本能寺燃ゆ

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第五章「盲愛の寺」

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 その首が届いたと、殿に報せにいくと、乱が書状を手にして、何やら殿と話し込んでいた。

 太若丸の姿が見えると、さっとその書状を後ろに隠した。

 何か、内密な話か?

 お邪魔でしたかと訊くと、

「いや、何もない」

 と、殿は珍しく誤魔化した。

 普段は太若丸に隠し事などしないのに、おかしい………………と、訝しがりながらも、それには深く突っ込まずに、首が届いたと伝えた。

「うむ、左様か。あとで検分しよう」

 それと、羽柴様が此度の一件で御目通りを願っておりまするが………………と告げると、殿は露骨に嫌そうな顔をした。

「何にしにくる?」

 何って………………、三木での手柄を報せにくるのだろう。

「あいつの手柄話など聞いて、なんの得になる」

 まあ、確かに。

 しかし、十兵衛のときは喜んで話を聞き、褒美を与えていたが………………

「十兵衛は、両丹を見事に治めたのだから当然。あいつは、自ら播磨を抑えるなどといい、そして抑えたと報せを寄こした挙句に、別所の反抗にあったのではないのか? 自ら糞をしたケツを、自ら拭いただけのこと。それで何が褒められよう」

 仰る通りで。

「手柄話に安土までくる必要なし! そんなことをしている暇がなるのなら、今度はしっかりと播磨を抑え、二度と裏を返すものがなきよう、しっかりと足元を固めろと伝えろ」

 畏まり候と、腰を上げようとすると、

「待て、太若丸、来月には京にあがる故、宿の用意を。あとは、右衛門尉と十兵衛に京に来るように伝えてくれ。それから、京にいる間に、近衛殿にも御目通りを願えるか聞いておいてくれ」

 太若丸が部屋を出る間際にちらりと振り返ると、再び殿と乱は書状に目を落としていた。

 何事か、動き出すか?

 太若丸は、十兵衛と信盛に、京にあがるようにとの書状を送った。

 十兵衛の書状には、先ほどの殿と乱の様子も付け加えて………………こんなことまで書く必要はないなかと思ったが、どうも様子がおかしいし、十兵衛からは殿の細かいことでも知らせてくれと、そして乱には重々注意してくれと言われていたので、書き加えた。

 十兵衛からは、早々にあがるとの返事があった ―― 乱のことは、十分に気を付けてくれと書かれていた。
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