415 / 498
第五章「盲愛の寺」
28
しおりを挟む
「で、他には?」
「はっ……」、貞勝は書面に視線を落とす、「些細なことなれば……、ひと売りの女を捕らえました」
当代、ひと売りひと買いなどは当たり前。
市が立つほどだ。
斯く言う太若丸も、山賊から八郎に売られ、八郎からひと買い婆に売られ、さらに婆から御山に売られたのだが………………
表向き、貴重な働き手である女子どもを売り買いされてはと、これを禁じている領主も多いが、逆に戦になって他の領国へと攻め込めば、人攫いなど当たり前で、これを奴隷にしたり、売り払って金にすることもある。
なかには、南蛮からの品物が欲しいと ―― 特に鉄砲の火薬に関するものだが、これの入手のために、領主自ら領民を掻っ攫い、南蛮人に売り渡しているという噂も耳にする。
殿は、自らの領地では当然こと、戦場においてもこれを禁じている。
「帝のおられる京でひと売りとは、不届きな輩じゃな。どのような女か?」
「下京場之町の木戸番を勤めるものの女房にござりまするが、これが人攫いをやって、堺辺りで売り飛ばしていたとか、その数………………八十あまり!」
殿は、大笑いした。
「まことか? 女だてらに八十人も掻っ攫い、売り飛ばしておったか!」
「笑い事では………………」
貞勝の言うとおりである
「いや、すまん、すまん、なかなか肝の座ったやつじゃなと思うてな。しかし、よくもまあ、人攫いなどしようとしたものだ。金に困っておったのか?」
「いえ、女房におさまる前から、御山の下で商いをしていたそうで。御山がああなってからは、京に移って商いをしていたとか」
御山の下というと………………もしかして、あの婆か?
いや、婆はあのころですでにいい歳だ、もう生きてはいまい、たとえ生きていようとも、商いができるほどではあるまい。
では、誰が………………?
あそこには、婆に買われた女たちが、男たちに春を売っていたが………………もしかして、その中のひとりか?
いや、それもあるまい。
あそこでひと売りをしていたのは、婆の他にもたくさんいたはずだ。
「して、その女、如何にする?」
「もちろん、首を刎ねまする」
「その度胸は、なかなか惜しいものがあるが……、まあ、致し方あるまい」
「ならば、左様に」
「はっ……」、貞勝は書面に視線を落とす、「些細なことなれば……、ひと売りの女を捕らえました」
当代、ひと売りひと買いなどは当たり前。
市が立つほどだ。
斯く言う太若丸も、山賊から八郎に売られ、八郎からひと買い婆に売られ、さらに婆から御山に売られたのだが………………
表向き、貴重な働き手である女子どもを売り買いされてはと、これを禁じている領主も多いが、逆に戦になって他の領国へと攻め込めば、人攫いなど当たり前で、これを奴隷にしたり、売り払って金にすることもある。
なかには、南蛮からの品物が欲しいと ―― 特に鉄砲の火薬に関するものだが、これの入手のために、領主自ら領民を掻っ攫い、南蛮人に売り渡しているという噂も耳にする。
殿は、自らの領地では当然こと、戦場においてもこれを禁じている。
「帝のおられる京でひと売りとは、不届きな輩じゃな。どのような女か?」
「下京場之町の木戸番を勤めるものの女房にござりまするが、これが人攫いをやって、堺辺りで売り飛ばしていたとか、その数………………八十あまり!」
殿は、大笑いした。
「まことか? 女だてらに八十人も掻っ攫い、売り飛ばしておったか!」
「笑い事では………………」
貞勝の言うとおりである
「いや、すまん、すまん、なかなか肝の座ったやつじゃなと思うてな。しかし、よくもまあ、人攫いなどしようとしたものだ。金に困っておったのか?」
「いえ、女房におさまる前から、御山の下で商いをしていたそうで。御山がああなってからは、京に移って商いをしていたとか」
御山の下というと………………もしかして、あの婆か?
いや、婆はあのころですでにいい歳だ、もう生きてはいまい、たとえ生きていようとも、商いができるほどではあるまい。
では、誰が………………?
あそこには、婆に買われた女たちが、男たちに春を売っていたが………………もしかして、その中のひとりか?
いや、それもあるまい。
あそこでひと売りをしていたのは、婆の他にもたくさんいたはずだ。
「して、その女、如何にする?」
「もちろん、首を刎ねまする」
「その度胸は、なかなか惜しいものがあるが……、まあ、致し方あるまい」
「ならば、左様に」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
1333
干支ピリカ
歴史・時代
鎌倉幕府末期のエンターテイメントです。
(現在の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から、100年ちょい後の話です)
鎌倉や京都が舞台となります。心躍る激しい合戦や、ぞくぞくするようなオドロオドロしい話を目指そうと思いましたが、結局政治や謀略の話が多くなりました。
主役は足利尊氏の弟、直義です。エキセントリックな兄と、サイケデリックな執事に振り回される、苦労性のイケメンです。
ご興味を持たれた方は是非どうぞ!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
大航海時代 日本語版
藤瀬 慶久
歴史・時代
日本にも大航海時代があった―――
関ケ原合戦に勝利した徳川家康は、香木『伽羅』を求めて朱印船と呼ばれる交易船を東南アジア各地に派遣した
それはあたかも、香辛料を求めてアジア航路を開拓したヨーロッパ諸国の後を追うが如くであった
―――鎖国前夜の1631年
坂本龍馬に先駆けること200年以上前
東の果てから世界の海へと漕ぎ出した、角屋七郎兵衛栄吉の人生を描く海洋冒険ロマン
『小説家になろう』で掲載中の拙稿「近江の轍」のサイドストーリーシリーズです
※この小説は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』で掲載します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
【完結】電を逐う如し(いなづまをおうごとし)――磯野丹波守員昌伝
糸冬
歴史・時代
浅井賢政(のちの長政)の初陣となった野良田の合戦で先陣をつとめた磯野員昌。
その後の働きで浅井家きっての猛将としての地位を確固としていく員昌であるが、浅井家が一度は手を携えた織田信長と手切れとなり、前途には様々な困難が立ちはだかることとなる……。
姉川の合戦において、織田軍十三段構えの陣のうち実に十一段までを突破する「十一段崩し」で勇名を馳せた武将の一代記。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる