本能寺燃ゆ

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第五章「盲愛の寺」

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「で、他には?」

「はっ……」、貞勝は書面に視線を落とす、「些細なことなれば……、ひと売りの女を捕らえました」

 当代、ひと売りひと買いなどは当たり前。

 市が立つほどだ。

 斯く言う太若丸も、山賊から八郎に売られ、八郎からひと買い婆に売られ、さらに婆から御山に売られたのだが………………

 表向き、貴重な働き手である女子どもを売り買いされてはと、これを禁じている領主も多いが、逆に戦になって他の領国へと攻め込めば、人攫いなど当たり前で、これを奴隷ぬひにしたり、売り払って金にすることもある。

 なかには、南蛮からの品物が欲しいと ―― 特に鉄砲の火薬に関するものだが、これの入手のために、領主自ら領民を掻っ攫い、南蛮人に売り渡しているという噂も耳にする。

 殿は、自らの領地では当然こと、戦場においてもこれを禁じている。

「帝のおられる京でひと売りとは、不届きな輩じゃな。どのような女か?」

「下京場之町の木戸番を勤めるものの女房にござりまするが、これが人攫いをやって、堺辺りで売り飛ばしていたとか、その数………………八十あまり!」

 殿は、大笑いした。

「まことか? 女だてらに八十人も掻っ攫い、売り飛ばしておったか!」

「笑い事では………………」

 貞勝の言うとおりである

「いや、すまん、すまん、なかなか肝の座ったやつじゃなと思うてな。しかし、よくもまあ、人攫いなどしようとしたものだ。金に困っておったのか?」

「いえ、女房におさまる前から、御山の下で商いをしていたそうで。御山がああなってからは、京に移って商いをしていたとか」

 御山の下というと………………もしかして、あの婆か?

 いや、婆はあのころですでにいい歳だ、もう生きてはいまい、たとえ生きていようとも、商いができるほどではあるまい。

 では、誰が………………?

 あそこには、婆に買われた女たちが、男たちに春を売っていたが………………もしかして、その中のひとりか?

 いや、それもあるまい。

 あそこでひと売りをしていたのは、婆の他にもたくさんいたはずだ。

「して、その女、如何にする?」

「もちろん、首を刎ねまする」

「その度胸は、なかなか惜しいものがあるが……、まあ、致し方あるまい」

「ならば、左様に」
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