本能寺燃ゆ

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第五章「盲愛の寺」

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 神無月に入り、ことが急に動き出した。

 やはり、慎重に待つということが肝要だ。

 十五日、滝川一益が、佐治新介さじしんすけの仲介で敵の中西新八郎なかにししんはちろうと内通し、これが上臈塚の足軽頭であった星野左衛門ほしのざえもん山脇甚左衛門やまわきじんざえもん隠岐土佐守おきとさのかみ宮脇又兵衛みやわきまたべえを寝返らせた。

 一益は、これらの手引きで上臈塚に入り、多くの敵兵を討ち取った。

 生き残った敵兵は、命からがら城(有岡)へと逃げ込んだらしい。

 安土にいた信長は、この報せを聞き、

「でかしたぞ、伊予守(一益)!」

 と、大喜びした。

「滝川殿、さらに城周辺の武家屋敷に火を点け、一夜にして灰燼にきしました」

 使番の報せに、

「うむ、上々上々」

 と、酷く機嫌が良い。

「さらには……」、使番の喜ばしい報せが続く、「これを見た岸の砦の渡辺何某、これ以上荒木に加勢しても無用と思ったのか、砦を出て多田の館まで逃亡、その後、こちらに味方せんとの申し出がございましたが、滝川殿、事前に申し出ることなく不届きと、これを成敗!」

「うむ、それでよい!」

「鵯塚を守る野村何某というものも、多くの将兵を亡くし、首を垂れ、退却しようといたしましたが、これも許さず、切腹を命じました。まもなく、その首も届きましょう」

「うむうむ」

 殿は、嬉しそうに何度も頷く。

 ちなみに、その野村丹波守という男、荒木摂津守(村重)の妹を妻にしていたようで、その女は夫の跡を追うほどの悲しみようであったらしい。

「まあ、それも当代の習わし、武家の娘として生まれ、侍の妻となれば、それも覚悟の上であろう。まったく、儂を罵ったあの女の方が、まるで侍の娘ではないか」

 まあ、それはどうかと思うが………………

「ともかく……」、使番は引き続き話す、「北の岸の砦、西の上臈塚の砦、南の鵯塚の砦、これを悉く落とし、武家屋敷も焼き払い、いまや城は丸裸、四方から攻め寄せ、風前の灯! 城方、助命のため城明け渡しを願っておりまするが、これを許さず、攻撃を続けておりまする」

「あい分かった、相手方が何を言ってこようとも、決して折れることなく、攻撃を続けよ!」

「畏まり候」と、使番は飛び出していった。

「うむうむ、摂津も動きはじめたな」
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