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第五章「盲愛の寺」
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「おぬし、いまなんと言うた?」
「は、はっ……、その………………、宇喜多和泉守殿(直家)に、しょ、所領安堵の……、しゅ、朱印状を、い、いた、いた、頂き、頂き、頂きたいと………………」
どうやら宇喜多直家に、いままでの所領を全て安堵するからという条件で、降伏を促したらしい。
直家は、それならと首を垂れたそうだ。
「誰が、そのようなことを約した? 誰の命じゃ?」
殿は、秀吉をまるで親の仇のように睨みつける。
「〝猿〟、おぬしの一存か!」
「いえ、その………………」
「おぬしらか!」
殿は、長頼ら近習を睨みつける。
長頼、長谷川秀一、矢部家定の三人は、「滅相もござりませぬ」と、慌てて首を振った。
殿は、秀吉に向き直り、
「出過ぎた真似をするな! この儂にひと言も断りもなく、勝手に所領安堵など約するとは、言語道断!」
と、怒鳴り上げる。
「も、申し訳ございませぬ!」
秀吉は、額を床に擦りつけて平謝り。
「それでなくともおぬしは、以前に修理亮から勝手に兵を戻すなど、独断が多すぎる!」
そういえば以前に、北陸攻めの際に総大将柴田勝家と意見が合わぬといって、勝手に陣から離れたことがあったな………………いわば、あれが切っ掛けのようのものだ。
「先も、おぬしが是非にと願ったので与力につけた半兵衛(竹中重治)を見殺しにするなど、その行い、目に余る!」
重治は病死であり、秀吉も療養するために陣を抜けるよう促したらしいが、これを重治が武人の誇りにと断ったのだから、そこは聊か言いがかりのような気もするが。
「首を出せ! ここで、その猿頭、叩き斬ってやるわ!」
殿は、刀を寄こせというが、太若丸と近習たちで抑え、宥めた。
「おぬしの顔など、二度と見とうもないわ! とっとと失せろ!」
殿のあまりの怒りに、秀吉はまるで転がるように部屋を出て行った。
「は、はっ……、その………………、宇喜多和泉守殿(直家)に、しょ、所領安堵の……、しゅ、朱印状を、い、いた、いた、頂き、頂き、頂きたいと………………」
どうやら宇喜多直家に、いままでの所領を全て安堵するからという条件で、降伏を促したらしい。
直家は、それならと首を垂れたそうだ。
「誰が、そのようなことを約した? 誰の命じゃ?」
殿は、秀吉をまるで親の仇のように睨みつける。
「〝猿〟、おぬしの一存か!」
「いえ、その………………」
「おぬしらか!」
殿は、長頼ら近習を睨みつける。
長頼、長谷川秀一、矢部家定の三人は、「滅相もござりませぬ」と、慌てて首を振った。
殿は、秀吉に向き直り、
「出過ぎた真似をするな! この儂にひと言も断りもなく、勝手に所領安堵など約するとは、言語道断!」
と、怒鳴り上げる。
「も、申し訳ございませぬ!」
秀吉は、額を床に擦りつけて平謝り。
「それでなくともおぬしは、以前に修理亮から勝手に兵を戻すなど、独断が多すぎる!」
そういえば以前に、北陸攻めの際に総大将柴田勝家と意見が合わぬといって、勝手に陣から離れたことがあったな………………いわば、あれが切っ掛けのようのものだ。
「先も、おぬしが是非にと願ったので与力につけた半兵衛(竹中重治)を見殺しにするなど、その行い、目に余る!」
重治は病死であり、秀吉も療養するために陣を抜けるよう促したらしいが、これを重治が武人の誇りにと断ったのだから、そこは聊か言いがかりのような気もするが。
「首を出せ! ここで、その猿頭、叩き斬ってやるわ!」
殿は、刀を寄こせというが、太若丸と近習たちで抑え、宥めた。
「おぬしの顔など、二度と見とうもないわ! とっとと失せろ!」
殿のあまりの怒りに、秀吉はまるで転がるように部屋を出て行った。
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