本能寺燃ゆ

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第五章「盲愛の寺」

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 出馬の仕度をしている最中に、相模の北条氏政・氏照うじてる兄弟が鷹三羽を献上してきた。

「これは……、どういう風の吹き回しかのう?」

 意味合いとしては、ふたつ ―― まあ、お互い仲良くやりましょうよ………………か、

「大殿の威勢に恐れをなして、首を垂れてきたのではございませぬか?」

 と、京都所司代村井吉兵衛貞勝むらいきちべえさだかつが口を開いた。

「いや、あまりに調子が良いというか……」

 殿が首を傾げるので、貞勝は太若丸をみた。

 太若丸は、先般家康の使番がやってきた話をした。

「ほう、左様なことが………………」、貞勝は驚いている、「それはまるで、徳川殿から北条へ話が漏れておるような………………」

 武田に対するため、北条家と縁を結びたい家康と、徳川家と縁を結びたい氏政 ―― 殿の心情を慮って、先手を打ってきたのだろう。

「羽林殿も、あまり信用におけぬな………………、まあ、鷹に罪はない。ありがたく受け取っておこう。それで、なにようか?」

 ここからは、貞勝の本題である。

「昨日の蹴鞠の会、公家様方からお礼がございました」

「うむ、左様か。喜んでおられたか?」

「それはもちろんにござりまする」

 蹴鞠の会を催したのは、信長の銭である。

 もちろん、土産にと金や衣服も贈った。

 貧乏公家どもが、満足しないわけはない。

「それは良かった」

「その際に話がでましたが、東宮様へこの屋敷をご献上する件、帝へご奏上くださるとのこと」

「それも上々」

 と、殿は喜んでいる。

 二条邸は、殿が京にあがってきたときの本邸である。

 天正四(一五七六)年、安土の築城とともに、京にも常宿を儲けようと、前関白二条晴良にじょうはるよしの跡地を譲り受け、京の人々が驚くような荘厳な屋敷を立ててやれと、貞勝に普請を命じた。

 主殿は、松永弾正久秀まつながだんじょうひさひでの居城であった多聞山城から移築し、さらに中も金銀が散りばめられ、壁や襖も色とりどりの絵で飾られ、庭には舟遊びができるほどの池が設けられ、呆れるほど豪華な造りである。

 まもなく普請が終わるが、突如これを東宮(誠仁親王さねひとしんのう)に献上すると殿が言い出したのだから、貞勝は大慌て。

 武家伝奏の勧修寺晴豊かんじゅうじはるとよや他の公家らの伝手を使い、色々と探らせていたようだ。
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