
マリーナは殴る蹴るの暴行を加えられ床に倒れ込んだ。髪の毛を思い切り掴まれ、地下牢へ放り込まれた。
死ぬ事を望まれている。
このままゆっくりと朽ち果てることを。
初めて受ける圧倒的な暴力の元で、生きる気力が奪われるのを感じた。
∞∞∞∞∞
母の代わりにこの世に生を受けたマリーナを父の公爵は隠すこともしなかった。
父と母は生まれた時から婚約者であった。政略結婚には愛がないと言われるが、彼らには当てはまらなかった。片翼、離ればなれになった半身のように彼らは互いに求めあっていた。
小さな恋のロマンスをいずれ落ち着くのだろうと、周りは温かい目で見守っていたが、その熱は冷めることはなく年々高まっていた。
妊娠した母に医師は命の危険はないと言ったが、父は数%の危険性から堕胎を勧めた。母に代わるものなど何もない、と。
母は愛する父の血を引く子どもに手をかけることがどうしてもできなかった。
母の強い意志に根負けし、私はこの世に生を受けた。
生まれた時から忌み嫌われる存在。
∞∞∞∞∞
「まだ、生きてたの?しぶといわね」
地下牢に来るなりマリーナへ水をバシャっと頭からかけた。
全身から体温が静かに奪われていき、口がカタカタと小刻みに動き身震いする。
「…ハァっ…ハァっ」
言葉を紡ぐこともできない。
「あの女に似て忌々しい‼︎」
投げつけてきたバケツが頬に当たり、頬から血がぽたりと流れた。
義母は母の妹であり、母亡き後のスペアとして公爵家の後添えとなった。母と義母との関係はわからない。
父には母に代わる存在など必要なかった。誰も代わりにはなり得なかった。義母のことは後継を生むだけの存在としてしか捉えてなかった。
全ての恨みをぶつける存在。
∞∞∞∞∞
「お姉様、無様ですね。床に這いつくばって溝鼠のよう。あはは。地下牢がとてもお似合いですわ」
あぁ、汚くて私には無理ですわ、と入口から決して中に入ろうとはしない。
「……っ…」
絶望しているのに何故か涙が滲む。
「リチャード王子は私のもの。幸せになりますのでどうか底辺で見守っていてくださいね」
亡き母に生写しの私。義母にそっくりな妹。
私をマウントすることに存在価値を見出す悲しい妹。お金などは全て与えられていたが、愛情だけは恵まれなかった。
父の愛情は全て亡き母へ。
義母の愛情は全て父へ。
歪んだベクトルは決して向き合うことはなかった。
自らの立場を誇示する存在。
∞∞∞∞∞
牢の扉がカタッと開く音がした。
思わず取手に手をかけるとドアがパタンと開いた。
逃げよう。何故そう思ったのかわからない。
忍足で暗い廊下を抜け階段を登った。部屋には戻らずこのまま外へ行こう。
そう決心したとき、階段から思い切り突き落とされた。
頭から血がどくどくと流れるのを感じながら、パタパタと足音が遠ざかるのを聞いた。
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